サイエンス好きな男の日記

気が向いたときに、個人的なメモの感覚で書いているブログです。

相続税対策として配偶者に資産をどれほど残すべきか(3)

2023-05-23 06:48:00 | 資産運用

前回、相続税配偶者控除を考慮した、二次相続後の子供全員の遺産受取額 c2(p) を定式化しました。

ただ、それを解析的に解くことが困難なため、数値計算を行いました。
(数値が小さくてすみません。横が途中で切れてしまっている場合、ブラウザの横幅を広げていただくか、あるいは下にスクロールバーが出ているはずなので、そのバーをスライドさせてご確認ください。)

数値計算のパターンは全部で16通り。

 

n: 子供の数、a: 本人の資産、k: 配偶者の資産(対本人資産比)、p: 一次相続時に配偶者に相続する遺産割合

n は n=1, 2, 3, 10 の 4パターンとし、各nに対して本人の資産(a) が10,000(1億円)、20,000(2億円)、30,000(3億円)、40,000(4億円)の場合の計算結果を示しています。

子供の数と本人資産がそれぞれ4通りあるため、全部で4x4=16通りの表となります。

上半分が n=1, 2  そして下半分が n=3, 10 とし、各nについて、縦に a=10,000, a=20,000, a=30,000, a=40,000 の結果を示しています。

ある一つの表に着目すると、その表の縦は p (一次相続時に配偶者に相続する遺産割合) 、横は k (配偶者の資産(対本人資産比)) を示しています。

p は 0 ≦ p ≦  1 なので 0, 0.1, 0.2, ..., 1.0 としています。k は 0 ≦ k ですがここでは 1 までとしています。

そして、この表の値は、H(p) (二次相続後の子供全員の遺産受取額を本人および配偶者の合計資産で割った値)を示しています。

k を1よりも大きくするということは子供が相続する資産の大半は配偶者の資産であるため、相続税配偶者控除を考慮しない結果と一致します。

さらに、配偶者の資産は相続税の基礎控除を超えている状況ですから、相続税配偶者控除を考慮しない場合の結果である「配偶者の資産(b) が二次相続時の相続税の基礎控除をすでに超えている場合には、本人死亡時にはすべて子供へ相続 (p=0) させる。」ということから、H(p)を最大化するのは p=0 となります。

すでに計算結果から、k=0.6 の時点ですでに p = 0 が H(p) を最大にすることは自明なので、あえて k>1 を調べる必要がない、といえます。

 

例えば、本人の資産が2億円、配偶者の資産が4千万円であり、子供は二人の場合を考えます。

この場合、n=2,  a = 20,000 ですから、上から2番目、左から2番目の表が該当します。そして、k = 4,000/20,000 = 0.2 なので、その表において k=0.2 の列の中で最も高い数字を探すと、それは p=0.1 のときであり、H(0.1) = 0.89125 であることがわかります。

H(0.1) = 0.89125であるから実際の金額としては c2(0.1) = (a+b) x H(0.1) = (20,000 + 4,000) x 0.89125 = 21,390万円です。

つまり、二次相続後の子供全員が受け取る遺産を最大化するためには、本人死亡時には遺産はすべて子供たちに相続する場合であり、その結果、二次相続後に子供が受け取る遺産総額は 21,390 万円であることがわかります。

 

また、すべての表においていずれも p + k = 一定 という傾向であることがわかります。p は 一次相続時に配偶者に相続する遺産割合、k は配偶者の資産(対本人資産比)、そしてH(p)の最大値はいずれも p < 1/2 ですから、相続税配偶者控除により一次相続時における配偶者への相続税は非課税であるため、p + k は一次相続後の配偶者の資産(対本人資産比)であり、二次相続時の配偶者の遺産(対本人資産比)です。

この「一定」の値としてはおよそ以下の通りです。

a n
1 2 3 10
10,000 0.35-0.40 0.40-0.45 0.50 0.90
20,000 0.30-0.35 0.30-0.35 0.40 0.45
30,000 0.25-0.30 0.35 0.45 0.50
40,000 0.20-0.25 0.35 0.45-0.50 0.50

例えば、本人資産3億円、子供2人の場合、H(p) を最大化する p は、p = 0.35 - k  ただし、k ≧ 0.35 の場合には p = 0 であるといえます。

また、子供の数を10人に増やしたとしても本人の資産が多ければそれほど大きくは変わらないようなので、おおよそ上記の「一定」の値は  0.3~0.4ぐらい、つまり p = (0.3 ~ 0.4)  - k  と覚えておけば、そうそう大きく外れることはなさそうです。本人の資産が1億円以上かつ子供の人数が3人ぐらいまでであれば  p < 1/2 ですから、相続税がどうなるのか気になるほどの資産を持ち、かつ、通常の家族構成であれば、二次相続後の子供全員の遺産受取額を最大化する場合、配偶者への相続はすべて非課税となりそうです。

 

まとめると

二次相続後の子供全員の遺産受取額を最大化するためには、一次相続後の配偶者の資産が、本人資産のおよそ3~4割ぐらいになるように本人資産を相続し、残りは子供に相続する。すでに配偶者の資産が本人資産の3~4割以上であればすべて子供に相続する。

たとえば、本人資産が3億円の場合、配偶者の資産が無い場合にはおよそ1億円ぐらいを配偶者に相続し、残り2億円は子供たちに相続したほうが良い、ということになります。

しかし、これでは本人死亡後の配偶者の資産は二次相続時の相続税控除額を大きく超えてしまいます。相続税配偶者控除を考慮しない場合の結論を思い出せば、相続税を低く抑えるには、相続税控除額(3000+600xn)以内に抑えたほうが良いように思えますが、なぜでしょうか。

 

相続税配偶者控除が無い場合、一次相続の相続税は配偶者への相続の額によらず、本人資産と相続人の数によってのみ決まります。したがって、配偶者への遺産は一次相続時だけでなく、二次相続時(配偶者死亡時)においても再度その資産に対して相続税がかかってきてしまいます。

しかし、相続税配偶者控除がある場合、配偶者への遺産については、その一部(二次相続後の子供全員の遺産受取額を最大化する場合は全額)が非課税となります。したがって、配偶者死亡時に初めて、配偶者への遺産が相続税の対象となるわけです。

では、本人死亡時と配偶者死亡時でどちらの場合にその資産を相続税の対象とするべきか、と考えると、相続税の税率が低い場合。配偶者の資産が本人資産よりも少ない(k < 1)場合には、二次相続時の税率は一次相続時よりも低いため、相続税控除額を超えたとしても、本人から配偶者への遺産相続をある程度はしたほうがよい、ということになります。

本人から配偶者への遺産相続を行うことで、税率が高い一次相続時の相続税支払いを減らし、税率が低い二次相続時に相続税を支払うことで、より多くの資産を子供に残すことができる、ということです。

先ほどの計算結果の表で、もし相続税配偶者控除が無かったとすると、例えば n=2, a = 20,000 の場合は以下になります。

この場合、p + k = 0.2 となります。つまり、(p + k) x a = 0.2 x 20,000 = 4,000 となります。これは二次相続時の配偶者の資産が 4,000 を超えると相続税の支払い額が増えてしまう、ということを意味します。そして、これは二次相続時の相続税控除額 3,000 + 600 x 2 = 4,200 と同程度の値を示していることからも、先ほどの説明が正しいことがわかります。

最後に、この計算では、配偶者が一次相続した後、配偶者がなくなるまでの間、その資産額が変わらないとしていますが、実際には資産運用でさらに増えることも、逆に消費して減ることもありますので、実際にはそのあたりのことも考慮しなくてはいけないことは言うまでもありません。

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