今回は不動産事業で最低限必要な利回りはいくらなのかを検討したいと思います。
不動産投資はやってみないとわからない、さまざまな要因によって収益性は大きく変わるのでシミュレーションはあまり意味がない、という意見も聞きます。
それはある意味正しいと思います。実際、予想通りにいくとは私も思ってはいません。しかし、だからこそ、不確定要素については安全を見た数字を使い、悪くてもこの程度は収益が得られる、ということを把握しておくことが重要だと思います。
そして、その収益性に満足できる条件を物件購入の条件にすることで、予想外の事態に直面しても、すぐに収益がマイナスにはならないわけですから安心して対応することができます。
さて、前回、区分マンションはあきらめたわけですが、戸建物件や1棟アパートや1棟マンションなどもあるわけで、これらについて簡単に検証してみます。
条件としては、
- 利回り:9%, 10%, 11%, 12%
- 修繕費用:物件価格の2%(年間)
- 賃貸管理費用:家賃の5%(毎月)
- 固定資産税:物件価格の0.55%(年間)
- 購入時の諸費用:5%
- 不動産取得税、仲介手数料(購入時および売却時)も考慮
- 空室率:95%
上記の”利回り”とは、物件購入額と家賃から計算される、いわゆる表面利回りを意味します。物件購入額は、物件売却額と同じで、仲介手数料や諸経費等は一切含まれません。ポータルサイト等で示されている金額そのものです。
売却について
- 15年後に売却
- 売却時の家賃はもとの90%
- 売却時の利回り:購入当初の利回り+1.2%
したがって、売却額は上記の家賃と利回りから求める額とする。(売却額はもっと低い可能性がありますね…)
融資について
- 25年元利均等払い2.5%固定金利
イメージとしては、築20年、購入額5000万円くらいの1棟アパートをイメージしています。
この場合に、利回りとLTV(借入金比率)によって、DCR(借入金償還余裕率)とIRR(内部収益率)がどう変わるかを調べました。
(補足)
- LTV(借入金比率)
- 物件購入額に諸経費を加えた金額のうち、どれだけの割合に対して借入したかを示す指標です。LTV=1ならオーバーローンとなります。
- DCR(借入金償還余裕率)
- 借入返済の確実性を示す指標です。DCRは1.1以上は欲しいところです。1.3以上であれば安心です。頭金を増やす、もしくはローンの期間を延ばす、金利を低く抑えることでDCRは高まります。
- IRR(内部収益率)
- 内部収益率は、他の指標と異なり、物件売却も考慮した、総合的な利回りです。分かりやすく言うと、自己資本をどれほどの利回りで運用したことになるのか、を示します。
この3つの指標の関係について触れておくと、LTVが大きい、つまり借入額の割合が大きいと返済がきつくなります。したがってDCRは小さくなる傾向にあります。一方、借入金額の割合が大きいとレバレッジが効くため、IRRは大きくなります。したがって、DCRとIRRの2つの指標から最適なLTVを予測できます。
以下では、利回り9%, 10%, 11% の場合にそれら指標を評価した結果を示します。
利回り9% の場合
LTV | 90% | 80% | 70% |
---|---|---|---|
DCR | 0.97 | 1.09 | 1.25 |
IRR | 8.0 | 6.0 | 5.1 |
投資家を抵当権者とした社債(社債発行額と抵当権設定額が同額)を最近購入しており、その利回りは7%あります。したがって、不動産事業はそれよりもリスクが高いと考えられるため、IRRは7%以下では投資対象としないと考えています。さらに、DCRはいずれも1.3未満であり、返済がきつくなる可能性があります。したがって、利回り9%では投資対象となりえない、となりました。
利回り10% の場合
LTV | 90% | 80% | 70% | 60% |
---|---|---|---|---|
DCR | 1.15 | 1.29 | 1.48 | 1.72 |
IRR | 15.4 | 10.2 | 8.1 | 7.0 |
上記は、DCR>1.3となるのは、LTV<80%です。したがって、利回り10%なら、LTV=70%前後がバランスがいいですね。返済期間を25年よりも長くとれるのであれば、LTV=80%でも大丈夫です
利回り11% の場合
LTV | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% |
---|---|---|---|---|---|
DCR | 1.3 | 1.49 | 1.70 | 1.99 | 2.39 |
IRR | 24.0 | 14.7 | 11.2 | 9.3 | 8.2 |
上記は、すべてのケースでDCR>1.3 であり、IRR もおおむね問題なさそうです。したがって、LTV>50%であれば問題ないといえます。
利回り12% の場合
LTV | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% | 20% | 10% | 0% |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
DCR | 1.47 | 1.65 | 1.89 | 2.20 | 2.64 | 3.30 | 4.40 | 6.60 | 13.2 | - |
IRR | 31.5 | 18.4 | 13.7 | 11.3 | 9.7 | 8.7 | 7.9 | 7.3 | 6.8 | 6.4 |
上記は、すべてのケースでDCR>1.3 であり、またIRRもおおよそ7%以上です。したがって、12%以上であれば全額自己資金でもよいと考えます。
以上から、IRRが7%以上を求めるなら、利回り11%以上を目指すべきです。もし10%程度であれば、借入金は70%程度とするか、もう少し返済期間を長くできるなら借入金を80%まで増やしてもリスクを抑えることが可能と思います。
※ 当然ながら、多くの仮定をしていますので、参考程度に。