詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

飛行中

2016年08月17日 | 
飛行機の窓の外を見ていた
日は落ちて光だけ残っていた
地上では見えない赤が見える
雲が縁取った地球の形があり
赤はその雲の影絵を浮き上がらせる帯だった
闇の底では街の灯りの絨毯が退いていった
テリーヌのような二層の世界があった

写真を撮ろうと構えると
ガラスの抵抗にあう
明るい機内を強固に映し返してくる
視線とは、見えない線のことで
それはガラスを透過して
やすやすと濃紺の向こうへと届く

イヤホンを耳に押し込み
チャンネルを回した
ゴオオという音に
クラシックポップスタンゴが
かるがると乗っている
しっとり落ち着いた声のナレーション
小さく閉じ込められた頭の中で
品のいい部屋のように丸くひろがっている
マホガニーという言葉のように

機内誌をめくる
上質な旅、上質な暮らし
おしゃれな写真、おしゃれな文章
万年筆のためのコラム
物へのこだわりが人生への色気を感じさせる……かぁ
かっこいい仕事をしていて
世界中を飛び回っていて
そんな人が飛行機のシートに座っているところ
目に浮かぶ
顔はフレームアウトしている
そんな人生を送れると
わたしは思ったこともなかったな
自分からつかみに行くのだろうな
そういう人は
あらゆるものを
わたしは待ってしまうから

その万年筆は日本製で
富士山の標高がそのまま名前だと書いてあったから
勘違いすることなどないのに
そのぽってりした形を思い出すと
思わずモンブランになる
いつも百円のペンを使っているから

こんな色の万年筆を持っている人を見たら
やりますね、と思う、と書く
それこそやり手らしい執筆者の思惑に
まんまとはめられて
思わず買いたくなってしまうけど
上質なんて言葉を思い浮かべたのは
雲の上に浮かんでいたからなのだと思う
コメント
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