時事解説「ディストピア」

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日露共同研究プロジェクトについて

2015-05-22 00:29:28 | ロシア・ウクライナ
日本とロシアの学者が共同で本を執筆するプロジェクトが進行中らしい。

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露日の協力が実った好例となったのが
両国の研究者グループによって出された露日関係史についての1冊。

そのロシア語版のパイロット本のプレゼンテーションは今日、
5月21日東京で開催されたフォーラム「未来の露日関係への視点」に合わせて準備されている。

このフォーラムには現在、日本を公式訪問中の
セルゲイ・ナルィシキン下院(国家会議)議長も出席した。

ナルィシキン氏はロシア語版の方で読者ヘ向けた挨拶文を載せてもいる。

本のプロジェクトの長を務めるのはモスクワ国際関係大学の学長で
アカデミー学者のアナトーリー・トルクノフ氏。

露日の研究者集団の作業を直接的に牽引しているのは
ロシア側はモスクワ国際関係大学東洋学科のドミトリー・ストレリツォフ学科長と、
日本側は法政大学法学部の教授でヴァルダイ・クラブのメンバーでもある下斗米 伸夫教授。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/opinion/20150521/360924.html#ixzz3amsufbVl

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あのトルクノフと下斗米が仕切っているという時点で
内容は推して知るべしだが、まぁ一応学術書の水準にはなっているのだろう。
(私は買わないけど)


重要なのは、下斗米も述べているように、
別にこれが両国の政治見解に基づいたものではないということ。


ロシアには、それなりに反プーチン派というか、
下斗米いわく改革派、西洋主義者がいるわけで、トルクノフはその典型的人物だと思う。


つまり、はじめから語る人間は選別されているわけで、
その辺が本プロジェクトが特に問題なく進んだ背景にある。


下斗米本人も次のように述べている。

「日本はかつて中国や韓国と一緒に関係史を編もうと
 類似したプロジェクトをたてたことがありましたが、
 それとは異なり、この露日プロジェクトは成功したと思います。

 中国、韓国とのプロジェクト実現化の過程では
 過去の歴史の事実、時代の評価があまりにも異なったため、
 共通した見解にたどり着くことはできませんでした。

 ところが露日プロジェクトではそうした大きな矛盾や対立点はありませんでした。

 3年にわたる作業のなかで3度の公式的会談と非公式的会談が1度催されており、
 常時欠かすことなくコンタクトがとられてきました。

 プロジェクトは露日関係の、つまりロシア人と日本人が
 コンタクトを持った最初の瞬間からの全期間を網羅しています。

 とはいえ、一番の力点は20世紀に置かれています。

 つまり両国関係の拡大の主な段階は20世紀にあるととらえられていること、
 そしてプラスして領土問題、日本兵抑留問題、互いをどう受け止めているか
 というような問題点も個別のテーマとして取り上げられています。」

続きを読む http://jp.sputniknews.com/opinion/20150521/360924.html#ixzz3amtHCdiU


なんだか日中韓の各学者による歴史教材作りについて軽くディスってるが、
これは恐らく、日中共同歴史研究についての批判なのだろう。

これは集団的自衛権の支持者というか提唱者である北岡伸一が
主導した研究プロジェクトだった。まぁ、結果は言わずもがなだ。


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日中歴史共同研究について、日本側座長の北岡伸一氏の談話が「読売新聞」に載っていた。

それによれば、日本の侵略戦争や南京虐殺事件について
日本側が認めたとする中国側の言い分にたいして、北岡氏が次のように反論している。


中国側は今回の研究で、日本が中国を侵略したことや
南京虐殺を認めたことが成果だと言っているが、議論した結果
そうなったのではなく、そもそも日本では多くの歴史家や政府も侵略と南京虐殺を認めている。



しかし、もし日本側が最初から日本の侵略や南京虐殺を認めていたのであれば、
日中歴史共同研究ということ自体が提起されなかったのでは? 



そもそも、日中歴史共同研究は、小泉元首相が靖国神社参拝を強行し、
さらに日本の侵略を否定する安倍晋三氏が首相になる、という事態の中で、
日本側が提起して始まったもののはず。


それをいまさら「日本の侵略や南京虐殺は日本は元々否定していなかった」
などと言うのは、あまりに不誠実ではないだろうか。

http://ratio.sakura.ne.jp/archives/2010/02/01221120/
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こういう部分でも、微妙に下斗米らしさが滲み出ているわけだが、
上の北岡などは存外、正直で、共通の歴史像が描けなかったから
パラレル・ヒストリーという手法をとったと告白している。


この点、下斗米は
「この研究の目的はいわゆるパラレル・ヒストリーですから、
 日本とロシアでどの問題についてどれだけ違いがあるかということを
 互いに民間の立場で調べるということでした。

 ですから各国を代表する歴史家、国際政治の専門家が書いていますが、
 これは個人の見解であって、政府の見解を述べているわけではありません。

 にもかかわらず、私はこれは大変成功したのではないかと思います。
 その理由は、情報、意見がお互いに違うことを前提に研究を始めたのですが、
 意外に接点があることがわかりました。

続きを読む http://jp.sputniknews.com/opinion/20150521/360924.html#ixzz3amx72FIe

と、まぁプロジェクトの主導者の一人だから、
立場上そう言う他は仕方ないが、同プロジェクトの絶賛に終始している。


しかし、日中共同歴史研究が失敗ならば、日露の共同歴史研究もまた、
パラレルヒストリーの形にせざるを得なかったのだから、
下斗米論に従えば、これもまた失敗だったとは言えるのではないだろうか?



細かい部分にケチをつけて申し訳ないのだが、
私はこの学者のくせに妙に役人というか社員というか、
俗っぽいというか、八方美人と言うか、このロシア研究者の姿勢には
大きな抵抗を覚えてしまう(いわゆる佐藤優現象)。


なお、日中韓では、政府によるものではなく民間が立ち上げたものとして
『未来をひらく歴史』というものが10年ほど前に出版されている。


これは新しい教科書をつくる会や日本の右傾化に対応して
笠原十九司氏などの歴史学者が主導して執筆したものだ。

この本自体、なかなか読み応えのある内容なのだが、
日本の右傾化に対応するという目的のもと編まれた本ゆえに、
女性史などのテーマ史が端に置かれてしまった。その弱点を克服するべく、
『新しい東アジアの近現代史』というのが2012年に日本評論者から出版された。


つまり、少なくとも市民社会のレベルでは日中韓の共同歴史研究は上手く言っている。
とはいえ、これは10年以上に渡る学者間の討論によってようやくかなったものだ。


逆に、少なくともロシア下院議長が関与しているように政府の息がかかり、
かつごく短期間で特に問題なく仕上げられたという言葉を聞くと、
どうもこれは国同士の一種の仲良しパフォーマンスで終わったのではないかと疑ってしまう。

まぁ、読むに越したことは無いが、読まなくてもよい代物なのだろうと思う。