ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

福岡伸一の幻想を破壊してみた

2010-02-19 21:26:19 | 福岡伸一
 独特の見解で生物多様性について語る福岡氏は生き物の関係についても非常に独特(悪く言えば過去の遺物)な見方をします。たとえば新聞記事でこのようなことを言っています。

>福岡:私は子供のころから昆虫が好きで、チョウを自分の手で育てていました。そのころに気づいたことがあります.例えば、アゲハチョウの幼虫は、ミカンやサンショウの葉しか食べません。一方、アゲハチョウにたいへん近い種のキアゲハの幼虫は、パセリやニンジンの葉しか食べません.いずれも、どんなにおなかがすいても、決められた食べ物以外は決して食べないのです。
このように、あらゆる生物は自分が食べる食べ物の種類を厳しく限定しています.これは生物が生存する場所、あるいは発する声の周波数にも当てはまります。ほかの種の領域を侵さないように自分の分際を守る。そして、ほかの種との無益な争いを避ける。それが生物多様性を支える厳格な基本原理です。

ナショナルジオグラフィックでもこのように話しています。

>生物というのは自分の食べ物を非常に限定しています。しかし、栄養素としてみれば、アゲハチョウの幼虫はミカンの葉でないとダメなことは何もないのです。どんな植物であっても食べて消化すれば、たんぱく質、アミノ酸、脂質、そしてビタミンはそれらから摂取できるわけです。しかしアゲハチョウはどんなにお腹が空いていてもキアゲハが食べるパセリを食べない。幼虫はみかんの葉が無ければ餓死して死んでしまいます。

この蝶と食草の関係は福岡氏のお気にいりなようですね。じゃ、この幻想破壊してみよっか。
まず、基本的な事実から述べますと、植物は食べられることを防ぐために葉や根にアルカロイド系などの毒物を持っています。わかりやすい例でいえばトリカブトが代表例ですし、身近なところではジャガイモがソラニンという物質を含んでいます。葉や根を食べられるのは成長や生死にかかわりますから、よほどのメリットでもない限りそういうことは植物としては避けたいわけです。そのために棘や各種毒物で自衛します。
 これは蝶と食草の関係についてもあてはまります。植物側は葉を食べられたら生きていけないので葉に毒物を持って葉を食べるやつらを排除しようとします。それに対し食べる側の蝶もその毒物を解毒するような酵素を進化させて対応します。そして植物もさらに防御を多様化、強化して、それに応じて蝶も対抗していって・・・という流れになります。これを「軍拡競争」といいます。この結果、蝶は自分の食草しか食べられないスペシャリストになりました。
このように蝶の場合は特定の解毒に特化したが故に汎用性を持っていません。自分の食草以外のものは植物の毒によって食べられない。無理に食べたら最悪死にます。たとえ死ななくても成長が阻害されたりしますので、同種内での競争に勝って子孫を残すのに不利です。

福岡氏の場合は栄養だけに着目して植物の防御戦略についてまったく考察していません。だから、ああいう分を守っているとか素人丸出しのことが言えるわけです。進化は慈善事業じゃないですよ?

追記2/20 ここではあたかも目的を持って進化したかのように書いていますが、実際の進化は無目的で計画性のないものです。

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15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありがとうございました (ガジェット通信 鬼丸)
2010-03-04 09:11:18
梨様

再考していただき、ありがとうございました。
また機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
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やはり辞退させていただきます (梨(管理人))
2010-03-02 23:10:16
鬼丸様
まわりの人とも相談しましたが、やはりこのお話は私には荷が勝ちすぎるので辞退させていただきます。お誘いありがとうございました。
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ご検討ありがとうございます (ガジェット通信編集部 鬼丸)
2010-03-02 13:21:02
梨様
メッセージありがとうございます。
私自身、福岡伸一さんは結構好きで、書かれている文章を読んで特に疑問を持ったことはありませんでした。
でも、こちらのブログ記事を読ませていただいて、「ああ、そうか、違っている部分もあるんだ」と知ることができました。
※とても分かりやすく、論理的に説明されていたので、納得できました。

福岡さん批判ということではなく、本当はこうなんだよ、ということを読んでくださった方が知ることは大切なことだと思い、再度依頼させていただきました。

再考していただけるということ、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
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Unknown (いとみみず)
2010-03-01 02:37:46
私は梨さんを応援したいですね。もし掲載されれば福岡氏のファンの方もやってきて、梨さんの負担が増えそうではありますけれど...。「自然の調和」という考えは人々に大変人気があるけれども、近年の自然科学はその幻想を打ち破ってきたわけで、福岡氏の書き物は自然科学の成果を人々に教えるよりも、むしろ幻想にしがみつくよう促しているように見えますから。三中さんだとか、伊藤嘉昭さんだとかメディア経験のある人たちももっと積極的に発言すべきだと思うんですけどね。
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考えさせてください (梨(管理人))
2010-03-01 00:40:51
 熟考して木曜日までにはお返事を出そうと思います。それにしても僕の記事にそれだけの価値があるのか正直わかりませんが。
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寄稿について (ガジェット通信編集部 鬼丸)
2010-02-28 14:59:41
先日お願いさせていただいた寄稿についてですが、
もし可能であれば、こちらの記事を元に、修正をしていただいて、ご寄稿いただけませんでしょうか。
ぜひ再度ご検討いただけますよう、お願いいたします。
もし可能でしたら、以下のメールフォームからメッセージをいただけますと、助かります。
http://getnews.jp/mail
よろしくお願いいたします。
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寄稿について (ガジェット通信編集部 鬼丸)
2010-02-25 16:52:01
梨様

返信ありがとうございます。

とても残念ですが、了解いたしました。
また機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
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寄稿についてですが (梨(管理人))
2010-02-25 14:07:45
 お話はありがたいのですが、この記事は進化が目的があるかのように書いてしまったと言った問題点がありまして、おそらくそちらの進化生物学に詳しくない方に誤解を与えてしまうかもしれません。そうなるのは福岡伸一と同じ穴のむじなになることであり本意ではありませんので、今回のお話は謹んで辞退させていただきます。
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寄稿のお願い (ガジェット通信編集部 鬼丸)
2010-02-24 17:31:10
はじめまして。
私どもは、『ガジェット通信』というウェブ媒体を運営しております。
http://getnews.jp/

こちらの記事を、『ガジェット通信』に寄稿という形で掲載させていただきたいのですがいかがでしょうか。

掲載の際には、導入の文章の追加と、表記統一などのために若干の修正をさせていただく場合がございます。
また、元記事へのリンクは貼らせていただきます。

ご検討をお願いいたします。
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返答ありがとうございます。 (ごん三世)
2010-02-21 16:01:27
丁寧に返答ありがとうございます!

ある種の野菜にはある種の虫が群がる理由に合点がいきました。
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すみません (梨(管理人))
2010-02-20 19:01:40
にとさん
お名前を間違える不手際をしました。申し訳ありません。
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参近文献 (梨(管理人))
2010-02-20 18:51:46
ことさん
参考文献は「保全生態学入門」です。ここの4章の1を参考にしています。
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納得のいくお答えになるかわかりませんが (梨(管理人))
2010-02-20 18:49:39
まずはじめに不勉強をさらしますが、すべての植物が毒物を持っているかまでは把握していません。すみません。毒物と一口にいってもある種には致命的でも別の種にはそうでもないという場合もありますので。

>それを食べた蝶の幼虫なりが、たまたま毒素に耐性を持ちそれに特化した。という認識でよろしいですか?

だいたいそれであってると思いますよ。
人間の場合は加熱などの調理で対応しているはずですが、それでもトリカブトなどのように対応しきれないものもあります。
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もっと詳しく知りたいです (にと)
2010-02-20 18:03:20
なるほど、と思いました。興味深いので蝶は特定の草しか食べれない、の部分について引用元(参考文献)を教えてください。
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はじめまして、 (ごん三世)
2010-02-20 13:37:45
植物には詳しくないですが、農家をやっています。そこで確認と質問があります。よろしければ回答お願いします。

全ての植物はなんらかの毒物を持っており、それを食べた蝶の幼虫なりが、たまたま毒素に耐性を持ちそれに特化した。という認識でよろしいですか?

また、どうして人間はさまざまな毒素のある植物を食べられるのでしょうか?
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