ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

正義で地球は救えない 書評その7 根拠は出さないの?or出せないの?

2009-01-30 17:25:41 | 池田清彦
今回は、池田氏が主張の根拠を示していない部分についてです。池田氏の場合、通説と全く異なる主張をしているにもかかわらず論拠を示さないということがままあります。

P91>一時期、密放流によって増えているという指摘もよくなされていたが、実際には、他の種類の稚魚の放流に交じって各地の河川や湖沼に広がったケースがほとんどだと考えられる。

一時期も何も今でも密放流が原因という指摘は健在ですけどね。それどころか池田氏の言うような放流に混ざって広がったのがほとんどという見解は支持されていません。そもそも放流に混ざって広まったというのであればコクチバスの拡散を説明できませんから。他にもブラックバスのミトコンドリアDNAを用いた解析などでも東日本と西日本ではブラックバスの遺伝子に違いがみられます。放流に混ざって広がったのであれば全国でブラックバスの遺伝子に違いは見られないでしょう。これらのことから研究者の間では放流に混ざって広まったという見解は支持されていないのです。
ネット上で参考になる資料としては瀬能氏がオオクチバス小グループ会合で出したものがあります。リンク先を見ていただければわかると思いますが池田氏の主張はとっくに論破されたものなんですね。池田氏がこれに反対して先の主張をするのであればなおのことその根拠を示さなくては説得力がありません。

連絡 いとみみずさんへ
   舟木氏の書評はすべて書籍に移動しました。

論理的思考うんぬん以前の問題

2009-01-27 20:01:07 | 池田清彦
 只今体調が悪いので池田氏批判ができません。代わりにネットで見つけた池田氏支持者の姿勢に突っ込みます。
部長Mブックブログ
リンク先で特に驚いたのがこの一文。

>ブラックバスやグリーンアノールなどの外来種が、在来種を滅ぼした事実はこれまで絶無であり、駆除のために大量の税金を投入するのは非常に愚かだと言うのです。

(°▽°;) エッ!?
もう一回引用。

>ブラックバスやグリーンアノールなどの外来種が、在来種を滅ぼした事実はこれまで絶無

( ¨)¨)¨)¨)¨)¨)¨) エー!!
ブログ主さんはいったいどこから絶無という根拠をもってきたのでしょうか。池田氏すら絶無とは言っていないはずですが。
ちなみにグリーンアノールの被害については先日引用したもののほかにもネットに転がっています。
侵略的外来種グリーンアノールの食害により破壊された昆虫相の回復に関する研究
これらはグーグルで「グリーンアノール」と検索すれば容易に見つけることができます。
ほかにもナイルパーチやミナミオオガシラなど外来種が在来種を絶滅させた例はいくらでも探せます。専門書読めとは言いませんが、とりあえず裏くらいはとりましょうよ。ネットで簡単に探せるんだから。
ブログ主さんは最後にこうも言っています。
 
>新年に当たり、考え方を考えさせられた一冊でした。

・・・・・・・考え方以前に検索の仕方覚えましょうよ。


正義で地球は救えない 書評その6 グローバルに考え墓穴を掘る

2009-01-22 15:40:43 | 池田清彦
 池田氏はよくグローバルとかマクロといった言葉を使って全体をよく見て物事を考えることを推奨しています。全体をよく見て物事を考えることそのものに異論はないのですが、池田氏がそれを実践できているかは非常に疑問です。これは昔「環境問題のウソ」の書評を書いたときにも指摘したんですが「正義で地球は救えない」ではこれがさらにわかりやすい形になって表れています。

P99~100
>環境変動により、元の生息地には棲めなくなってしまった生物は、外来生物として他の生態系に侵入して生き延びるほかはないので、すべてを現状維持しようという努力は、結果として種の絶滅に手を貸すことになりかねない。侵略種として猛威をふるっているグリーンアノール(トカゲの一種)は、本来の生息地(北アメリカの南部)では、さらに南のキューバなどから侵入してきたブラウンアノールに駆逐され数を減らしてきているという。侵入地域では外来種として駆除され、本来の生息地では他の外来種により亡ぼされてしまったら、この生物種は地球上からいなくなってしまう。地球規模でグローバルに考えることが必要なのだ。
 人類にとっていちばん重要なことは、種の絶滅を防ぐことだ。生態系の固有生物相の保全や本来の生息地での固有種の保護も大事だけれど、それにこだわるあまり、種が絶滅してしまったら、元も子もない。

ふむふむ。すごいですな。ご自身の主張がブーメランとなって跳ね返ってきている。
批判にあたり、補足知識を追加しておきます。まず、グリーンアノールは複数の固有種の絶滅ないしは著しい減少にかかわっています。
国立環境研究所によれば

>食物となる樹上性かつ昼行性の昆虫。オガサワラシジミはおそらくグリーンアノールによる捕食のために絶滅かそれに近い状態となった。オガサワライトトンボ、オガサワラトンボ、シマアカネ等の固有のトンボ類も父島と母島ではほぼ絶滅し、グリーンアノールの侵入していない属島に残るのみとなった。オガサワラゼミなどの大型の昆虫も捕食され、種によっては著しく数を減らしている。

とあります。
さて、ここでいくつかのシナリオを考えてみましょう。

1本来の生息地でも侵入先でもグリーンアノールが絶滅する→地球上から消える種は1種
2本来の生息地でも侵入先でもグリーンアノールが生き残る→グリーンアノールの補食のため侵入先の固有種のうち2種以上は最低でも絶滅し地球上から消える
3本来の生息地では生き残り、侵入先では絶滅→地球上から消える種はなし

保全生態学上もっとも好ましいのは3でしょう。池田氏は種の絶滅を防ぐことが重要とおっしゃっていますので当然複数の種が絶滅するのは好ましくないと判断するでしょう。さて、池田氏の主張は1のシナリオを防ぐために侵入先のグリーンアノールの駆除はグローバルに考えて好ましくないというものです。しかし、先に述べたようにグリーンアノールは少なくとも2種以上の絶滅に関与し、これを放って置いた場合その被害はこれからも増えると予想されます。ということはグローバルに考えるとグリーンアノールを侵入先で駆除したほうがより多くの種を守れるということになります。
単純に考えると1種残るより複数種残った方が地球規模でも種多様性が保たれるはずです。なぜ池田氏は1種を守るためだけに複数種を絶滅させることを容認するのでしょうか?グローバルに考えると池田氏とは全く別の結論が出るのはなぜでしょう。

今回の論点は「1種を守るのに複数種を犠牲にする必要があるのか」ということでした。


NHKスペシャル第3回 男が消える?人類も消える? を見て

2009-01-20 22:05:44 | Weblog
 先日、NHKスペシャルの女と男~最新科学が読み解く性~の第3回 男が消える?人類も消える? を見たんですが後味の悪いものでした。なぜかといえば、優生学すれすれの発言があったり、安直な遺伝子決定論を流していたからです。少し話がそれますが進化論の入門書として評価の高い「生物進化を考える」に著者の木村氏が人類の集団内に有害な遺伝子を残さないために有害遺伝子を持った人の子供の数を制限したほうがいいのではといった優生学とそれを人類集団に当てはめた記述があります。優生学は安易に人類に当てはめるとナチスドイツが障害者(←この表現が不適当でしたら言ってください)を迫害したように悲惨なことになりかねません。今回のNHKスペシャルでも「生物進化を考える」ほど明確ではないものの、それに近い視聴者のミスリードを誘う発言や内容がありました。たとえば、ヒトの精子の質が劣化していることについて近縁のチンパンジーは劣化が見られないのにヒトに劣化が見られるのはチンパンジーは乱交であるのに対しヒトは一夫一婦制をとっているから質の悪い精子が排除されないのだという説明がありました。この説明そのものは悪くないんですが番組のつくりが「じゃあ遺伝子の質を上げるには乱交すべき?」みたいなミスリードを誘うつくりでした。
ほかにも精子バンクで子供を作った女性が自分の子が頑固なのは父親の遺伝子のせいという発言がありました。う~ん。素人がそういう発言をしてしまうのはまだしもそれを流しちゃうのはいかがなものでしょうか。性格は遺伝子“だけ”でも環境“だけ”でも決定されるものではありません。
感想としてはこういった内容の番組はブランクストレートとか変な進化生物学へのアンチを生み出す温床になるだけであまり啓蒙や知識の普及にはつながらないのではと思います。ぶっちゃけこれの方がはるかにましだ。

正義で地球は救えない 書評その5 進歩のない池田氏2

2009-01-18 15:31:39 | 池田清彦
 さて、だいぶ間が空きましたが続きです。しかし言ってることが数年前とほぼ同じことのループ・ループ。なんだかなあ。

P98>繰り返すがアライグマにせよブラックバスにせよ、それによって滅ぼされた在来種はいない。

だから絶滅だけが問題視されるべきかのように書くのはあんたの開発などへの批判と整合性が取れなくなるって。絶滅させなきゃ何やってもいいの?違うでしょ?

同ページ>祖先が「外来」の出自であることを理由に差別をするのは悪しき国粋主義ではないのか。

はいはい、「差別」に「国粋主義」ね。なんたらの一つ覚えのごとく使ってくださるおかげで耳にタコができましたよ。具体的にどういったことをするのが「差別」に当たるんですかね。この文章の前後から推測すると外来種の影響を憂慮して駆除などをすることのようですが。仮にそうであるなら池田氏も「差別」をしていることになりませんか?確かに池田氏は駆除に賛成はしていませんが外来種の影響には憂慮しているようです。たとえば氏はP95で以下の主張をしています。

>自然は複雑系だから、それまでにないものが新たに加わったらどういう影響がでるかはわからない。だから私は外来種を日本に持ち込むことに関しては現行のやり方よりももっと厳しく規制したほうがいいと考えている。その上で、日本に居ついてしまった外来種に関しては、過剰な対応をする必要はないと言っているのだ。

この違いって定着した外来種に対してどう対応するかですよね。少なくとも外来種の影響について憂慮している点は共通しています。それで思うんですが憂慮して行動するのを「差別」と呼んで憂慮すること自体は何で「差別」にならないんでしょうね。池田氏の言葉を借りるなら外来種を持ち込むことに関して規制することの根拠だってその生物の出自が「外来」だからです。「外来」であることを理由に憂慮することが「差別」にあたるならほかならぬ池田氏自身がその「差別」を実行していませんか?ぜひとも池田氏にどうやって線引きしているのか理由を説明していただきたいものです。

正義で地球は救えない 書評その4 進歩のない池田氏1

2009-01-09 22:39:11 | 池田清彦
さて、大分お待たせしましたが「正義で地球は救えない」の書評を再開します。今回は池田氏のよく使うものを批判します。
P94から引用
>我々の食生活はほとんど外来種で成り立っている。

このあとコスモスだって外来種云々がつづきそれらを受けて以下のセリフ。

>だから、外来種を排除しようとしている人たちは、自分たちの感性にフィットする外来種は認めて、そうでない外来種については「生物多様性を脅かす可能性がある」という“正義”の理屈をあてはめて駆除しようという考えであることがわかる。
引用終わり
はぁ・・・。いい加減どういった特徴をもった外来種が問題となっているのかくらい把握しましょうよ。問題視ないしは駆除をされる外来種ってのはアライグマにしろバスにしろ以下の特徴を持っています。
・生態系あるいは生物群集への影響が大きい(捕食、競争など)
・人間の管理下にないあるいは管理下を離れた場合生態系などへの影響が懸念される
だ・か・らはなから管理を前提としており、実際に管理されている栽培種については問題視する必要がないんですよ。イネにしろキャベツにしろ人間の管理下でしかもう生きることができませんしね。こんな基本的な認識すら欠如してるんですか?池田氏は。専門家ぶってるけど恥ずかしさがないのでしょうか。いやそれ以前に素人以下の見識で専門家ぶる氏の姿勢は詐欺といってもいいくらいですけどね。

日本の論点2009と池田清彦

2009-01-03 17:06:04 | Weblog
 今日、本屋に行って「日本の論点」を見てみたら池田清彦の名がありました。主に温暖化についての話でしたが、外来生物は種多様性を増やす、ブラックバスやアライグマによって絶滅した在来種はいないというワンパターンな主張もしていました。正直なんでこんな危機感なしで現状把握もできない人物がちやほやされるのかわからんです。そもそも池田氏の言ってることって保全生態学の本を2,3冊読んでればおかしいってわかるくらいの初歩的なわかりやすい詭弁なんですけどね。また自分からデータを出すことがほとんどないのに氏の姿勢を科学的だと評する人には「アナタナニイッテルンデスカ?」と言いたくなります。
・・・新年から愚痴をはくブログですが今年もよろしくお願いいたします。