ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

外来生物利用の基本のキホン

2012-02-19 16:03:00 | 外来生物
 最近、再導入がちょっとした話題になっていますね。オオカミの再導入に始まり、知床ではカワウソの再導入も検討されるとか。いまさらメタ個体群でもないただの外来生物を導入することに何の意味があるのか分かりませんが、こんなときに昔から持ち出されるセリフにこういうものがあります。「作物だって外来種(だからこの○○だけ問題視するのはおかしい)」というもので、ブラックバスやケナフの時から使われ、昔からの論者には耳にタコができるほど繰り返されてきました。
「作物だって外来種」たしかにこれは事実です。現在、僕らが食べているイネにせよキャベツにせよダイコン、ジャガイモにせよほとんどは人間によって持ち込まれたものです。ただし、農作物と問題になっている外来生物には大きな差があります。それは、農作物は人間が管理を前提として利用されているのに対し、多くの外来生物は管理下を外れたことで問題を引き起こしているからです。逆に言えば、管理下を外れてしまえば、農作物だって外来生物扱いとなるということです。事実を羅列して意見を言わないのは古くからの詭弁術です。「作物だって外来種」というのは事実を装った詭弁として使われることが多々あるので、これを持ち出す人間は外来生物問題にかかわってきた人間から警戒されます。これに対しては、「作物だって外来種(キリッ)」「・・・・・・あっ、そう。それで何が言いたいの?」と相手に主張をちゃんと出させるのが初歩的な対処法ですね。
少し話がそれました。結局のところ、外来生物問題、とりわけ利用を語るにあたっては「管理されているか」という部分が非常に重要になるわけで、僕が昔、オオカミ再導入に疑問をしめした理由の一つも「野外放逐前提のやり方を外来生物利用の方法として認められるか?」というものがあったからです。ちなみに、管理されたものとそうでないものをいっしょくたに論じているかどうかは外来生物問題では結構感度のいいリトマス紙になります。この方法を使ってくる人は大概、ほかにも詭弁を使うか下調べの不備を詭弁でごまかしていることが多いので、このやり方を吹っかけられたら議論を切り上げるか、きっちり論破してさしあげればいいと思いますよ。

具体例
区別がかけらもついていない一例。僕の武田邦彦批判へのコメント。

わかき@waka_kiku
批判はいいけど、菊だって古来から考えれば外来植物だったと思うけど。。武田さんの批判する人は何かよくわからんなあ。


だいたい、こんな現実の区別もつかないのに熊森みたいなベクトルを間違えた正義感を加えると現場でドヤ顔で迷惑をかける連中が出来上がるわけでして。こういう基礎的な話は3年ほど前にも書いているのですが、知識も学ぶ気もゼロのくせに気の利いたことを言ってやった風に気取る人間はあとからあとから湧いてきますな。



たとえ被災しようがペットを捨てるのは甘えです

2011-03-21 20:31:24 | 外来生物
 今回の地震で被災された方には心よりお見舞い申し上げますし、被災して生活がつらいのもわかります。
とはいえ、やっていいことと悪いことは当然あります。今回はやってはいけないことの話です。

■飼育魚「いらない」急増 おさかなポスト 震災後1週間で2000匹(2011.3.21. 東京新聞)

以下引用
飼えなくなった魚を無償で引き取る川崎市多摩区の「おさかなポスト」には震災発生後、捨てられる魚が急増している。その数は、11日の震災発生から1週間で約2000匹にも上るという。

中略

引き取りを希望する人たちも、関東だけでなく、広く被災地の福島県にまで及んでいる。
引用終わり

地震により魚が飼えなくなった人たちが多数いて、そういった人たちが魚を送っているようですね。
この人たちへの感想を一言で言うなら“甘え”です。それも唾棄すべき類のもの。
僕は一度命を預かった以上、死ぬまで面倒をみるというのは生き物を飼う上での鉄則と考えています。そして飼いきれないなら自分の手でケリをつけろとも。見ず知らずの他人に勝手にゆだねるなんてまねはたとえ被災地の人であっても甘えです。
確かに地震にあったのはどうしようもないことですが、自分でケリをつけずに他人に放り投げるという決断をしたのは飼育者なわけで。事情があって飼えなくなった魚を泣く泣く処分した経験のある僕からすれば、なにを馬鹿なことをしているのかと。
おさかなポストに送る人はまだましな方で、それすらできない人は近くの川や池に“投棄”しているでしょう。地震がおさまって魚類調査をしたら知らない魚がたくさんいたなんてことになりかねません。おそらく今後の東北の魚類相は外来生物が多く見られるようになるでしょう(一時的かそれとも定着するかまでは分かりませんが)。
 正直なところ“飼いきれなくなったらどうするか”まで考えて、始めて生き物を飼うスタートラインなのですが、安易に他人にゆだねたり野外に放つのは、そこまで考えていなかったことを雄弁に示しています。そういう人はそもそも飼わなきゃいいです。自分が命に責任が持てない人間ってことですからね。そういう連中が外来生物を数多く生み出して他人に尻拭いさせる現状を作り上げてきたわけです。本当に(野生動物を含む)誰にとっても迷惑にしかならないので安易な自己満足は止めてほしいですね。

三重大の淀先生も今回の状況を憂いています。だいたい一緒の見解です。
ペットを,捨てないで

クニマスを取り巻く浅薄な人々 追記あり

2010-12-23 16:57:33 | 外来生物
 最近は批判ネタばかりでもう少し気分的に楽な記事を出したいなぁと思う管理人です。モンハン生態学とか書きあがっているんですけどね。
先日、クニマスの再発見で世間が沸きましたが、さっそく浅薄な人々も登場しているようです。

クニマス里帰りへ素案…さかなクン名誉市民賞も
西湖のクニマス里帰りを…秋田でプロジェクト

秋田県知事がさっそく生態系を省みない問題発言をしてくれました。
以下引用
知事は「必ずしも田沢湖でなくても、秋田で生息できないか、県水産振興センターに勉強するよう即座に指示した」と述べ、生態系について研究を進める考えも示した。
引用終わり

なんのために魚類学会が「放流ガイドライン」を作ったと思っているのやら。
これが水族館で展示くらいならとやかく言いません。問題なのはクニマスを戻すなら、繁殖技術や生息環境の整備、外来生物としての問題点があるのにそれらを無視してとにかく秋田県内に導入ありきでいることです。順序がちがうでしょう?
クニマスで儲けたい魂胆が丸見えで、西湖での保全の動きを全く考慮しているとは思えません。

クニマス里帰りへ初会合、仙北市構想 さかなクン名誉市民賞案も

こちらはより詳しい内容ですが、知事の発言についてはありません。これらの記事を見る限りでは、行政サイドの一部が暴走しかけて、研究者、実務サイドがなだめているように僕には見えます。秋田の杉山先生はクニマスやオオクチバスのプロですしね。

そして、釣り人、とりわけ外来魚を釣るような方々にはこんな人たちも。

(祝)クニマス再発見続き

典型的勘違いその1。外来生物というだけで全て駆除対象になるわけではないのですがね。「外来種ハンドブック」くらいは読みましょうよ・・・。

生物多様性の観点からバスは害がない


こちらは最初に見たときギャグかと思いました。某池田と発想が同じですし。突っ込みどころはいろいろあるかと思いますが、一つ指摘するなら、どうして絶滅しか問題にしないんでしょうね?絶滅の前段階として、どんな生物にも減少というステップがあって、生物多様性の保全というのは減少を食い止めることで絶滅に歯止めをかけることを目指しているわけですね。絶滅しなければ無問題というならある池のメダカを水族館に移しておけばその池は開発だろうが何をしてもいいということにもなりますよね。メダカは水族館で存続していますから、この理屈なら開発などの行為は問題ではありません。
10から1に減る過程を見ずに、0にならなければ別にいいという理屈は滑稽です。
というか、いまどきブラックバス問題に口を出したければ環境省のオオクチバス専門委員会の資料くらいは目を通しましょうよ。これで“考えた”・・・・・・ハァ。

 僕自身もたまにフライやりますから、こういう人たちの気持の部分で分からんことがないこともないです。が、上記の方々は現状がなぜこうであるのか把握もせずに不満や勘違いを振りまくだけです。ブラックバス問題のときに散々言われていたんですけどね。釣り人にビジョン、つまり、こうしていこう、こういう社会が望ましいのではないかという働きかけがないことは。僕も何年も釣り雑誌なんて読んでないなぁ。つり人社なんて屑の極みだったし。

追記
何の気なしに検索していたらつり人社の書籍編集長がこんなことを言っているのをみつけました。

さかなクン、世紀の大発見!幻のクニマスが西湖で生きていた!!(その2)

以下引用
かつての国策で田沢湖にクニマスを棲めなくさせた、そんな
過ちをもう二度としてはならない、それはそのとおりです。
でも、「国内産外来種」って、なんだよこの愛のなさ…。
いったいこれが、かつて人の勝手で絶滅の淵に追いやられ、
それでも70年のときを超えて生命をつないできたクニマスに
かける言葉だろうか。
中略
けれども、僕にはどうしても外来魚駆除と同じ文脈で
今回のクニマスに「国内産外来種」というレッテルを
貼ろうとするのは、理解ができない。
引用終わり

事実の指摘をすることは愛がないそうです。お宅らはブラックバス問題で何を学んだんだ?と言ってやりたいところですが、これを見る限り、難癖の付け方だけ覚えて変わっていないようです。

クニマスの再発見と外来生物問題と

2010-12-20 11:19:22 | 外来生物
先日、さかなクン氏、中坊教授らによって日本で絶滅したと思われていた淡水魚のクニマスが再発見されました。今回の発表は論文が受理(うちの雑誌に載せるだけの価値があるよ)されたので出したものでしょう。
クニマスはいままでの分類ではベニザケ(ヒメマス)の亜種と分類されていました。
今回は外部の形態と遺伝情報を調べてクニマスと断定したそうです。ではどのような部分を調べたのか?詳しくは論文待ちですが、梨の予想を書いてみます。

鰓耙(さいは)
魚の鰓(えら)には鰓耙という水をろ過して浮遊生物を消化管に送り込むための器官があります。これはプランクトン食の魚類でとくに発達しています。サケ科ではオショロコマとミヤベイワナを見分ける要素の一つが鰓耙の数です。ミヤベイワナはオショロコマの亜種ですが、鰓耙の数がオショロコマより平均5本ほど多いことが知られています。ちなみにヒメマスは鰓耙がサケ科で最も多い部類で、動物プランクトンやユスリカなどを捕食します。

幽門垂(ゆうもんすい)
サケ科などには幽門垂という消化器官があります。この数が種によって異なるので、種を判別する基準の一つになります。

有孔側線鱗数(ゆうこうそくせんりんすう)
魚は音をキャッチするために側線という器官があり、そこにある鱗には孔が空いています。この孔のあいた鱗の数も種によって異なります。

条数(じょうすう)
魚のひれを支える骨は、人間でいう指の間に膜が張ってひれとなっているという感じです。この指の骨の本数が魚の種によって違うので、見分けるポイントになります。専門的には条数といいます。
この他にも脊椎骨の数など数々の特徴を調べたと思われます。
このような外見から魚種を同定するのはよくよく魚を観察しないと出来るものではありません。はじめにクニマスではないか?と疑問に思ったさかなクン氏の実力が相当のものである証左でしょう。

遺伝子に関してですが、これは核DNAを調べたのか、ミトコンドリアのDNAを調べたのか僕にはわかりません。水産有用魚種として利用されるヒメマスのデータは既にありますので、それを利用したものと思われますが・・・。詳しくは論文待ちですね。

クニマスの生態については分かっていないことが多い魚です。近縁とされるヒメマスの自然分布は北海道に2か所ですが、クニマスだけ本州の湖に生息しています。分布が飛んでいて、なおかつ湖という閉鎖的な環境にいるのですね。サケ科魚類ではこのように淡水に閉じ込められて海に行くことが出来なくなった魚を陸封型と呼びます。完全な陸封型の事例はそれほど多くなく、ヤマメの陸封型であるスギノコという魚はイワナよりも上流域にいるという特異な生態を示すようです(通常、イワナより下流にヤマメは生息)。
また、「日本の淡水魚」(川那部ら編著1989)によれば、クニマスは1年中産卵していたと言われていたという情報があったようです。生殖腺の発達など解剖学的研究の進展が期待されますね。
さて、クニマスが再発見されたことは喜ばしいのですが、同時に保全生態学上の問題も浮上してきました。それは、この再発見をもって絶滅危惧の種をどこか別のところに移植してしまえばいいじゃないかということです。すでに岐阜大学の向井先生三重大学の淀先生など魚類、外来生物の専門家がその懸念を表明しています。
僕の見解を述べると、今回のケースは非常にまれな偶然が重なって起こったもので一般化できる事例ではありません。まず、移植されたのが外来生物の問題が認知される前であったこと、運よくクニマスが定着したこと、ヒメマスとは交雑しなかった(と思われる)ことなどです。
少なくとも、外来生物の影響について負の影響の知見がつみあがっている現在で同様のことができると考えてはいけません。今回の件を持って安易に移植すればいいという考えは、移植先の生物相はどうなってもいいという生物多様性への無関心であり、生息域の保全や人工繁殖にかかる努力を軽視したものです。再導入や移植と言うのは保全(conservation)と保存(preservation)の2つの歯車がきちんと噛み合って初めて機能するものです。
まぁ、言いたいことをまとめると時代背景が違うから同じようにはいかないよってことです。
現在、地元では禁漁区や期間などを設けてクニマスを保全していこうという動きがあります。今まで、ヒメマスに混ざって混獲されていたので、天然記念物などへの指定は逆に調査や漁業などに支障をきたすでしょう。また、即座にこのような動きが報道されたというのは、前もって根回しをして関係者の同意と合意形成を取り付けていたからでしょう。今後も注意深く見守る必要があります。


「みんなでつくる淀川大図鑑」に行ってきた。

2010-08-04 20:03:28 | 外来生物
 昨日は、大阪市立自然史博物館まで特別展示「みんなでつくる淀川大図鑑」を見に行ってきました。まずは博物館へ行き、チケットを買って博物館へ・・・・・・と思ったら、淀川大図鑑のほうは隣の建物で展示されているんでした。なにやってるんだか。
ま、まぁ気を取り直して博物館の見学です。上の方にある写真はナガスクジラの骨格標本です。大きすぎてカメラに入りません。
博物館の方も充実した展示内容でした。マチカネワニなど大昔に日本に生息していた動物や現生生物の骨格標本、生態系の仕組みをわかりやすく伝えるゲームなどかなり面白かったです。特に、ゲームでコリドーの必要性や人の影響、ドングリの芽生えなどを子供にもわかりやすく伝えているのはよかったです。博物館の展示を一通り見た後は隣接している植物園を見に行きました。蓮池にチョウトンボが飛んでいたりしてきれいではあるのですが、やたら大きなアカミミガメがいたりブルーギルがいたのはすこし憂鬱になりましたね。
植物園をあらかた見たところで本日のメインである「淀川大図鑑」です。
平日ということでそれほど人は多くありませんでしたが、小学生~高校生が何人かと保護者が数人いました。展示内容としては、淀川に昔生息していた生物の標本を中心に、なぜ淀川に生物が多かったのか、そして減少してしまったのはなぜかということを説明するというものでした。今ではほとんど見られない植物の標本なども多数ありましたね。
先ごろ発表された新種の魚類、ヨドゼゼラの標本があったのは仕事が早いなぁと思いました。減少要因の一つである外来生物も一区画ブースがあり、ワニガメやジャンボタニシ、オオクチバスなどが生態展示されていました。
感想としては、結構面白い展示でした。八月半ばにはイタセンパラも展示されるらしいので暇があれば是非、行ってみるといいと思いますよ。

何かもやっとくる

2010-07-19 15:21:00 | 外来生物
 少しピリピリした精神状態で書いた文章ですので、乱暴な表現を含むかもしれません。ご了承ください。

安井至氏のHPで「生物多様性とは何か」、井田徹治著、岩波新書1257、2010年6月18日初版の書評が上がりました。それについて思ったことを書きます。最初に言っておくと外来生物関係の人間にはイラッとくる主張が見受けられました。主に池田清彦あたりのにわか外来生物問題専門家きどりがよく使う言い回し。こっちが反射的に嫌悪感が出てくる。

以下引用
B君:三上氏は、「マングース(沖縄と奄美に持ち込まれ昔からいたさまざまな生きものに悪い影響を与えています)を駆除するのは可愛そうだから、駆除するのを止そう」という考え方もありうると主張している。生物多様性の保全とは、なかなか難しい。
引用終わり

ありえたところでそれは偽善で欺瞞でしょう。現実問題として駆除抜きでどうやって被害を止めろと?駆除されるマングースがかわいそうというなら食われる在来種に同じ視点を向けてやらないのでしょうか?これはマングースをブラックバスに変えようがアメザリに変えようが成り立ちます。それはただの熊森共の屁理屈であって難しいというものではないでしょう。偽善にして欺瞞な主張を持ち上げて難しいとかどの面で言ってるの?もうちょっとましな主張はピックアップできなかったんですか?まったく安全圏から勝手なことを。

以下引用
C先生:外来種は、絶対的に悪なのか。カミツキガメはすでに悪の権化になっているようだが。

A君:外来種は無条件に悪だから人工的に根絶すると決めたら、日本の生物の何%がなくなるのだろうか。

B君:むしろ、何が本当の固有種かを議論しなければならなくなる。
引用終わり

こっちからしたら耳にタコでうざいとしか思えん。大前提である外来生物の管理に触れずに絶対悪とか無条件で悪とがいつ誰が言ったよ。いもしない藁人形を作り上げるのはやめてもらえませんかね。まともに外来生物問題について言及する気があるなら。

安井氏はたびたび外来生物問題をはじめとした一部の環境問題ばかりクローズアップされるとこぼしていますが、外来生物問題なんてやっと認知度が上がってきたばかりの問題ですよ。しかも国内外来や遺伝子攪乱の問題点をきちんと認識しているのは専門家を除けばいまだ少数。こっちとしたら何故に安井氏がやり玉に挙げるのかわかりません。

これくらいは知っておきたい外来生物問題

2010-07-03 18:11:15 | 外来生物
 武田氏は外来生物の具体的な事例を知っていなかったために見るも無様なくらいに突っ込まれてしまったわけですが、外来生物のことをあまり知らない人が外来生物問題のことを語るときに押さえておきたい外来生物問題の事例をいくつか紹介します。あくまでここにあるのは最低限レベルのことにすぎませんので、過信は危険ですけどね。選んだ基準は国内にいる外来生物で、ある程度本などになって研究がまとまっている外来生物を分類群ごとに1~2種選んでいます。

魚類
ブラックバス(オオクチバス、コクチバス)
 おそらく日本で一番有名な外来生物問題でしょう。ブラックバスというのはオオクチバスとコクチバスという2種類の魚の総称です。水田や水路の構造変化とともに日本の淡水魚の減少の一端を担った外来生物です。ちなみにネット上にこれらの文献などをまとめたいいHPがあります。→ゼブラノート

ブルーギル
 今の天皇陛下が皇太子のときにアメリカから送られた外来生物です。なぜかブラックバスの餌となるとされてブラックバスと一緒に各地に密放流されました。実際には食べにくいブルーギルより在来のタナゴやヨシノボリのほうがバスには好まれ、ブルーギルはそれらの卵を食べるという嬉しくない効果を発揮してくれました。

両生類
ウシガエル
 食用として持ち込まれた外来生物のひとつですが、食用として広まらずに放棄されました。在来生物への食害が怖いですが、拡がりすぎた以上現在取れる対策は新たに侵入した場所で駆除することでこれ以上分布を広げないことです。

爬虫類
グリーンアノール
 日本のガラパゴスともいわれる小笠原諸島で固有の昆虫に猛威をふるっているアメリカ原産のトカゲです。現在ではゴキブリホイホイのような粘着式の罠で個体数は減ってきています。

鳥類
コウライキジ
 狩猟用に国外から持ち込まれ、国産のキジと交雑を起こしています。現在では純系のニホンキジはいないとも言われており、種分化の歴史に人間が横やりを入れている実例となっています。

哺乳類
ノヤギ
 小笠原諸島など世界の主に島で猛威をふるう外来生物です。持ち込まれる経緯は食料として持ち込んでそのまま放置というパターンが多いようです。根こそぎ植物を食べつくしてしまい、露出した表土が雨で流出して海の生物にも影響を与えるというまさに生態系を変える外来生物です。

マングース
 有名な動物学者がハブ対策に持ち込んだはいいが、予想とは異なりハブを食べずに固有種や作物を荒らしています。ちなみにウシガエルを持ち込んだのも同一人物です。外来生物問題の特徴である「何が起こるかわからない」というフランケンシュタイン効果の実例といえる外来生物です。

植物
ホテイアオイ
 淀川などで非常に増えている外来生物です。リン、窒素を吸収するので水質浄化に用いられる外来生物ですが、水面を覆い尽くすので水中の水草に日光が届かなくて壊滅という負の側面ももっています。

昆虫
セイヨウオオマルハナバチ
 トマトの受粉のために導入された外来生物です。しかし、管理の不注意で野外に逃げ出し在来のマルハナバチ類と競争し排除しています。また、在来のマルハナバチがセイヨウオオマルハナバチのオスと交雑すると不妊化つまり子供を産めなくなることがわかっています。

外来甲虫類
要はカブトムシやクワガタムシのことです。熱帯や亜熱帯の種であっても、寒冷な高地にすむ種が結構いるので日本にそれらの種が定着する可能性は大いにあります。原産地が熱帯地方だからと言って甘く見ないように。コウライキジのように在来種と交雑するだけでなく、ダニやウイルスを持ち込んで病気を媒介する危険性があります。種によっては農業被害もありえます。

参考文献
外来生物が日本を襲う! 池田透監修
外来生物クライシス 松井正文著

ブラックバスをしばきにいったった

2010-05-01 22:27:33 | 外来生物
 遺伝的多様性シリーズが滞ってる……。早く書かないと……。
それはともかくとして、4月28日に知り合い数名とブラックバス(オオクチバス)の駆除に行ってきました。むろん、県の方や池の管理者には話を通してあります。今回駆除に行った池は面積としては小規模でよくある皿池でした。池ではアカミミガメが甲羅干しをしていたり、季節によってはウシガエルが鳴くという外来生物が勢力を伸ばしている池です。
今回は、前年度からの駆除の続きで、僕よりも駆除の経験が多い人がたくさんいましたから10~20匹くらいは釣りあげて駆除できるだろうとたかをくくっていました。
ところが……。前日の晩から朝にかけて雨が降っていたせいで、池の水温が下がり、ブラックバスの活性がめちゃくちゃ低くなっていました。ドジョウを餌にしても、エビを餌にしてもぜんぜんかからない。僕もミミズで深いところ(タナ)を狙っていましたが、1時間たってもうんともすんともかかりゃしない。そして、1時間半ほどたって何の気なしに竿を伸ばしていたら、いきなり浮きがシュンと沈みました。これは来たと思って逃がさないように慎重に釣りあげたら、20cmクラスのブラックバスがかかっていました。
結局、2時間半ほど釣って、釣果は僕の釣った1匹だけでした。1匹は釣っているんで、一応の名目は立ちましたが、駆除としては微妙すぎますねぇ……。水がもう少し暖かければ、もっと釣れたと思います。(バスの写真は後日up予定)

交雑カメが与える影響

2010-04-05 01:01:15 | 外来生物
 名古屋のため池で外来カメと日本産カメの交雑個体が発見されました。

朝日新聞 名古屋のため池に外来種との交雑カメ 在来種駆逐の恐れ

部分的に引用します。

>交雑したカメが確認されたのは、名古屋市昭和区の住宅街にある「隼人(はやと)池」。市や市民が昨年9月に調査した際、35匹の在来種のカメのほか、外形からは種を分類できないカメが9匹見つかった。
 愛知学泉大の矢部隆教授(動物生態学)らが8匹のDNAを分析したところ、台湾や中国南部などに生息するハナガメと在来種との交雑カメと確認。2匹はニホンイシガメとの交雑カメで、6匹はクサガメとの交雑カメだった。元の3種類のカメは同じイシガメ科だが、属が異なる。ハナガメはペットとして国内に入り、放されたとみられる。
 交雑カメは見た目も、親世代の特徴が交ざっている。ハナガメは頭部から前脚にかけて黄緑色のストライプ模様があるが、クサガメは線や点が混在している。一方、交雑カメは頭の上側がストライプで、下側にはクサガメに似た模様が入っている。

クサガメとイシガメは甲羅にキール(稜線)が3本入っているかどうかで見分けられます(キールが3本あったらクサガメ)が、外形からわからなかったということは甲羅のキールの数はまちまちで個体間の変異が大きいということでしょうか。

>矢部教授は、交雑が繰り返されて遺伝子の汚染が広がることを懸念する。「生物は進化によって地域に合うように遺伝子を構成している。交雑してしまうと、遺伝子が劣化して、地域の遺伝集団が衰退する可能性がある」と話す。

この部分をどうやって説明するかは悩ましいなぁと思います。僕も今、遺伝的多様性についてちょっとやっているわけだけど、上手い説明というものがなかなか出てきません。結局、こういう説明の仕方になることが多いんですが、可能性だけだといまいち実感が伴わないんじゃあないかと思ってます。本当に難しい。

>また、交雑が広がる過程で、交雑カメによって在来種が駆逐されるおそれもある。
 ハナガメは、ニホンイシガメやクサガメより体が大きく、1回に産む卵も多い。交雑カメはハナガメの特徴を持つため、エサや生息地域が重なった場合、在来種より優位になるという。矢部教授は「交雑カメが増えて在来種が減れば、その地域固有の生態系が変わり、生態系の多様性が失われてしまう」と指摘する。

雑種強勢といって、交雑した個体が親個体たちよりも繁殖力や生命力が強いことがあります。こういった場合、記事にも書かれているように交雑個体が在来種を駆逐することがあります。エサや住処など必要とする条件が重なりやすいため競争が起こるわけですね。そして、競争に在来種が負けてしまうと、そこから駆逐されてしまいます。ここは「自然淘汰」について知っていればわかりやすいですね。

COP10の写真展なのに外来生物の写真が入選していることについて

2010-02-15 22:01:57 | 外来生物
 今年の10月にCOP10が開かれる名古屋市ですが、そこで残念なことが起こりました。

北区の自然に親しもう 生物多様性フォトコンテスト優秀作品一覧
【入選】「日向の甲羅干し」

……なんでアカミミガメが写ってるのかな?
COP10にちなんでいるのに、外来生物の写真を入選させることはないでしょう。送った人は……まあ、しょうがないとしても、選んだ担当者の人はねぇ……。
国内外来生物ならともかく少し調べれば外来生物かつその影響か懸念されていることがわかるアカミミガメの写真を選ぶというのは残念すぎます。これが仮にアライグマやオオクチバスの写真であっても入選したのでしょうか?なんのためにCOP10やるのか考えてくださいよ。このほかにも外来生物の写真が多くてげんなりします……。本当にこういうイベントになると関係者のリテラシーが残念なことは多々あります。保全の情報を発信する側にも責任があるでしょうが、取り組むなら最低限の知識はつけてほしいと思います。
HPの下にメールフォームがありましたので、一応、おかしいという旨のメールはしておきました。メールをするかどうかはする人の自由ですが、テンプレばかり大量に来てもあちらの迷惑になるだけで生産的なことにならないことは言っておきます。