ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

正義で地球は救えない 書評その3 リスクのはかり方がおかしくはないか

2008-12-29 18:52:02 | 池田清彦
 今日は池田氏のリスクのはかり方についてです。
P97>しかし、アライグマの駆除にも多額の金がかかる。駆除費用は被害総額を上回ると思う。千葉県は2008年の予算にアライグマの駆除費用として2900万円を計上したが、2006年の被害総額は459万円だ。税を使って駆除業者に金を払って駆除しなければいけない道理はあるのか。
 いや何を根拠に駆除費用が被害総額を上回ると思うのですかね。ここで池田氏は農林水産業への被害額を引き合いに出して駆除がコストパフォーマンスに見合わないものであるとしていますよね。しかし、アライグマによる被害は農林水産業だけでなく生物多様性にも及んでいることは池田氏もご存じでしょう。生物多様性の価値を具体的な金額に表すことは難しいですが、だからといって生物多様性の価値を無視していいことにはならないでしょう。ここでおかしいのは池田氏の費用対効果の天秤のバランスについてです。アライグマの被害は生物多様性にも及んでいるのでアライグマによる被害という皿に生物多様性も加えなくてはならないところをどういうわけか無視して農林水産業に限定してバランスが不釣り合いになるように見せています。さらにいえば外来種は放っておけば増殖し拡散します。ということは先のアライグマの場合、これから被害が増えることもありうるわけです。こういったことを考慮せず費用対効果を考えろという池田氏の姿勢は違和感を感じます。

う~ん、なんだろ?

2008-12-27 00:11:16 | 熊森
 ちょっと書評はお休みさせてもらって閑話休題。日本熊森協会の今日のひとことについて。>いっしょうけんめいにがんばっている熊森を、おちょくったり非難中傷したりして喜んでいる人たちがいるようですが
、熊森のこの清らかさには、彼らは絶対に勝てないだろうと感じました。
非難中傷ってのはうちのことも含まれてるのかな~?まあ非難中傷かどうかは外野が判断するでしょ。それよりもドングリ運びの効果についてそろそろ発表した方が良くないかなと老婆心ながら思います。熊森の活動の核みたいなものでしょ?ドングリ運びは。すでに遺伝子撹乱のリスクなども指摘されているのに効果が不鮮明なままこれをつづけるのは環境保護団体としてどうかと思いますが。
 話は変わって伊勢田哲治氏の新刊「動物からの倫理学入門」に遺伝子撹乱について倫理学からの考察がありました。こちらも折を見て感想を書こうと思います。

正義で地球は救えない 書評その2 池田氏に良識はあるのか?

2008-12-21 17:02:57 | 池田清彦
 池田氏の発言には良識を疑うような部分があります。たとえば絶滅させてなきゃ問題ないでしょといわんばかりの以下の部分。
正義で地球は救えないP92
>ブラックバスが日本に入ってから八〇余年が経つが、ブラックバスによって滅ぼされた日本の在来種は一種もいない。ブラックバスによって人間が健康被害を受けているわけでも、もちろんない。
はいはい。昔からのおなじみの主張ですね。で、絶滅だけが問題になるわけじゃないことは池田氏もわかってますよね?仮に絶滅しなければ問題ないとするとヤンバルテナガコガネにしてもまだ絶滅はしていないのだからこういう主張もできますよね。開発されてから何十年と経つが、ヤンバルテナガコガネは絶滅していない。開発によって目立った健康被害が起きているわけでもない。これって開発の影響を矮小化するレトリックですよね。生物多様性の保全から考えると大幅に激減した段階ですでに憂慮すべき事態であり絶滅を区切りに問題視するかしないかを決めてたら対応が遅いって批判されるべきでしょうが。絶滅と健康被害といった極論で事態を矮小化してるといわれてもしょうがないんじゃないかな?
 ブラックバスの拡散についても池田氏は通説に対し何一つソースを示さないまま独自の見解を述べているので後でしっかりソースを示して批判します。
追記 池田氏の主張に対する反論としては以下のサイトが非常に参考になります。
ゼブラノート 『底抜けブラックバス大騒動』を読む

正義で地球は救えない 書評その1

2008-12-19 22:53:53 | 池田清彦
 やらなくてはと思いながらも諸事情で遅れていた「正義で地球は救えない」の書評を開始したいと思います。書評の内容は池田氏の生物多様性に対する主張に対するものを基本とします。その他の分野までは知識が足りなくてカバーしきれませんので。感想を先に言えば、池田氏の主張は「底抜けブラックバス大騒動」や「環境問題のウソ」から進歩しておらず外来生物問題に関わっている人が改めて読む必要はないでしょう。ただ、いまだに耳触りのよいレトリックに騙される人はいるようです。
 さて、前振りが長くなりましたが、池田氏の主張の検証に移ります。池田氏はP85~86でこのような主張をしています。
>生物の長い歴史の中では、亜種は、1万~2万年もあれば進化するレベルのものであり、消失と出現を繰り返してきたことを考えれば生物多様性の保全にとって根源的に重要なものだとは思われない。
実に大胆な発言です。どのレベルで保全するかは専門家の間で喧々諤々の議論があり、僕レベルでは口をはさめません。さらに言えば、この主張から池田氏は生物多様性の成り立ちについて無知だと思われます。なぜなら、亜種の存在は新種ができ種の多様性が増すのに不可欠だからです。おおざっぱに言って種分化(新種の誕生)は以下のようなプロセスで成り立ちます。
1.ある生物集団Aがある

2.Aが何らかの形で複数に分断、隔離される(例新しい川がAの生息地を分断する)

3.分断された集団は独自に遺伝子の変化を蓄積させていく

4.遺伝子の変化がある程度蓄積されると元の集団と似ている部分もあれば違う部分も目立ってくる

5.さらに変化が蓄積され、元の集団Aと似ても似つかぬ集団Bができる(新種誕生)
亜種はこのチャートの4にあたります。チャートを見れば解ると思いますが、亜種の存在は新種ができるために欠かせません。この亜種の存在を重要でないという池田氏は生物多様性の成り立ちに無知だといってもいいのではないでしょうか。

底抜け池田清彦

2008-12-18 00:10:57 | 池田清彦
 今「ブラックバス問題の真相」という本を読んでいるのですがその中で池田氏に言及している部分がありました。「やぶにらみ科学論」の池田氏の主張をレトリックと断じ反論していました。その池田氏の主張とはこのようなものです。
>「生物多様性は人類の生存のために必要だ、との立場を採ると、必要がなくなれば要らないんじゃないかとの話になり、価値の根拠は多様性ではなく人間にあるということになり、論理の底が抜けてしまう」
まあ、池田氏の主張は論理としては筋が通っています。ですが、氏の言っていることはある条件が整えばその理論は棄却されるよねと言っているだけです。確かに生物多様性に依存せずに人類が暮らせるようになれば生物多様性の保全の根拠を人類の生存に求めることはできません。しかし、今現在、人類は生存基盤を生物多様性に依存しています。このような状況であれば人類の生存ために生物多様性が必要という言説はその使用にあたりなんら問題がないでしょう。
 結局、池田氏の主張の問題点は理論上はありうることをそっくりそのまま現実でもそうであると思ってしまったことです。理論と現実の区別をつけずにいっしょくたにしてしまった池田氏の方こそ思考が底抜けであると言えるでしょう。

ちょっと突っ込みたくなった

2008-12-11 00:07:50 | 熊森
 日本熊森協会さんが環境大臣に直訴に行ったそうです。ええと僕には初っ端からわからないことだらけなんですが。たとえば>クマが滅びる→豊かな森が消える→湧き水が枯渇する→文明が滅びる
熊はアンブレラ種(生きていくのに広大な面積を必要とする種)ですから森が無くなれば熊がいなくなるのはわかります。だけど、森は熊に依存して成り立っているわけではない。ですから上記の論理には飛躍があるかな。
>熊森のように、日本一の研究者に指導されて17年間もクマと森の問題について必死に取り組んできた本気の団体を、国が審議会などに呼んでほしい
あのですね、その日本一の研究者さんは何をしておられるんですか?ドングリ騒動から熊森をウォッチしてきましたけど熊森のHPに生態学の専門家の言葉が載ったことってありました?たしか熊森は現代生態学を学び実践しているとか言ってませんでしたか?ついでにいうならその研究者に率いられた熊森さんはあれだけ批判されたドングリまきを続けていらっしゃるようですがドングリまきの効果についてなんら発表しないのは何故ですか?いい加減データも溜まってきたでしょう?専門誌に投稿してもいいのではないですか?まさか専門誌は偏見に満ちて自分たちの論文を取り上げないなんてトンデモさんと見間違うような言い訳はしませんよね?専門誌に載せないまでも自分のところのHPで発表しないのはなぜでしょう。そもそも各都道府県で熊の研究をしている他の研究者は自分の研究成果を論文などにして発表しているなかでなんらそういったことをしていない人たちを専門家として審議会に入れろというのは傲慢すぎませんか?リングに上がってこない人をどうやってプロと判断しろというのか。全体的に?マークが多くなってしまった・・・。

またかよ・・・

2008-12-09 23:31:08 | 池田清彦
 池田氏と養老氏がまた本を出したようです。
虫捕る子だけが生き残る~「脳化社会」の子どもたちに未来はあるのか~
また性懲りもなく外来種問題に言及しているようで。読んでないけど内容は今までと同じことの繰り返しでしょう。時間があったら書評を書いてみようかな。にしてもよく彼らの言動を高評価できるよな・・・。高評価している人たちを見るとなんか疑似科学にはまる人とだぶるんですけど。

ニセ科学批判への理解度

2008-12-07 17:14:11 | Weblog
 ニセ科学批判が活発になるにつれ「ニセ科学批判」批判というものがあらわれてきました。最近話題になっている「ニセ科学批判」批判者はここの人で、あまりに不誠実な対応から四方八方に敵を作るという有様です。
僕には「ニセ科学批判」批判の方が言うことがいまいちわかりません。ここ(読みにくいので注意)みたいに大してニセ科学批判や科学哲学を理解していない批判者ばかり見ているせいかもしれませんが、どうにも彼らがほとんど何も調べないまま的外れな発言をしているように感じるのです。まあ、僕のニセ科学やその批判に対する理解度もまだ危ういところがありますけど。
忘れないためのメモ代わりに僕の理解と解釈を書いておきます。
・ニセ科学とは科学でないのに科学を装ったあるいは科学と錯覚させるものである。
・僕にはニセ科学と疑似科学の違いがあまりわからない。
・ニセ科学批判の動機は個々人でさまざま。
・ニセ科学批判の一番の目的はニセ科学を科学の視点から批判すること。

セイヨウミツバチとニホンミツバチの競争2

2008-12-01 00:51:35 | 外来生物
 この前の続きです。以前セイヨウミツバチは蜜集めに関してニホンミツバチより優れているが野生化している地域は少ないと書きました。これにはよく言われるように天敵の存在があります。この天敵の筆頭にオオスズメバチがいます。オオスズメバチは巣の働き蜂が数十頭に達する8月から営巣活動の終わる11月頃まで他種のハチを集団で襲います。襲う対象は主にキイロスズメバチなど同属他種のハチですが、ミツバチも襲います。セイヨウミツバチはオオスズメバチが襲来すると積極的に迎え討とうとします。しかし、他種のスズメバチとの競争を繰り広げてきたオオスズメバチには全く歯が立ちません。2~3万頭のセイヨウミツバチの群れが全滅するのに3~4時間もあれば十分なほどです。オオスズメバチにとってセイヨウミツバチの巣を襲うコストは蜂球など防衛策を持っているニホンミツバチの巣を襲うより低いのです。実際、セイヨウミツバチが養蜂場から分蜂して野生化しても、オオスズメバチがいる地域では8月中旬以降はほぼ全てがオオスズメバチの攻撃で全滅しているようです。
 他にもセイヨウミツバチにとって野生化するうえで厄介なものがあります。それが寄生ダニと病気です。寄生ダニの代表としてはミツバチヘギイタダニというダニがいまして、1950年~1960年にかけ飼育されたセイヨウミツバチの間で多発生し、群れが壊滅するということがありました。現在では殺ダニ剤のおかげで飼育下では被害が少なくなりましたが、野生化した群れではこのダニによる弱体化が依然続いているようです。もう一つの病気についてですが、セイヨウミツバチに壊滅的な被害をもたらす病気(例アメリカ腐そ病)に対しニホンミツバチは抵抗力を持っていたり、セイヨウミツバチでは発病が確認されているのに対しニホンミツバチでは発病が確認されていない病気があります。この病気への耐性については遺伝的な多様性が関わっているのではないかと僕は考えます。一般に家畜化された動植物は近縁の野生種に比べ遺伝的多様性が低いことがとりざたされます。セイヨウミツバチも長く人の保護下におかれ遺伝的多様性が低くなっているのでしょう。
まとめ
・セイヨウミツバチはニホンミツバチより蜜集めがうまい
・その要因として数で圧倒していることが考えられる
・天敵の筆頭はオオスズメバチ
・オオスズメバチへの耐性 セイヨウ<ニホン
・寄生ダニ、病気への耐性 セイヨウ<ニホン
・オオスズメバチのいない小笠原諸島で野生化し現地のハナバチと競合していることから野生化するうえで最大の障害はオオスズメバチと考えられる