ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

血液型の科学 感想2改訂版

2010-04-27 22:55:39 | いい加減なモノ
 前回の「血液型の科学 感想2」での僕の批判に荒があり、それを指摘してくれた人もいましたので、ここではそれを踏まえて再構築してみた批判をします。
 前回の批判では、寄生虫博士が梅毒の感染力が一定であるかのように考えているかのように考えて批判をしていました。しかし、そのすぐ後のP154を確認してみたら、ヨウという感染症が流行しているアフリカで梅毒の感染力が弱まったとあります。これを踏まえて考えると、理屈の上ではアメリカ大陸ほど日本で梅毒が強力な淘汰圧として働いていないということも説明可能ですね。これは、きちんと読んでいなかった僕のミスです。
で、これを踏まえてもう一回寄生虫博士の論理を批判してみます。
そもそも、梅毒の起源とされているアメリカ大陸においても、集団によっては結構O型以外の血液型も見受けられるんですね。

アメリカ先住民のABO血液型

O型の頻度が多いと言えど、北アメリカではA型やB型の頻度がかなりあり、集団によってはA型単体でO型を上回っています。梅毒の当初の影響は凄まじかった、梅毒の影響はアフリカ以降では弱くなったという寄生虫博士の主張ではこの状態の説明が難しいんじゃないでしょうか。
もっとも、サンプルを取った集団がほかの部族と交流がなくて梅毒の影響を受けなかったという説明をすることも可能といえば可能ですが、こういくつもあるとそればかりでは説明できないでしょう。

まあ、そもそも寄生虫博士の理屈に乗っからなくても「それただのボトルネックだから。人類学勉強しなおしてきてよ」で済む話ではありますけど。


寄生虫博士は人類学にケンカを売るようです 血液型の科学 感想2

2010-04-24 22:36:19 | いい加減なモノ
 タイトルそのまま。寄生虫博士は人類学や集団遺伝学が積み上げてきた知見を完全に無視しています。長文の引用になりますがお付き合いください。

P152~153(引用はじめ)>ところで、民族の血液型構成にもっとも大きな影響を与えた感染症は梅毒だと私は考えています。梅毒の感染を受けた民族の血液型分布がどのように変わっていったのか、その変遷を見てみましょう。
 梅毒はもともとアメリカ大陸の地方病でした。一四九二年、コロンブス一行がアメリカ大陸からヨーロッパに持ち込んだことによって、梅毒は全世界に拡大しました。ヨーロッパからアフリカへと流行は拡がり、感染はアジアの最東端である日本にも及びました。
 梅毒の感染力のスピードは想像を絶するものでした。二十世紀半ばに特効薬であるペニシリンが開発されるまで、四百数十年間で世界中を流行の渦に巻き込んでしまったのです。
 梅毒の当初の感染力は凄まじいもので、人類が絶滅してしまうのではないかと危惧されるほどでした。なかでも梅毒に弱いAB型人間は壊滅的な被害を受けました。O型の人は梅毒に対する抵抗力があったため、O型以外の血液型の人が淘汰され、ほとんどO型人間だけが生き残ったというわけです。
 アメリカ先住民の九〇%がO型であるという事実や、北アメリカ、中央アメリカおよび南アメリカに住む人たちのうち、AB型の割合が常に二ないし三%にすぎないという事実がそのことを裏付けています。(引用終わり)

うん、だからね、アメリカ大陸のそれはボトルネック効果というものですから。というかね、それほどまでに梅毒がすさまじいならなんで日本にはABO全ての血液型がほぼ均等にあるんですか?寄生虫博士の言うことが正しいとしたら日本でもO型の割合が圧倒的多数でなければ説明がつかないでしょうが。遺伝的多様性ってのはそうそう都合よく回復してくれるものではないですよ?

>O型の人は梅毒に対する抵抗力があったため、O型以外の血液型の人が淘汰され、ほとんどO型人間だけが生き残ったというわけです。

ということは、梅毒がボトルネックの引き金となって遺伝的多様性に大きく偏りが出たとみるべきでしょう。そして、そういった遺伝的多様性の偏りは後々まで引き継がれます。アメリカ先住民のケースを例に挙げている以上、寄生虫博士もそこら辺は知っているはずでしょう。
では、どうして日本はアメリカ先住民の3,4倍もAB型の割合が多いのでしょう?さらに言うなら、日本赤十字のグラフを見る限り、O型はA型より少ないんですが、これはご自身の発言と矛盾しませんかね?
壊滅的な被害をAB型がうける、O型以外の血液型は淘汰されると言っている以上、日本も同様の割合にならなければおかしいでしょう。それにこの本のP53に日本をはじめとする数カ国の血液型の割合のグラフがあるんですが、それは確認したんですか?

あと、人によってはもしかしたら判断材料になるかもしれないので、この本の文中で論拠としてあげられていた本を抜粋しておきます。

梅毒、結核と血液型について 「The History and Geography of Human Genes」カバリ・スフォルザ 1994

病気と血液型の相関について 「人類遺伝学」 フォーゲル、モトルスキー著 朝倉書店

さらに、P127~128では東北大学農学部の齊藤忠夫教授が寄生虫博士の論に賛同しているという旨のメールが来たと言っています。

簡単にできるカステラ 補足

2010-04-22 00:25:52 | 料理
 皆様に大好評でこのブログ史上最多のブクマをつけていただいた「簡単にできるカステラ」ですが、どうも人によっては上手くいかないとのこと。

>SIVAPROD レシピ 最初は羊羹、その次はういろうが出来ました...orz

そこで、上手くいかない原因をこちらの方で考えられそうなことをまとめて補足としてみました。
羊羹やういろうになってしまうということは上手く膨らんでくれないというわけですね。
考えられる原因としては、
1.粉を3回以上ふるっていない。
2.粉を入れてから混ぜる時間が長すぎる。
3.余熱が十分でない。
4.ハンドミキサーの速度が遅い。
5.オーブンレンジの出力が低い。
ということが考えられます。
1.については、粉ふるいを使って3回以上ふるってから混ぜてくださいとしか言いようがありません。僕の場合は4,5回ふるうこともあります。
2.については、粉を入れてから10分近く混ぜていないでしょうか?そこまでする必要はありません。だいたい1回ごとに1分混ぜて合計で3分くらい混ぜれば粉っぽさはなくなります。また、粉を入れるのは蜂蜜や牛乳、洋酒を混ぜ終わってからにしましょう。
3.については、10分間の余熱をきちんとしても焼きはじめるまでに時間がかかりすぎるとオーブンレンジ内の温度が下がっていることがあります。個人的な経験では、5分以上経つと余熱をし直す必要があると感じています。混ぜてから型に入れるまでの時間を見越して15以上余熱をするということもありです。
4.については、ハンドミキサーをずっと低速で混ぜていないでしょうか?混ぜ初めは低速の方が材料が飛び散らなくていいですが、ある程度まとまってきたら(だいたい5分ほど経ってから)中速で混ぜた方がふんわり仕上がります。
5.については、10~20℃温度を上げて焼いた方がいいかもしれません。正直これは何回か繰り返して最適な温度を見つけてもらうしかないと思っています。
とりあえず、ざっと思いついたのはこれくらいです。他の方も手順通りにやって上手くいかなかったということがあったらブクマかコメント欄にコメントをください。コメント欄のほうはもうしばらくたってから解禁する予定です。

ありえない!?生物進化論 感想

2010-04-20 22:26:11 | 書籍
 「ダーウィン 種の起源を読む」で知られるサイエンスライターの北村雄一氏の本です。
進化生物学だけでなく科学そのものへの優れた啓蒙書になっています。
この本はクジラ、鳥類、バージェスの生物達を例にして分岐学、系統学とはどういうものか専門用語をなるべく使わずに平易に解説しています。高校生以上なら楽に読めると思います。
僕自身もこの本でメインとなっている分岐学、系統学にはあまり知識がないので楽しく読めました(三中さんだとなんだか難しいし)。骨、化石をメインにした形態学だけでなく、遺伝学の知見も巧みに織り込んでくれているので、読者を飽きさせない内容でした。
また、僕がこの本が優れていると思う点に科学そのもののプロセスについても専門用語を使わず上手く解説しているというところがあります。
たとえば、この本で解説されている分類においてどのデータを重要視してどれをしないのかなどはほかの科学でも共通することであり、この本を読むと生物学系の知識だけでなく科学そのものについてもわかってくるという一粒で二度美味しい内容になっています。正直、説液型性格判断の本に金使うよりこっちに投資した方が有意義だ。
北村氏については氏のHPとブログがあり、そこでも大変面白いことを書かれているので是非ご一読をお勧めします。
HP ヒリヒリ

ブログ hilihiliのhilihili

寄生虫博士は科学の寄生虫になったようです 血液型の科学 感想1

2010-04-16 20:39:17 | いい加減なモノ
ひどい本でした。思いつきを並べただけの根拠のない論理に想像力の欠如。怒りよりも先に呆れがこみ上げてくる本ですので、立ち読みだけで済ませて買わないことをお勧めします。こんな人に印税を落とすなんてそれこそもったいない。
内容について言いますと、この本は血液型性格判断を何とかして科学的に見せようと四苦八苦しています。「~なのです。」と断定することは多々あっても、それの根拠や参考文献を示すことはほとんどしません。まったくもって自分の思いつきを垂れ流すだけの不親切な本です。
血液型性格判断そのものの科学性については、すでに多くの秀逸な記事がweb上にありますのでそちらを見ていただくとして、ここでは人類学とかかわる部分のデタラメを指摘していきます。

P81>クロマニヨン人は食べ物がなくなったアフリカから世界各地に移動し始めました。紀元前三万年頃です。つまりO型の血液型を持つ人間が世界各地に散らばることになったのです。
このことは、世界各地の先住民族がO型であることからもうかがえます。先住民族である南北アメリカのネイティブ・アメリカンとイヌイットは、ほとんどの人がO型です。

いやいや、アメリカ先住民にO型が多いのは単なるボトルネック効果の結果ですから。この時点で集団遺伝学というものをご存じないのでしょう(知っててやったとしたら人類学や集団遺伝学に喧嘩売ってるのか)。

P82~83>穀類、豆類、野菜類などを好む腸内細菌にA型物質を持っている細菌がいて、たまたまその細菌の遺伝子がトランスフィクション(遺伝子移入)を起こした結果、農耕民族の新モンゴロイドにA型人間が誕生したのです。紀元前二万5000年から一万5000年頃だと考えられています。
 B型人間は、インドやウラル地方で紀元前一万年頃に誕生したといわれています。
P84>AB型はごく最近出現した血液型です。1000年から1200年ほど前には、AB型の人はいなかったと考えられています。その証拠として、西暦900年以前の墓からAB型の人間が見つかっていないことが挙げられます。おそらく、東方の騎馬民族が東から西へ侵略を続けるなかで、A型人間とB型人間の混血が起こり、AB型が誕生したものと思われます。
 つまり、当初、人類の血液型はすべてO型だったものが、農耕民族の一部からはA型が生まれ、遊牧民族の一部からはB型が生まれました。さらに、彼らの混血の結果、AB型がごく最近になって生まれたと考えられるのです。

まぁ、こういうことを言うならそれなりの根拠を出してほしいところですよね。しかし、人類学の研究者の見解とは明らかに異なるようですよ?

>血液型遺伝子の進化:血液型は細胞表面の抗原なので,バクテリアやウイルスなど細胞外からの影響を受けやすく,正の自然淘汰が生じる可能性が高いと考えられます。そこで,ABO式およびRh式血液型遺伝子の進化を研究しています。ヒトのA型,B型,O型の遺伝子塩基配列を比較した結果,それらは500万年ほど前から共存している可能性が強いことがわかりました。アウストラロピテクス(猿人)やホモ・エレクトス(原人)でもA型,B型,O型,AB型があったと考えられます。なぜこのような異なる型の共存が長く続いてきたのかは,まだよくわかっていません。

ある程度自然淘汰がかかるのは確からしいようですが、少なくとも血液型がここ数千~数万年程度で急速に分化してきたものではなく、かなり昔からA、B、Oすべてがそろっていたようです。自分で作った表の中に人間と近縁なチンパンジーがA、B、Oすべて持っているというのにどうして人間が共通派生形質としてそれを備えている可能性に至らないのかも僕には謎ですね。この人、進化生物学もだめなんじゃなかろうか(そもそも集団遺伝学をぞんざいに扱っている時点で何をかいわんやかもしれませんが)。
ていうかね、仮に数万年程度で急速に分化した形質が世界中の人類集団に見られるなんてことがあったとしてそれを人類学者が取り上げないわけがないでしょう?じゃあなんで本職の見解が寄生虫博士と異なるのか。素人の思いつきの検証くらい本職はとっくに済ませているわけでして、ここから先行研究への無理解と侮り、想像力の欠如がうかがえます。

熊森が学会をつくったようです

2010-04-12 22:05:19 | 熊森
 つい先日、熊森主導で「日本奥山保全・復元学会」なるものが設立されたようです。

日本奥山保全・復元学会:神戸・灘区で設立総会 /兵庫(リンク先はweb魚拓です)

全文引用しておきます。

>山奥の自然環境の保全や荒廃した森林の復元について考える「日本奥山保全・復元学会」の設立総会が10日、神戸市灘区の神戸大百年記念館で開かれた。研究者など約20人が出席し、会長に選ばれた自然保護団体「日本熊森協会」の森山まり子さん(61)は「森林の復元は難しいので、衆知を集めて山を取り戻す第一歩としたい」とあいさつした。

 山奥の森林は、杉やヒノキなどの人工樹林が侵食し、原生林のまま残っているケースは少ない。森林の荒廃が原因となって、クマやサルなどの野生動物が人里に下りてきたり、昨年8月の佐用町の水害を招いたという仮説について、学会は研究大会を定期的に開き、検証を進める。

 問い合わせは学会事務局(熊森協会内)電話0798・22・4190。【石川貴教】
 
 学会ってあなた達は具体的に何やるんですか?という突っ込みは置いといて僕の所感をいくつか。これで森山氏は熊森とこの学会の2つの団体の会長を兼任ですか。ふむ、まぁいいか。
そして学会事務局が熊森内部ですか・・・・・・。なんと言うか、いまだかつて論文を専門誌に投稿したことすらない団体が学会設立ってのは何の冗談ですかね。個人的にはホメオパシーあたりが権威づけに作った団体と同じにおいを感じますね。産経の記事を見る限りでは肝心の中身も熊森顧問で占められて特に変わり映えがなさそうに見えますしね。
僕の今の時点の感想は「学問的裏付けがあるかのように見せるために学会を作ってきたな」というところです。彼らに学問的裏付けなんて無いに等しいんだけど、今度はどんなネタもとい無理難題を押し付けるつもりやら。
一応、公式HPもあるようなのでお暇な方はのぞいてみてください。アンブレラ種の説明の仕方が早速おかしなものになっていますけど(正確にはおかしいと言うより不十分かな)。

遺伝的多様性に関する私見7 交雑問題2

2010-04-11 22:36:55 | 遺伝的多様性
 さて、前回の書いたことを踏まえて遺伝子撹乱はどうして問題視されるのか整理していきます。その前に前回書いていなかった重要な前提について書きましょう。それは“生物多様性は歴史的遺産としての側面を持つ”です。なぜこういうことが言えるのかというと、生物多様性というのは長い年月をかけて出来ているからです。たとえばヒトとチンパンジーが種分化してから500~700万年経つとされています。けしてヒトとチンパンジーがある日突然はっきりと分かれたわけではありません。気の遠くなるほど長い年月をかけて少しずつ遺伝的な違いが積み重なった結果、現在のヒトとチンパンジーがあるわけです。ここから言えることは、生物は個々に固有の歴史を持っているということです。
実際、古墳や貝塚から当時の生活の手掛かりが得られるように遺伝子からある種AとBがいつ別れて行ったのか、過去にどのような分布の広がりを持っていたのかなどを調べることができます。
そして、僕たちの社会というのはこういった歴史的遺産にある程度価値を認め、それをむやみに傷つけるのは慎むべきという風潮があります。たとえば、イースター島のモアイに傷をつけた日本人が逮捕されたという事件がありましたし、国内外の文化財に傷をつけて御用ということはままあることです。こういった人たちはまず好意的な見方をされません。裏返して言えば、歴史的遺産は個人がむやみに傷つけていいものではないということです。これは、遺伝子撹乱にもほぼ当てはまります。遺伝的多様性を含む生物多様性は歴史的遺産の側面を持つからこそ、それをむやみに傷つける行為は慎むべきということです。
これに対して異論もあるでしょう。たとえば「保全生態学でも外部から人間が遺伝子を持ち込むことを推奨する場合もあるじゃないか。個人の持ち込みで遺伝子撹乱が起きるならそれだって遺伝子撹乱だろう?」というものです。これは半分正しくて半分間違っています。まず、保全生態学でそういうことをやる場合は類縁関係を考慮しています。歴史的遺産のたとえで言うならボロボロになった歴史的遺産を修復するようなものです。つまり、なるべく元の形は残そうとしているわけです。これに対して、遺伝子撹乱とよばれるものはそこら辺を考慮していません。わけのわからないつぎはぎ。たとえて言うなら東大寺の大仏をしゃちほこの代わりに大阪城の天守閣に移動させたようなものです。
たとえ傷ができてしまったとしても、修復と落書きを同列に論じることはできませんよね。ただし、その修復が本当に適切であるのかについての議論はありでしょう。
ここでのまとめとしては、僕たちが歴史的遺産の価値を重要視するのであれば(大切な前提)、それをむやみに傷つけるような行為は慎むべきで、それは遺伝的多様性にも当てはまるということです。次回は交雑によって保全の上で不利益を被った例を紹介したいと思います。

遺伝的多様性に関する私見6 交雑問題1

2010-04-08 23:41:16 | 遺伝的多様性
 かなり遅れてしまってすみません。コメント欄のほうはしばらく凍結しますので、不便かもしれませんが我慢してください。
 遺伝的多様性にかかわる問題の一つに遺伝子撹乱ないし汚染と呼ばれるものがあります。これがどういうものか簡単に説明してしまうと、外来生物が在来生物と交雑することによって在来生物の集団内に外来生物の遺伝子が侵入してしまうことです。
たとえばタイワンザルとニホンザルの交雑やニホンバラタナゴとタイリクバラタナゴとの交雑がこの例としてあげられます。ここで例に挙げた生物たちはいずれも分類学上別種ないし亜種の関係にあります。
これだけ見ると、異種間同士の交雑だから問題視されるかのように見えます。でも、異種間での交雑そのものは人間が関与していなくても起こるんです。たとえば、ヨシノボリという淡水に主に棲むハゼ科の魚がいます。ヨシノボリは色や生態的な特徴に基づいて現在13種に分類されています。核DNAを見ても個々の種ははっきりと分化しているようです。しかし、こいつらはミトコンドリアDNAを見る限りでは過去にお互いに交雑していた形跡があるようです。どうしてそんなことがわかったかというと、同じ場所に生息するいくつかのヨシノボリのミトコンドリアDNAを調べてみたら、種ごとではなく地域ごとにまとまった特徴を示す系統になりました。つまり、ミトコンドリアDNAを異種間で共有しているわけです。ミトコンドリアDNAは母系遺伝といって母親のDNAのみが子供に伝わるという特徴があります。ミトコンドリアDNAを調べれば多種間で交雑があるのか知る手掛かりが得られるわけです。もしかしたら、今でもヨシノボリたちは異種間で交雑しているのかもしれません。
もうちょっと身近な魚でいえばメダカもそうです。メダカは遺伝子により大きく分けてきた日本集団と南日本集団、さらに南日本集団内のいくつかの集団に分類されています。そして、一部の地域では北日本集団と南日本集団という異なる二集団の間にハイブリッド集団と呼ばれる交雑集団が見られます。もっともメダカの場合は異種間ではなく異遺伝集団間ではありますが。このハイブリッド集団の形成にヒトは関与していません。
さらに言えば生物学的種概念という生物学に広く受け入れられている定義からみれば、交配して子や孫ができる時点で同じ種とみなすことも可能です。同種内の交雑のいったい何が問題になるんだ?と思う方もおられるでしょう。事実、そういう見解を示す大学教授なんかもいます。

すでにおわかりの方もいらっしゃるかと思いますが、実は僕は生物多様性の保全を論じるうえで重要な前提を書いていません。
次回は交雑問題の何がどうして問題視されるのかここで書かなかったことを踏まえて説明します。

参考文献
淡水魚類地理の自然史 渡辺勝俊・高橋洋編著 北海道大学出版

交雑カメが与える影響

2010-04-05 01:01:15 | 外来生物
 名古屋のため池で外来カメと日本産カメの交雑個体が発見されました。

朝日新聞 名古屋のため池に外来種との交雑カメ 在来種駆逐の恐れ

部分的に引用します。

>交雑したカメが確認されたのは、名古屋市昭和区の住宅街にある「隼人(はやと)池」。市や市民が昨年9月に調査した際、35匹の在来種のカメのほか、外形からは種を分類できないカメが9匹見つかった。
 愛知学泉大の矢部隆教授(動物生態学)らが8匹のDNAを分析したところ、台湾や中国南部などに生息するハナガメと在来種との交雑カメと確認。2匹はニホンイシガメとの交雑カメで、6匹はクサガメとの交雑カメだった。元の3種類のカメは同じイシガメ科だが、属が異なる。ハナガメはペットとして国内に入り、放されたとみられる。
 交雑カメは見た目も、親世代の特徴が交ざっている。ハナガメは頭部から前脚にかけて黄緑色のストライプ模様があるが、クサガメは線や点が混在している。一方、交雑カメは頭の上側がストライプで、下側にはクサガメに似た模様が入っている。

クサガメとイシガメは甲羅にキール(稜線)が3本入っているかどうかで見分けられます(キールが3本あったらクサガメ)が、外形からわからなかったということは甲羅のキールの数はまちまちで個体間の変異が大きいということでしょうか。

>矢部教授は、交雑が繰り返されて遺伝子の汚染が広がることを懸念する。「生物は進化によって地域に合うように遺伝子を構成している。交雑してしまうと、遺伝子が劣化して、地域の遺伝集団が衰退する可能性がある」と話す。

この部分をどうやって説明するかは悩ましいなぁと思います。僕も今、遺伝的多様性についてちょっとやっているわけだけど、上手い説明というものがなかなか出てきません。結局、こういう説明の仕方になることが多いんですが、可能性だけだといまいち実感が伴わないんじゃあないかと思ってます。本当に難しい。

>また、交雑が広がる過程で、交雑カメによって在来種が駆逐されるおそれもある。
 ハナガメは、ニホンイシガメやクサガメより体が大きく、1回に産む卵も多い。交雑カメはハナガメの特徴を持つため、エサや生息地域が重なった場合、在来種より優位になるという。矢部教授は「交雑カメが増えて在来種が減れば、その地域固有の生態系が変わり、生態系の多様性が失われてしまう」と指摘する。

雑種強勢といって、交雑した個体が親個体たちよりも繁殖力や生命力が強いことがあります。こういった場合、記事にも書かれているように交雑個体が在来種を駆逐することがあります。エサや住処など必要とする条件が重なりやすいため競争が起こるわけですね。そして、競争に在来種が負けてしまうと、そこから駆逐されてしまいます。ここは「自然淘汰」について知っていればわかりやすいですね。