ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

獣害ネタ2つ

2011-05-11 22:37:35 | 獣害問題
 僕も参加した兵庫県のクマシンポジウムの内容が兵庫県森林動物センターのHPで公開されています。
森林動物研究センターシンポジウム2010開催結果報告

梨のレポートはこちら

アンケート結果を見ると露骨に熊森の質問があったりしてなかなか笑えます。
そして、熊森にとっての不都合な真実をもう一度ここに書いておきます。

凶作年でもクマの脂肪蓄積など栄養状態に問題なく、生息頭数も増加傾向でドングリを撒かないとクマが減る状況ではない。

(藤木研究員の発言。パネルディスカッション概要より)



シンポジウムに行けなかった人、興味のある人はどうぞ。
もう一つは、日本オオカミ協会(以下オオカミ協会)のHPが跡形もなく消えていることです。たしか2,3ヶ月前にリニューアルされたはずが突然消えるのは一体全体どういうことでしょうね?グーグルにキャッシュが残っていたので助かりましたが。
オオカミ協会が醜態をさらしたQ&A
イノシシは減っているのに増えていて、クマは日常的に人を襲うというのがオオカミ協会の見解らしいですよ。本当に一知全壊した知ったかぶりなことで。
しかし、キャッシュが取れた最後の日が5月4日ですが、その日は僕がオオカミ協会批判を書いた日なんですよね。たかが一個人の批判でHPごと消すなんて、まさか・・・・・・ねぇ?まぁ僕の考えすぎですよね?

雪中の狼

2011-04-13 23:35:16 | 獣害問題
 ネット上ではオオカミに人間が襲われた事例はあまり見つからない(梨の探し方のせいかもしれません)のですが、ネット上でも閲覧できる数少ない資料の紹介です。

雪中の狼 二編 巻二

北越雪譜(ほくえつせっぷ)という江戸時代の書物からの狼害についての記述です。
場所は現在の新潟県魚沼市のあたりです。

ひとゝせ二月のはじめ、用ありて二里ぱかりの所へいたらんとす、みな山道なり。母いはく、山なかなれぱ用心なり、筒をもてといふ、実にもとて鉄炮をもちゆきけり。これは農業のかたはら猟をもなすゆゑに国許の筒なり。

このころから、獣害というのが身近かつ、山が危険であったということがうかがえます。ちなみに旧暦の2月ということで、人に危害を加える動物のうちクマは冬眠しており、イノシシも豪雪地帯には少ないので、鉄砲を持っていたのはオオカミ対策の色合いが強いのではないでしょうか。


やがて吾が村へ入らんとする雪の山蔭に狼物を喰ふを見つけ、矢頃にねらひより火蓋をきりしにあやまたずうちおとしぬ。ちかよりみればくらひゐたるは人の足なり。

村近くにオオカミがいたので鉄砲で撃って近づいてみれば、オオカミが人を食べていたということですね。これだけでもトラウマものでしょうが、家に帰るともっと恐ろしい出来事が待っていました。

家のまへの雪の白きに血のくれなゐをそめけり。みるよりますますおどろきはせいりければ狼二疋逃さりけり、あたりをみれば母はゐろりのまへにこゝかしこくひちらされ、片足はくひとられてしゝゐたり。妻は囱のもとに喰伏られあけにそみ、そのかたはらにはちゞみの糸などふみちらしたるさまなり。七ツの男の子は庭にありてかばね半ば喰れたり。妻はすこしいきありて夫をみるよりおきあがらんとしてちからおよばず、狼がといひしぱかりにてたふれしゝけり。

家に帰ると2頭の狼が逃げ出し、後には喰われた母、妻、息子がいたということです。食い散らかされたり、半ば喰われていたり相当凄惨であったことがうかがえます。唯一、娘だけが床下に逃げてたすかったとこの後にはあります。


おひおひあつまりきたり娘にやうすをたづねければ、囱をやぶりて狼三疋はせいりしが、わしは竈に火をたきてゐたりしゆゑすぐに床の下へにげ入り、ばゞさまと母さまとおとがなくこゑをきゝて念仏申てゐたりといふ。かくて此ありさまをいふぺき所へつげしらせ、次の日の夕ぐれ棺一ツに妻と童ををさめ、母の棺とニツ野辺おくりをなしけるに涙そゝがざるものはなかりけるとぞ。おもふにはゝが筒をもてといひしゆゑ、母の片足を雪の山蔭にくらひゐたる狼をうちおとして母の敵はとりたれど、二疋をもらしゝはいかに口惜かりけん

娘の証言によると窓(煙出し?)から3頭のオオカミが侵入してきて、娘はすぐさま床下に逃げて助かったようです。肉親が喰われる音を聞いていたという心境はいかばかりでしょうね。書いているこちらも気分が悪いです。村近くのオオカミが食べていたの母の足ということもここからわかります。
また、この後の記述には狼毒という言葉が出てきます。北越雪譜二編が出版されたのが1841年ということなので、このころには狂犬病が広まっていたのでしょうか?そこら辺の考察も面白いと思いますが、僕には人獣共通感染症の知識はないのでここで筆をおきます。

今回は試験的にBLOCKQUOTEで引用の形をとっています。わかりにくいという声が多いようなら今まで通りに戻します。
追記/足を喰われるところを妻と誤読していました。正しくは母です。謹んでお詫びします。

クマ対策に関するお知らせ

2011-01-06 19:47:21 | 獣害問題
 去年のクマの大量出没を受け、日本クマネットワークと東京動物園協会が緊急シンポジウムを行うそうです。

「繰り返されるクマの出没・私たちは何を学んできたのか?
 ―2010年の出没と対策の現状―」(仮称)


期日:2011年2月12日(土)13:00-16:30

場所:東京都恩賜上野動物園 動物ホール
主催:日本クマネットワーク,(財)東京動物園協会
後援:WWFジャパンなど(予定)

定員:150名
申込方法:メールによる事前申込(先着順)
※申込先などは決定次第掲載いたします

過去の出没年との比較検証やこれからのクマ管理の在り方について発表されるようです。
僕のブログの記事を読むよりよほど有意義だと思うので、近くの方は足を運んでみてはいかがでしょうか。


イノシシに餌をやる

2010-12-14 22:05:56 | 獣害問題
 一部ネット界隈では熊森がどうした、餌やりはどうなのかと議論になっていますが、一方でこんなことをなさる方もいるようであります。

イノシシと牛:餌おすそ分けで仲よく 長崎・雲仙 毎日新聞

リンク先を読んでいただければわかるかと思いますが、牛の飼料の一部を野生のイノシシにもあげているようです。クマにせよサルにせよシカにせよ獣害問題に関わる人間ならどれだけの努力を無に帰しているかお分かりでしょう。
イノシシに餌をやることによる害はすでに出ていて、神戸市では条例で禁止にしているくらいです。
イノシシ条例について
↑のリンクを読むだけでもイノシシに餌をやることがまずいということは分かっていただけると思いますが、とりわけ、九州は今年、口蹄疫があったんですよね。もし宮崎で封じ込めが失敗して九州全体に広がっていたらこういったイノシシに餌をやるという行為は口蹄疫を広げかねない行動であったわけです(念のため補足しておくと、口蹄疫は豚と生物学的に同種なイノシシはもとよりシカなども罹ります。参考)。
というか、口蹄疫が広がっていたらこのように家畜と接触する野生動物は真っ先に駆除されたことでしょう。山に帰ってさらに広められたら困りますしね。そうでなくても長期的に見て動物も人間も不幸になる確率が高い行為です。

動物に餌をやるときはそいつを殺す覚悟ができたとき・・・心あるアクアリストなどや僕のように外来生物に関わっている人間が肝に銘じていることです。この方も畜産という動物の命を預かる立場にいるのならそれくらいの認識は持っていて欲しいのですが・・・。
そしてこれだけは言いたいのはこんなことを美談のように取り上げる記者の見識の低さ。小学生じゃないんだから少しは調べろよと思います。馬鹿にしてもしょうがないんで、獣害などについての記事を書いて少しでも彼らの目に留まるようにするしか僕が現在できることはありませんが。


自治体のクマ対策 基本のキホンと現状

2010-11-30 11:01:28 | 獣害問題
 さて、クマが人里に出没した場合の対策を自治体はどのように行っているのでしょう。
大きく分けて予防と事後の対応の2つにわかれます。ここでは、クマが出没してからの事後対策を先に紹介します。
クマが人里に出没してしまうと、追い払われるか捕殺されることが多いです。この際には猟友会の協力を借りることが多いです。
麻酔を打てという意見もありますが、麻酔に主に使用されるケタミンは麻薬として法的に取り締まっています。ですので、所持には都道府県知事による許可を必要とします。さらに、市街地の場合、法により簡単に麻酔銃が撃てません。麻酔銃を撃てる人材もそう多くはないし、地域によってはすぐに使える麻酔銃がその場にないということも・・・(参考クマが出たぞー1~6。特にを参照)。
 一部の自治体では学習放獣というものを行っています。捕獲したクマを山まで運び、トウガラシスプレーなどクマの嫌がるもので人の怖さをクマに学習させて放つというものです。兵庫県などを見る限りある程度(約7割)は効果があるようですが、2度ないし複数回捕獲されたクマは人と事故を起こす可能性が高いということで殺処分されます。
多くの自治体ではクマを人里に近づけさせないため、誘因物の除去、わかりやすく言えば餌となるものの除去を行っています。具体的には人が収穫しないカキの木の除去や規格外として処分される農作物を放置しておかないなどですね。猿害対策だとお供え物の花やお菓子すらお参りが終わったら即座に片付けるように推奨されています。また、人里の餌に依存する前のクマには電気柵で農作物などを囲むのが有効であるようです。
ここにいくつかの都道府県などのクマ対策を紹介しておきます。

クマ類出没対応マニュアル -クマが山から下りてくる 要約版

兵庫県環境審議会答申(ツキノワグマ保護管理計画)案(概要)

農作物獣害防止対策事業について

いくつかご覧になられましたか?どれにも餌となるものの除去があげられていること、隠れ場となる藪の除去、山に入るときはクマ避け対策をするのがあがっているのがおわかりいただけると思います。その中でも、誘因物となる食べ物の除去というのはクマと人との事故を防ぐうえで重要な位置にあります。クマが出てくる理由って餌ですからね。そして、熊森が何をしているか考えてみましょう。そう、ドングリ運びはクマを人里に近づける誘因物になりえますよね。基本的に予防が重要なのにそこを疎かどころか逆行しているのが熊森です。ここまででクマ問題の基礎は終わって、来週から熊森批判に移ります。ここまでに書いたことを踏まえていくので資料には目を通しておいてくださいね。

クマによる被害

2010-11-25 18:35:36 | 獣害問題
 昨日の記事については、拙速に書いたもので、後から見直すとわかりにくいところが多かったので、熊森批判の中でしっかりと言及したいと思います。
今回は人里に出たクマ、人と出会ってしまったクマによってどういう被害が引き起こされるかということです。
それでは、クマが人間に与える被害としてどのようなものがあるのでしょうか?
農作物や家畜への被害
リンゴやスイートコーン、家畜などが狙われます。先月末には福島県でチャボの入った鳥小屋が襲われ、50羽いたチャボは数羽を除いてすべて殺されました。

林業への被害
 クマによって木の皮を剥がれるという被害がよく報告されます。カラマツや杉など針葉樹が多いようです。詳しい理由はまだ解明されていませんが、樹皮の下の層に含まれる糖類が目的なのではという仮説があります。

水産業への被害
 養殖場のニジマスなどが狙われます。魚の餌もまた狙われることがあります。魚の餌には魚粉などのタンパク質が使われていますしね。けっこう、専用の魚の餌っていいにおいします。

養蜂への被害
はちみつなどを目当てに巣箱に執着することがあり、これが引き金で事故にあったケースもあります。

これらをある程度まとめた被害額は平成20年度の「全国の野生鳥獣類による農作物被害状況について」を見ると、一番被害額が大きいのはシカで58億1600万円です。その次がイノシシで53億7600万円、サルが15億4200万円、クマで3億6300万円です。クマは被害額だけで見れば少ない部類です。そもそもイノシシやシカほどは個体数がいないというのもありますが。ただし、クマは1頭あたりがものすごく食べますから、被害にあった農家1戸あたりで見るとまた違ったものになるでしょう。また、クマの被害額が多いのは、果樹、飼料作物、野菜、工芸作物です。とりわけ、飼料作物と工芸作物に多いようです。
ここ数年の被害額の推移としてはイノシシが獣ではトップでしたが、シカが追い上げて20年度には追い越しています。

人身事故
環境省の22年度の速報を見てみましょう。
H22年度におけるクマ類による人身被害について[速報値]
ここ何年かの人身被害を見ていくと、ヒグマも含めた全国でだいたい約50件~150件といったところです。たいていの年は50件前後に収まっています。注目していただきたいのは北海道で年間600~800件の出没がある斜里町などがありながらも道全体ではここ数年5件以下に収まっています。それだけ、対策に力を入れ、かつ理解ある人がいるということです。
一番気になるであろう死亡件数は平均すると、クマによる死亡者は1年に1人くらいです。
このほかにも、人家に入って食べ物を漁ったという被害などもあります。ここでは代表的なものを紹介しました。
次回は行政のクマ対策についてです。

参考
全国の野生鳥獣類による農作物被害状況について(平成20年度)

クマが出没するわけ

2010-11-22 19:38:14 | 獣害問題
 クマとドングリの生態について説明したところで、クマはどうして人里に出没するのか?という点について論じていきます。クマの出没原因には大きく分けて2つあります。
1. 山の餌が足りない
このように書くと、簡単そうに見えますが、実態を把握することが大変難しい原因です。よく熊森は(奥山の)ドングリがなくなったからだ、広葉樹が減ったからだと言いますが、クマは食性が広く、行動圏もまた広い動物です。仮にドングリが凶作でも、山ブドウやアケビのような液果が豊作ならそちらを食べます。地域ごとに豊凶作もありますから、ある地域で凶作なら、別の地域に移動するということもクマには可能です。
餌がなければ、移動すればいいじゃない。くまだもの。
また、ドングリもすべての種が一斉に凶作になるのではなく、種ごとにパターンがあります。たとえばブナはだいたい5年に一度豊作になり、そのほかの年は凶作ですが、ミズナラの場合は2年に一度豊作になるというように種によって違いがあります。数年連続してドングリがどれも凶作という状況は考えにくいのです。ただし、複数種のドングリの凶作が重なる年は実際に起こります。全国的に多くのクマが出没した2004年や2006年では複数種のドングリが凶作ないし大凶作でした。

2. 人里近くに餌が豊富と気付いた
そもそも、野生の植物より人が育てた作物、果実のほうが栄養価が高く、美味しく、密集して存在します。2でクマはドングリをかみ砕いて消化すると述べましたが、それはドングリからすれば自分の子孫が育ちません。その対策としてドングリ類は一般にタンニンという物質が多く、苦いです。話がそれますが、お茶の渋みもタンニンによるものです。クマにしても、タンニンが消化を阻害するので、ミズナラの場合、炭水化物の消化率は64.2%、粗タンパクが17.3%という研究報告があります。このように消化阻害物質が多いということは、人間にとっても不味く、栄養になりにくいことを意味します。そのため人間が栽培している農作物はそういう植物側のガードを品種改良で意図的に崩しています。ということは、クマも山で美味くもない(と彼らが思っているかはわかりませんが)ドングリを食べるより人里でトウモロコシやリンゴを食べたほうが消化吸収もいいし冬眠のためのエネルギーを効率よく得られます。人里に行けば、廃棄された作物や人間の食べ残しがたくさんあります。こういったものがクマに限らず野生動物を人里に誘因させる原因となっているのです。
人里に来る頻度が多くなれば、それだけ人と接触する機会も増え、お互いにとって不幸な事故にもつながってしまうのです。


ドングリってなんだろう 補足

2010-11-20 17:10:16 | 獣害問題
 今週の後半は忙しくて記事をupできませんでした。今回は、前回の「ドングリってなんだろう?」の補足になります。ここで紹介するのはごく一部に過ぎませんが、ドングリとよばれる植物たちの多様性を少しでも感じていただければ。

この写真はクヌギです。

帽子のように見えるふさふさは、殻斗と呼ばれるもので、ドングリの仲間の特徴です。
こちらが常緑樹のドングリ

アラカシ(多分)

この時期(11月)でも青い実がついたままです。完全に成熟して落ちるにはまだかかりそうです。

マテバシイ

食べられるらしいです。
こういった常緑樹のドングリは公園や駐車場などに植えられることが多いです。ほぼ一年中緑なので見栄えもよいですしね。ただ、それがその地域にもともと生えていたものかは・・・。

・ドングリをゆでてみた
クヌギとコナラを鍋でゆでてみました。


クヌギを切ったもの。中央の白いのは虫で、茶色いところは虫の糞です。


食べてみましたが、・・・・・・渋っ。
追記/ちなみに、この渋みは、ドングリに含まれるタンニンなどの物質によるものです。このタンニンにはたんぱく質の消化阻害などの働きがあります。ドングリには虫やネズミなど天敵が多いので、少しでもそれらの影響を少なくする工夫ですね。ちなみに美味しいと言われるドングリ(ブナやシイなど)はたんぱく質が多く、クヌギなどは炭水化物が多く含まれています。昔の人はこれを灰汁抜きして食べていたそうです。
ちなみに、拾ってきたドングリは条件が整えば1日で発芽します。というか1日ほっといただけでそうなりました(写真中央のクヌギから根が)。

クマの食べ物 ドングリってなんだろう?

2010-11-15 19:17:03 | 獣害問題
クマの食べ物になる植物は多いですが、とりわけ木の実は栄養価が比較的高いという点で重要な食べ物です。クマが食べる木の実には、大きく分けて2種類あります。一つはドングリ類。堅く詰まった実で、堅果と呼ばれます。もう一つは山ブドウのように水分が多くみずみずしい実。これは液果と呼ばれます。あとで述べますが、種子散布者としてクマが役割を果たしているのは液果です。堅果は量が多いためクマの主要な食べ物として重要な位置にあると言われています。
クマはまだ木にある時からドングリを食べます。木に登り、枝を引き寄せ、折り曲げ食べまくります。そのため、しばしば、木の上にクマ棚と呼ばれる大きな鳥の巣のようなものが出来上がります。
ドングリが地面に落ちると、イノシシやシカ、ネズミといった競争相手が増えるので地面にあるドングリはクマの口にそうやすやすと入るものでもありません。クマからみれば、質、量が同じなら木の上にあった方が価値が高いともいえます。
クマは食べたドングリをかみ砕いて消化するので、ドングリの主要な種子散布者とはなりえません。ドングリの種子散布に一役買っているのはネズミや鳥類です。液果の場合は種はかみ砕かれずに腸内を通り、糞として出てきます。液果はそもそも動物に食べられることを前提として実をつけ種を運んでもらうというわけですね。
さて、ここまで特に注意もなく「ドングリ」という言葉を使ってきたわけですが、ドングリというのは堅果類の一般的な総称であって「ドングリ」という種があるわけではありません。ドングリとひと口に言っても様々な種類があります。以下に少し例を紹介します。
ブナ タンパク質が多く栄養価が高い。数年に一度豊作になり、そのほかの年は凶作。
ミズナラ ブナより短いスパン(約2年)で豊凶作を繰り返す。
コナラ 細長い実をつける。古くから人間に利用されてきた木の一つ。


クヌギ 実は大ぶり。樹液はカブトムシなどが利用する。


アベマキ クヌギと似ているが、樹皮がコルク質。
ブナは水量が豊かな地域に主に分布し、コナラやクヌギ、アベマキは里山の雑木林の代表的な樹種です。また、ここで覚えておいてほしいのは、ドングリは豊凶作を繰り返すということです。ここが重要な論点になってきますのでお忘れなきようお願いします。
ここまでドングリの種類について述べましたが、さらに種の中にも違いがあります。いわゆる遺伝的多様性と呼ばれるやつですね。植物みたいな移動手段を持たない生き物は地域間の違いが大きくなります。彼らにとっては数十キロの距離が人間にとっての日本とオーストラリアくらいの距離(実際にはそれ以上)のようなものです。ですから、その地域に生息していないドングリだけでなく生息しているドングリであっても、種が同じだからといってむやみに他所から持ってくるということは長い年月をかけて出来た生物の歴史を乱すことになります。

参考文献
ドングリの戦略 森廣信子著 八坂書房
森の分子生態学 種生物学会編 文一総合出版 第4章 ブナ集団の歴史と遺伝的変異

ツキノワグマとはどんな動物か?

2010-11-13 19:50:26 | 獣害問題
 熊森批判序章になります。今回はクマに対する知識ゼロの人に一から説明するつもりで作っていきます。この記事自体もカテゴリーは「獣害問題」の方にします。獣害とか生態学をやっている人にはぬるいかもしれませんがお付き合いのほどを。
熊森を批判する前に、熊森や保全生態学者が守ろうとしているクマとはどういう動物なのでしょうか。簡単に説明したいと思います。
まず、クマとひと口に言っても、日本に生息するクマには2種類あります。本州以南(本州と四国)に生息するツキノワグマと北海道に生息するヒグマです。どちらも冬には冬眠し、メスはその間に子供を産みます。基本的に木の実や若葉などを食べる植物食中心の雑食性ですが、ヒグマのほうが動物食性が強いようです。また、植物を食べますが、シカやウシのような草食動物ほど消化器官が発達しておらず、彼らほど効率的に植物を消化できません。
体重はツキノワグマで50~120kg、ヒグマが110~350kgほどです。基本的にヒグマのほうが大型化します。
今回、このブログで扱っていくのは主にツキノワグマです(以下、クマで統一)。
 クマの1年は春の冬眠穴から出てくることから始まります。3月下旬にオスが目覚めます。次に子供を持たないメスが目覚め、出産したメスが子グマと共に4月下旬頃に出てきます。この頃のクマは木の新芽やフキノトウなどの山菜を食べます。6月に入ると交尾期を迎えオスの行動圏が広がります。1歳を迎えた子グマはこの頃に親離れします。夏になるとアリやハチなど虫中心の食生活に変わります。夏は葉は成長して食べられないのと実が未成熟(とはいえ、桑やサクラなどこの頃に実をつける木がないわけではない)なのでクマにとっては食べ物の少ない時期です。食糧不足の年は夏から畑や果樹園に出没することもあります。秋になると冬眠に備えてクマの食欲が増加していきます。この時期はドングリ(堅果)やブドウ、サルナシなど木の実をよく食べます。特にドングリの実りとクマの人里への出没頻度には相関があることが確かめられています。
冬になると冬眠に入ります。十分に太ったメスはこの時期に妊娠し、60日ほどで未熟な状態の子供を1~2頭産みます。子供は授乳のみで成長し、春になって山菜が豊富になる頃、母親とともに冬眠穴から出てきます。
クマの行動範囲については、環境によって変わってきます。たとえば、上高地ではオスは45~123平方キロメートル、メスは33~96平方キロメートルです。これはクマの中でも行動範囲が広い方です。季節間の垂直移動距離も大きく、夏は2000mの高山帯で過ごしますが、秋には1000mまで下りてきます。これが西日本ではだいたい20~60平方キロメートルと推定されています。このようにクマは移動能力が高く、餌がある地域で不足したら別の地域に移動するという行動をとってきたのでしょう。

参考文献
「動物たちの反乱」河合雅夫・林良博編著 PHPサイエンスワールド新書
「ツキノワグマ」大井徹著 東海大学出版

追記 夏の食性について( )内を付け加えました。