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ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

ようやく、それなりの記事が

2011-01-14 22:45:35 | 熊森
 先日、あまりにも頭を使わない記事を書いたことで毎日新聞を批判しましたが、昨日、その毎日新聞から非常に革新的な熊森についての記事が出されました。

究・求・救・Q:餌不足によるクマ被害問題 ドングリまくより植樹 /岡山

内容は、熊森の活動を穏やかに批判しつつ、クマ問題の専門家である米田氏の見解を出すという大変、よく練られた記事です。ここまで、実際の関係者に配慮された記事は今まで出てきませんでした。
僕みたいな人間からすれば、これでも物足りなく感じてしまうのですが、賛同一辺倒の状況からは少しは変わりつつあると希望を持っても良いかもしれません。
筆者である石戸記者は以前から、環境リスクなどできちんと文献を読んだり取材をした冷静な記事を書き、web上でも盛んに情報収集をして自らの記事に取り入れることから、知る人ぞ知る良記者として知られてきました。
今回の熊森のドングリ運びについても以前からネット上の情報にあたっていたそうです。
 石戸記者は素晴らしいのですが、逆に新聞の抱える問題点も浮き彫りになってきました。それは記者の科学知識、論理的思考能力の有無がそのまま記事の質に直結するということです。政治、経済は詳しくないので何とも言えませんが、科学分野の記事はあまりデスクの修正能力が期待できないことが多々あると感じています。先日の毎日群馬支局しかり。ぶっちゃけ、今回の記事にしても石戸記者の能力あってのもので、ほかにそんな人がいるかというと、「・・・・・・いないんじゃない?」となってしまう状況はどうかと思います。まぁ簡単に答えが出せたら苦労しない類の物なので今回はこれ以上言いません。
最後に、石戸記者お疲れ様でした。

そんなドングリ運びで大丈夫なわけあるか

2011-01-11 21:54:55 | 熊森
 前回、他者危害と指摘した熊森のドングリ運びですが、適当にもほどがあります。

熊森のドングリを、クマが毎日バケツ1杯ずつ食べていく

以下引用
冬篭り前の食い込み期、クマは朝から晩まで飢餓状態となって食べ続けながら、フンもするのです。地元の方に聞くと、1日にバケツ1杯ずつクマが食べるので、毎日その分、熊森ドングリを補給してくださっているということです。このドングリがある限り、クマは人のところに出て行きません。
このクマを捕る為に、近くで、行政がクマ捕獲罠をかけてありました
引用終わり

バケツ一杯って全然定量化された数字じゃない。子供が使う500mlしか入らないようなバケツでも、5,6ℓは入る大きなバケツでもバケツ一杯に変わりはありませんからね。こんないい加減な表記で効果がありますと言われても苦笑いしか出ません。小学生の夏休みの自由研究じゃないんだから。好意的に解釈すればクマは1kg前後はドングリを食べていったのでしょう。毎日食べてるということは、そのクマは人の匂いに慣れているということです。事実、人慣れしたクマのようで、行政が捕獲を試みているとあります。熊森さん、あなたたち奥山にドングリをまくとか言ってたけどどうしたの?全然、奥山じゃないよね。

10月30日 やっとクマが、くまもりのドングリを見つけてくれた!

以下引用
やきもきしながら10月30日に再びドングリを持っていくと、なんと、ドングリの山が消えています。横には大きなクマのウンチが。ヤッター!クマがドングリを見つけてくれた!参加者一同、思わず、歓声をあげました。だんだん、どういうところに置けばいいのかわかってきました。
引用終わり

ドングリをまいて数日かかってやっとクマが食べたようですが、その間にどんな動物がドングリを食べに来たんでしょうねぇ。カケスにシカにイノシシ、ネズミといろいろな動物が来たことは想像に難くありませんが。さらに、数日間クマが来なかったということは、当初は人間の匂いを警戒していたかもしれず、そのうえで食べたとすれば、それはクマが人慣れしつつあるということですよね。それに加えて、長いことドングリ運びを熊森はやっていますが、ノウハウの共有化が出来てないんじゃないですか。やるんなら効率化も念頭に入れましょうよ。たったこれだけの文章でこれほど問題点が出るってすごいですね。
ドングリを運んでクマが食べたというところで思考が止まって、どういう影響があるのか、効果がどれくらいあったのかにまで頭を巡らせないようではね。


それでいいのかマスメディア 熊森報道に思う

2011-01-08 14:30:55 | 熊森
 熊森のドングリ運びが落ち着いたと思ったら、またメディアがやらかしてくれました。管理人、この前もメディアにブチ切れたばかりなのにね。アハハ。

ドングリ:餌不足のクマのため山にまこう 群馬・高崎


内容は、ほぼ熊森の主張に沿ったもの。ドングリ運びを誰でもできる美談としてとらえ、ドングリ運びに参加した人たちの声を好意的に紹介しています。生態系などへの影響はまったく考慮していません。
ドングリ運びの問題点については過去に書いた物へのリンクを貼っておきます。

自治体のクマ対策 基本のキホンと現状

そんな熊森で大丈夫か? 熊森のドングリ運びへの見解に突っ込んでみる

この記事を書いたのは鳥井真平記者という方だそうです。正直、取材を真面目にやっているとは思えません。いまどき、Google検索で「熊森」を調べれば、否定的、懐疑的な見解がすぐに出てくるのに裏も取らずに団体の主張を鵜呑みにした報道というのはねぇ。これは毎日に限った事でもありませんけれど。
まぁ、メディアが熊森に流れるのも分からないでもありません。だって頭を使わずに楽にすみますから。熊森の言い分をそのまま記事にするのは、あらかじめ「かわいそうなクマのために行動する人たち」という美談というレールがひいてあって、それに乗っかれば読者の支持も得られます。そのレールの先が崖に続いているということに目をつぶれば。
でも、プロのマスメディアであれば、熊森の取材条件のおかしさくらいは気づいて欲しいものです。熊森のHPの取材条件をみればわかるけど、自分たちの言い分に沿ったものは認めて、自分たちに否定的な記事のための取材は認めないなんて、あからさまにおかしいわけで。見方を変えれば、独裁国家の公営メディアとしての役割を押し付けているともいえるわけですよ。
そもそもジャーナリズムはそういったものと戦ってきたのではないのかと。
ま、金をもらったうえでこんなことをやっていれば、そりゃぁブログなどのネットに既存の大手メディアが駆逐されつつあるわけですよ。僕なんて、熊森批判を幾らやっても手元に1銭も入ってきません。むしろ金銭面だけで見たら、取材のための足代や資料費で赤字じゃないですかね。ボランティア以下のことしかできないプロに存在価値はないでしょう。

追記
ちょこっと毎日のツイッターの方にてそれとなく注意は呼び掛けています
もっとも、以前中日新聞にメールしたときのことを思うと望み薄ではありますが。

そんな熊森で大丈夫か? クマにドングリは他者危害

2011-01-04 19:39:14 | 熊森
 熊森のドングリ運びについて批判を加えていきます。さて、熊森の(少なくとも数年前までの)言い分ではドングリなどは奥山にしかまかないはずでした。「奥山に餌がない」というのが彼らの主な主張ですしね。そんな彼らの行動ですが、少々言動と行動にずれが見られます。以下の熊森NEWSをどうぞ。

10/21 くまもりは連日、クマが集落に出てこないように、食料を持って現地を走りまわっています

熊森のドングリを、クマが毎日バケツ1杯ずつ食べていく

11月7日 各県でどんぐり運びが進む

あり~(・3・)?
この写真を見る限りどう見ても奥山に運んでいるとは思えないんですが・・・。というか自治体のクマ捕獲用の檻があるってことは、人里近くでしょうが。熊森のドングリ運びが先か、自治体の檻設置が先かわかりませんが、人里近くにクマをとどめる誘因物をばらまいてどうする。
熊森側が効果を検証し、データや論文として発表していない以上、獣害問題の基礎的な知識を持った人間からすればクマにドングリをやるというのはクマと人の距離をいたずらに乱しているだけなんですね。これは他者危害ですよね。その地域に暮らしている人からすれば、いたずらにクマに接触するリスクをあげられています。いくらクマによる死亡事故が年1件程度としても試行回数が多くなればたまたまババを引くことがありえるわけで。クマにしても人と接触することが多くなれば事故、捕獲の確率が高くなるわけで、望ましいとは到底言えないですね。
6年もやってるのに効果一つ満足に検証できないくらいなら最初から余計なことはやるべきではないんじゃないかな。



熊森だけじゃないほかも問題だ!・・・それで?誰に向けてるの?

2011-01-01 11:05:47 | 熊森
  あけましておめでとうございます。なんか休んでる間にもいろいろネタが増えてるんですがどうしたら・・・。
今回は新年からあまり気分の良くない記事ですがお付き合いのほどを。初めに言っておくと、調べもしない周回遅れはえてしてドヤ顔で御高説を垂れる傾向にあるようですね。そして彼らは何を望んでいるのかさっぱり分からない。

熊森協会だけが特別に批判されるべきと思えないのだが

以下引用
あまり熊森協会関係の議論は真面目に追っていないのだが、TV朝日の『報道ステーション』が好意的に報じていたというのだから、実際のところ問題視しない人が多いのではないか。
つまるところ、野生動物への餌付けに問題性があるという考えが共通理解されてないだけではないのか。
引用終わり

タイトルからしても「熊森だけじゃない他の餌やりも問題だ!なぜ熊森批判者は目を向けない!」ということが言いたいようですね。熊森がどうして批判されているかはこのブログをお読みの皆様には周知でしょうが、あえて書いておくと“効果の定かでないリスクを徒に上げる行為を繰り返し、それを無検証のままでいる”というのが批判理由の一つです。
一応、国や市町村、研究者で注意書きや情報はたくさん出しているんですがね。手前みそですが参考に。
自治体のクマ対策 基本のキホンと現状

後日、こんなことも言っているようで。

トンデモ業界ひっつきもっつき

以下引用
先日に書いた下記エントリは、熊森協会を擁護することが目的ではない。
ただ、インターネットで売名していた当初の在特会や新風連と同じくらいには巧妙で、社会全体が隠し持っている問題を反映し増幅した団体ととらえるべきではないか、と感じたわけ。
もちろん、熊森協会注視して批判すること自体を否定したいわけではない。普遍的な問題をとらえることと固有の問題を見逃すことは違う。
引用終わり

結論から言うと、「そんなの分かってるけど?分かり切った指摘を最前線の人間に向けることに何か意味があるの?」ですね。この人にとっては熊森批判者はその程度もわからんアホに見えるんでしょうね。
僕なんかはな・ぜ・か(←ここ重要)熊森批判の急先鋒らしいですが(笑、別にそのほかの餌やりを問題視していないわけではありません。たとえばこんなものも書いてますしね。

イノシシに餌をやる

しかし、この人は何が言いたくて何を望んでいるんでしょう?2つの記事の文面を見る限りでは「熊森批判者は餌やり問題が持つ普遍的な問題に目を向けていない」と読み取れましたが。
そもそもそういう例(たとえばドングリ運びは批判してハクチョウの餌やりは無批判に推奨する)があるならきちんと引いてくればいいだけのこと。問題視していないかようにほのめかす必要性がありません。これは誰に向けて書いたのでしょう?僕みたいな熊森批判者には的外れも甚だしいですが。
仮に餌やりが問題であるということが言いたいならわざわざ熊森批判を引き合いに出すまでもなく自分でやればいいじゃないですか。現実が思い通りにいかない子供が駄々をこねているようにしか見えません。
観測範囲が狭いのに大胆なことを言い出せばたやすく反論をくらうのは当たり前。
しかし、この人にしてもそういう手合いを散々返り討ちにしてきたのではなかったのですか?
真面目に追ってもいないのに、あの程度もわからないアホ垂れちゃんであるかのように言われるのは腹が(ry
ずいぶんとおごり高ぶった物言いで甘く見られたもんです。この人にとっては真面目に追わなくてもいいくらい関心がなくてちょろい問題なのでしょう。
自分は真面目に追いもしないのに真面目にやってる人たちに水を差すってすごいですね。


ドングリ運びとドングリの散布者たち

2010-12-25 11:31:26 | 熊森
 ドングリ運びがもたらすと考えられる野生動物への影響第2弾です。ドングリ(堅果類)というのはクマではなく、リスやネズミ、カケスなどの鳥といった動物に種子を運んでもらいます。今回は山に多数生息するネズミたちについてです。
ネズミといっても日本には多種多様な種類がいます。今回主に扱うのは森林に生息するアカネズミとヒメネズミです。彼らは共にドングリを食べるネズミです。彼らはただドングリを食べるだけでなく、貯蔵します。彼らの貯蔵パターンには大きく分けて2つあります。巣の中にため込む巣内貯蔵と落ち葉の下などに隠す分散貯蔵です。この内、巣内貯蔵ではほとんど種子が発芽することはないとされます。となると、ドングリの散布には分散貯蔵のほうが大きく関わっていると考えられます。
トチノミでのデータではありますが、アカネズミが散布した種子の母樹(運んだ実を付けた木)からの距離は各年の平均で12.2~44.7m、最大値で117mという調査結果があります。トチノミは大きくて重いので、軽いコナラなどであればもっと遠くに運ぶことも可能と考えられます。また、海岸松林でのコナラの分布拡大を促進したという報告もあります。
こういったことを勘案すると、ネズミとはいえ無視はできません。
 また、2つ目の論点を提示してみます。ネズミというのはr-戦略という基本的に短命多産の方法で繁殖しています。こういう生物は彼らにとって良い条件のときに一気に増える傾向があります。ドングリ運びによって大量のドングリを山に運ぶことは、ネズミの餌環境を変えている可能性もあります。たとえば熊森はドングリが不作の年にドングリ運びをしていますが、これはドングリが無いか少ないところに運んでいるわけですね。つまり、何が起こるかというと、ネズミが増える下地になりうるということです。増えれば、猛禽類やキツネなどの捕食者によるセーブもかかると思われますが、そういうものはある程度時間がかかります。その間にネズミが食べる昆虫や植物などへの影響が懸念されるのではないかと考えられます。本来ならドングリの量の多少でネズミの個体数が変動するのは、人間が関わらなくても生態系内で起こるという意味で自然なことですが、熊森の行為はその自然な変動を乱しているのでは?という疑問が成り立ちます。

参考文献
森林の生態学 種生物学会編 2006
森の自然史 菊沢喜八郎・甲山隆司編 2000
日本の哺乳類学 ①小型哺乳類 本川雅治編 2008

終わりに
今年一年当ブログをお読みいただきありがとうございました。この3カ月批判ネタばかり書いてきたので、精神的に疲れました。ですので、梨は少し早いお正月休みに入ります。再開は恐らく年明け。じっくり休んでからシリーズの後半に取り掛かりたいと思います。

獣害をなめているとしか思えないメディア (激怒)

2010-12-21 19:42:13 | 熊森
 今回はかなり怒ってます。まぁ申し訳程度の取材で評価されるなら世話ないなと。
第30回地方の時代映像祭というもので、兵庫県立伊川谷北高校(神戸市西区)放送部が、高校生部門で1位の優秀賞をとりました。これだけなら喜ばしい話かもしれませんが、内容が大問題。

地方の時代映像祭:伊川谷北高が優秀賞 野生動物との共生伝える /兵庫

何とまぁ、あの熊森とクマに餌やりをする人を肯定的に紹介しているようなんですね。兵庫という獣害対策の進んだ恵まれた環境でなにをやっているのか。ここには書けないくらい罵詈雑言が浮かびました。書いてやろうかとも思いましたがね。
こちらに詳しい内容についてあります。

高校生のドキュメント「クマと人間の共生」

本人たちがどう思ってるかは僕には心底どうでもいいですが、これ、遊びですよね。クマのことが知りたいのに、県などがクマに対してどういう対処をしているのかを調べた形跡が上記の文からは全く見られません。というか、調べていたら餌やりを美談として取り上げるようなことはしないはず。誤解が分かったのではなく、根本的に誤解したままです。これで調べたつもりなら「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」と返しますね。
君たちが作ったのは下調べもろくにしない駄作です。
努力をしたとか言うつもりなら、「君たちが、どれだけ現場で結果を出している人たちの努力をゼロにするようなことをしているのか分かっているのか?」と返します。
両論併記しろとか言うつもりは無いです。とはいえ、話を聞いた専門家がどのような専門的評価をされているのかや国の統計、県の対策を見るくらいの努力はして欲しかったですね。それがこの問題を語るならスタートラインでしょう。
まぁ、こういうような、なんちゃってメディアがやがて中日新聞のように熊森を肯定的に紹介するようなメディアに成長するんでしょうな。僕がここまで怒るのも、ある意味ではこれからきちんと調べて変わって欲しいという期待の裏返しでもあります。馬齢を重ねただけの大人なんて心底どうでもいいので期待しませんから。

そんな熊森で大丈夫か? ドングリ運びとシカの増減

2010-12-12 20:12:45 | 熊森
 今回は、ドングリ運びによる他の動物への影響について論じていきます。
熊森は建前として、奥山にドングリを運んでいます(もっとも、最近では緊急事態と言ってなりふり構わずどこにでも置くようですが)。そして、奥山にはクマ以外の動物も生息し、ドングリを利用しています。
その中にはアカネズミやヒメネズミのような小型の動物からシカやイノシシのような大型の動物もいます。大型の動物に先にまいたドングリを見つけられたらクマの分なんてほとんど残らない気がしますけど。なんせ基本的に群れ行動の動物ですし。さらに言えば、シカやイノシシもドングリを食べるということは、ドングリをまくということは彼らの餌条件も改善することになります。シカの餌状況改善させてどうするんですかねぇ。
シカによって森林の下層植生や樹木の世代交代が被害を受けているのは獣害問題関係者には常識ですよね。シカなんてだいたいの植物は食べますし、いよいよ切羽詰まったら落ち葉も食べますからね。シカの死亡原因は冬の寒さや餌不足が主です。少し付け加えますと、冬に死ぬのは繁殖にエネルギーを使いきったオスや幼い子供であることが多いです。秋に餌状況が良ければその分、皮下脂肪に変えて貯めこめるわけで、冬の生存率がわずかでも上昇するのは想像に難くないですね。オスはともかく、メスの子供が生き残るのが厄介で、餌条件が良ければ3歳、早ければ2歳から毎年子供を産みます。この繁殖力の高さがシカの個体数管理に手を焼く原因の一つです。さらに、前述したとおりなんでも食べるというシカの食性は環境収容量と生物多様性とのバランスを崩すことにもなります。分かりやすく言うと、シカが食べ物不足で増加に歯止めがかかる頃には、山の植生は回復不能なまでにめちゃくちゃということです。シカが増えてしまえば、その分森の植生がもろに影響を受けるわけで、奥山の植生の回復なんて夢のまた夢ですよね。熊森のやっていることってクマのためと言いつつ、森を滅ぼす手助けをするようなもので、これは本末転倒ってやつじゃないですか?熊森は森林保全のシンボルとしてクマを保護しますという建前ですが、これは笑えるというか呆れた欺瞞ですよね。こういう批判にきちんと答えるにためにもドングリを何が多く利用しているのかくらいは調べてほしいものです。

おまけ
奈良県天川村に行ったときに撮影した写真。

シカによって下層植生がほぼなくなり、後継樹がないという状況です。あってもシカの食べない種類のシダしかない(これだけのギャップがあるのに単一植生というのは少し異常ではないでしょうか。周りに木があって種子の供給はできる状況なのに)。

天川村は江戸時代には弓矢用の竹(矢に使う)の産地でしたが、今では葉の生えた竹、ササを探すのも一苦労です。
樹木は皮を剥がれています。

そんな熊森で大丈夫か? 熊森のドングリ運びへの見解に突っ込んでみる

2010-12-08 22:00:34 | 熊森
 今回からついに熊森協会(以下熊森)のドングリ運びについて批判していきます。熊森の見解が2004年には発表され、それが今まで(2010年12月8日現在)維持されたまま彼らの旧HP上に公開されているため彼らの見解に大きな違いはないものとして突っ込んでいきます(注:数値は11月の時点で把握しているもので、現在はさらに増えています)。

以下引用
指摘②〉少々のドングリではクマの空腹には焼け石に水。

【熊森の見解】焼け石に水なのは、言われなくてもわかっています。しかし、何らかの行動を起こすことによって、暴走する駆除に何とか歯止めをかけたいという人たちが誕生し、大きな力になっていくのです。熊森は、兵庫県で、県や地元に働きかけ、日本で一番進んだクマの保護体制をつくってきましたが、それは、ドングリ運びから始まりました。北陸でドングリ運びを呼びかけたことで、次々と会員が誕生し、クマの駆除を止めるための活動が始まっています。1頭のクマを1日でも里に出て来なくていいようにしたいという気持ちから、大きな流れが生まれていきます。大切なのは、人々に共存の心を呼び起こすことです。

引用終わり
分かっているならやるな・・・と言いたいところですが、現在の熊森は数百キロのドングリを運び、クリ4.5tをさらに追加で各地にまくようです。昔、ドングリは発芽防止や虫殺しのためにゆでるとか言っていたと記憶しますが、計5t近いこれらの実をほんとにすべてゆでるんですか?手間が恐ろしくかかることが容易に想像できますが大丈夫?
さすがにこの量はシャレになりませんよ?クマじゃなくても他の生物に影響与えるんじゃないですか?他の生物への影響はこの次あたりで。

以下引用
〈指摘⑤〉ドングリにも本来の生育地があり、他地域のドングリをばらまくべきではない。(遺伝子の攪乱)。またドングリにドングリを食べる虫が付いており、それらの病害虫の管理なしにむやみに他の地域に持ち込むのは植物防疫上も問題。

【熊森の見解】私たちは、これまで、外来種の国内持ち込み、国内種の移動、品種改良種を自然界に持ち込むことについては、強く反対してきました。その立場は変わりません。しかし、実際のところ、原生の森を伐採し、雪国の奥山に植えられたスギは、九州や四国の苗ですし、里山のクヌギなどの落葉広葉樹は、元々生えていたシラカシやアラカシなどの常緑樹を切り、各地の苗木を取り寄せ植えたものです。さらに、少し前まで日本の森の中にいた昆虫類の多くが消え、地球温暖化により、見たことも無い亜熱帯性の昆虫やキノコが次々と繁殖しています。私たちは原生林ではなく、このような、すでに人為的な遺伝子撹乱が起こっている場所にドングリを置いていることをお知り置きください。
 また、何年にもわたって検証を続けていますが、運び込んだドングリから芽が出て育ったものを見たことがありません。平地の気候風土で育ったドングリが、雪深いクマの生息地で発芽する可能性は大変低いものです。第一、ドングリの山は、置かれるや否や、虫と一緒に動物の胃袋に入ってしまいます。
 ドングリにつく虫については、熊森の顧問が調べ、今、わかっている範囲では問題がないということでしたが、自然界には人間には計り知れないことが多いため、私たちこそ、気にしています。
引用終わり

そもそもことが起きてからじゃ手遅れになる種類のものですから。仮に遺伝子撹乱が起きたとして誰が調べるの?交雑個体の除去とかどうするのさ。山で木を切るって相当危険な作業ですよ?そもそも奥山のドングリがどうして過去に遺伝子撹乱を受けたものだってわかるの?それらしい文献の紹介なんて今までに見たこともありませんが。
クヌギ、コナラの利用に関して言えば、あれはもともと里地(人間の領域)の薪炭林として利用されていたもので、そんなものをわざわざ奥山まで持っていきますか?
というか、データを持っているなら出してください。熊森の体質として思わせぶりなことを言いながら、情報開示はしないというところがあります。今後も重要な論点になりますので、覚えておいてください。
なんですかこの突っ込み所がありすぎて一息では突っ込めない文字のられつは?
とりあえず今日はここまでとしておきます。

熊森のドングリ運びに憤る人たちへ

2010-12-07 01:10:35 | 熊森
今回の記事は自戒も込めて書いてます。先日、熊森がヘリコプターを使ってドングリを散布しそれがテレビで好意的に紹介されました。これに対して憤る保全関係の方は多いと思います。僕もその一人です。
これについての批判はいろいろあると思います。獣害的な観点、他の生物との関係性という観点などなどです。今回は遺伝的多様性からの批判について考えてみます。
熊森の行為は外来生物問題を作り上げ、遺伝子撹乱や病害虫の伝播などのリスクを含むのは保全生態学を学んだ人間にとってはだれの目にも明らかです。許せることではないし、専門家を名乗る人間、組織がやっていいことでもありません。
ただ、熊森のこのような行動が受け入れられてしまう背景には保全生態学者をはじめとする保全にかかわる人間が遺伝的多様性の重要性についてうまく伝えられていないせいもあるのではと思ってしまうのです。どのレベルまでなら理解されるのか少し考えてみましょう。
「遺伝的多様性は病気などからの影響を防ぐのに重要です」これくらいはまぁ僕の観測内では理解されているように思います。では次。
「遺伝的多様性は個体群間の個体の移動で維持されています」
これはメタ個体群の概念を理解している人には当たり前の話ですね。個体群間で個体の移動があるからこそ、孤立化して近交弱勢が起こらないようになっています。では、次の話と合わせると?
「周りから隔絶された個体群では近交弱勢が起こりやすくなります」
こちらが知られ過ぎて、“そうなったら大変だから他所から個体を持ってきて多様性を回復させよう”に安易につながっているのではないでしょうか?
最後にこれ。
「遺伝的多様性の独自性、地域性を守りましょう」これが一番厄介ではないかと個人的に考えています。これ1つを大きな目標として掲げる分にはだれも反対しないでしょう。では個別の保全のケースでは?タイワンザル、渓流魚、その他もろもろ。いまだに放流事業に天皇陛下を呼ぶ様な状況下できちんと理解されている人は少ないのではないでしょうか。

個人的には交雑することでヘテロ接合が増えることが遺伝的多様性が増すと誤解されている気がしますが・・・。ヘテロ接合は指標であって、遺伝的多様性のすべてではないんですが・・・。正確に言えば、もともとどれくらい持っていたかが重要で、持ち込んで増やせばいいという話ではありません。
熊森に届かせる必要があるかはともかく、広く受け入れられる説明を作って今回の熊森のような行為がメディアで好意的に取り上げられることを減らす。その必要性はあるのではないでしょうか。