ペドロランド日記

スペインの国際村「ペドロランド」を中心にフランスとイギリスに発信地を移しながら、日々の出来事を綴っています。

驚きのイギリス入院体験(3)

2007-09-19 14:17:58 | イギリスの生活
のちときどき3週間続いた遅い夏がついに終わった。一昨日は28日ぶりに雨がが降る。気温も下がって、15度程度。

さて、今回はイギリスの病院に関するお話の最後です。

日本では手術前日に入院するのが普通らしいが、イギリスでは手術日の朝に病院に行くのが普通のようだ。手術当日の朝、病院に電話をしてベッドの空きがあることを確認してから病院に来てくださいという病院も少なくないらしい。幸い、わたしが手術を受けた病院ではこういうことはなかったが、病院からもらった書類には、手術予定日間際になって手術がキャンセルされることもありますという注意書きがくどいほどあちこちに載っていた。もともと、わたし外来で行った病院は救急病院のため、手術当日になって緊急手術が入ったためキャンセルということが多かったらしい。そこで、予め決まっている手術はすべて、同じ管轄内で急患受付のない別病院で行うことにしたのだそうだ。

昔はイギリスでも、手術の1~2日前に入院させて、入院前の準備の忙しさから患者を解放し、術前にリラックスしてもらうという医者がいたらしい。が、ベッド不足の現在、こういう贅沢はもう許されなくなったのだそうだ。

また、手術前の準備というのがないので、前日に入院する必要もないのだろう。手術10日前に検査のため病院に行ったとき、手術の準備として下剤を医者が処方しようとしたので、なるほどイギリスでは手術のための腸の準備はDIYなのねと思っていたのだが、結局これは無しになった。手術当日も腸の準備はまったくなし。もっとも、アメリカのサイトなどによると、最近は万が一手術中に腸に傷がついてそこから漏れた内容物で感染する危険性よりは、浣腸や下剤などで脱水症状になったり、それによる精神的・肉体的な負担のほうが患者にとってずっと害が大きいというので、腸の準備はしないところも増えてきたらしい。剃毛はというと、手術前に使い捨てのかみそりを渡され、自分のベッドの周りにカーテンを引いて、その中で自分で処置するように言われた。

イギリスの病院は、体制としては放任主義だと思う。医者や看護婦による説明というのがあまりなくて、いくつか薄いパンフレットを渡されて、これを読んでおくようにというのが多い。手術の手順や手術に伴うリスク、手術以外の治療法などを具体的に統計を揚げて解説した20ページほどのコピーを看護婦が手術当日にくれて、これを読んでおくようにと言う。いまさらリスクやほかの治療法など説明されても遅いのにと思うのだが、手術当日に気を変えることもできるのだそうだ。が、わたしの場合、この手術を10ヶ月も待って、この日を中心に今年1年の計画を立ててきたのだから、ここにきて尻込みするわけにはいかない。

手術前に主治医が来て、手術のリスクを説明する。今までこんなことは一つも言わなかったぞ。幸い手術まで10ヶ月もあったので、十分研究・調査し、考える時間があったからよかったものの、この日初めて聞いたら、ものすごく動揺していただろうと思う。リスクについて説明を受けました、それを承知した上で手術に同意しますという書類にサインすると、控えをくれて、主治医にして執刀医の医者が去っていった。この医者に会ったのは術前に2回、手術当日の術前・術後に1度ずつ合計しても5分ほどであった。あとは、6週間後のチェックのときだけで、それも必ずしも主治医が診るとは限りませんと但し書きがしてあった。退院後、何か問題があったらGP(かかりつけの家庭医)に行くようにということである。

が、医療関係者は実によく面倒を見てくれた。看護婦さんたちはとてもよく働くし、感じがよい。院内感染が心配されていたが、患者が退院すると、即座に新しいシーツに換え、ベッドのすみずみまで殺菌効果のある使い捨てワイプで拭き取る。新しく用意されたベッドに座った後があるのを見て(たぶん隣のベッドに見舞いに来た人が座ったのだろう)、看護婦がまたシーツを取り替えていた。1日に何度も掃除の人が病室に入って、床を拭いている。

日本人女性の友人が入院したとき、差別を受けて、食事の配膳は一番最後、ついには食事を運んできてくれさえしなくなり、配膳所まで行ってその場で食べたというひどい話を聞いていたのだが、ここの配膳係(兼清掃員)の男性はとても親切だった。水曜日の晩家に帰る前にわたしのベッドに立ち寄ってくれて、もし木曜日か金曜日に退院するのなら、自分は休みなのでもう会わないだろうから、元気でねと挨拶をしていった。看護婦さんたちも、かゆいところに手が届くような面倒見のよさで、退院するときに迎えの車を待っていたら、「待っている間にお茶でもいかが?」と聞いてくれた。病院と言うよりは誰かの家にいるような雰囲気である。

あまりに事務の手際の悪さに、一度は自腹を切って私立の病院で手術を受けることも考えた。5,600ポンド(約130万円)かかるらしいと聞いて断念したのだが、自分の希望する時期にすぐに手術を受けられる(国民健康保険だと5~6ヶ月待ち)ということ以外はあまりメリットはないように思う。これらの治療をすべて無料で受けられたのはやっぱりありがたい。

驚きのイギリス入院体験(2)

2007-09-10 17:08:39 | イギリスの生活
のちみなさま、退院祝いのコメントをどうもありがとうございました。手術翌日から歩いていますが、あまり痛みもなく、見た目はほとんど普通です。が、あまり長い間コンピュータに向かって座っていると、下腹が痛んでくるのが困った点です。まあ、ぼちぼち復帰したいと思っています。

日本の病院では、重湯、半がゆとかとだんだんに固形の食事に移っていくということで、いったいイギリスの病院食はどんななのだろうと興味を持っていた。術前検査のときにもらった入院案内の手紙(ほんの2ページ)には、最初は水をすする程度で、それから軽い食事になり、退院までには普通の食事になると書いてあった。これを読んでうちの夫も、きっと退院するときには(まさか3日で退院してくるとは思っていなかったので)痩せて帰ってくるだろうと言うので、ひそかに期待していたのであった。

日本で手術体験のある友だちに、なにがつらいと言って、のどの渇きほどつらいものはないと言われていた。おなかが空くのはあまり苦にならないが、水が飲めないのは確かにつらそうと思っていたのだが、手術直後から水を飲んでも全然問題なし。術後12時間目の午前6時には、紅茶とダイジェスティブビスケット2枚が出てきた。その1時間後には朝食の時間で、シリアルとフルーツジュース、トースト。さすがに、あまり食欲はないので、とりあえずシリアルとジュースだけ頼んだ。昼食は、ローストビーフかチキンキャセロールの選択。看護婦さんがそばにいたので、食べてもいいかどうか聞いてみたのだが、たくさんでなければいいということだったので(1日半寝たきりで過ごして、食欲があるはずがない)、チキンキャセロールといんげん豆を頼んで、トウモロコシとジャガイモは辞退した。この匂いのせいか、すぐ前のベッドで術後休んでいた日帰り手術の患者さんが気持ちが悪くなって吐いていたので、とても申し訳なく思いつつ、昼食をいただいた。タルトなどデザートまであったが、看護婦さんの勧めにしたがってヨーグルトにしておいた。

夕食はサンドイッチかチキンバーガー。暖かいものが食べたかったので、チキンバーガーにしたが、パンの間に加工した肉が入っていただけの代物で、自分の選択を後悔した。これが午後6時半頃。明らかに、1日のメインの食事は昼食のようである。

翌日は同じメニューの繰り返し。午前中に退院することになったので、昼食はキャンセルした。そんなわけで、イギリスの病院食は普通の食事と変わらないというのがわたしの発見である。

驚きのイギリス入院体験(1)

2007-09-07 13:18:03 | イギリスの生活
ときどきみなさま、ご心配くださり、どうもありがとうございました。励ましのコメントもありがたく拝見しました。順調に回復しています。

先週の火曜日、28日の午後5時頃の手術で、なんと術後2日目・30日の朝には退院させられてしまいました。入院期間は3~5日間とは聞いていたものの、手術後40時間で本当に退院させられるとはびっくり。通常は術後2日目の夕方に執刀医にして主治医である医者に見てもらい、一部の抜糸(溶解性の糸を使っているので、実際の抜糸はなくて、これはただの儀式らしい)をした後、翌朝11時に退院というのが通常のパターンらしいのだが、この医者が木曜日は来ないことに決めたため、それだったら、木曜日の夕方まで入院している意味がないというので、急遽木曜日の朝退院となった。この陰には、一緒に入院したサンドラの早く家に帰りたいという熱望が働いていることも否めない。若い医者が木曜日の朝やってきて、吐いたことがあるか、痛みはあるか、排尿はうまくいっているか、という簡単な質問に答えた後、「家に帰っても大丈夫か?」というので、イエスと答えると即座に退院となった。

病室には14のベッドが置かれているのだが、わたしと、同じ日に入院したサンドラともう1人の女性だけが3日間入院したのみで、ほかの11人はすべて日帰り患者であった。朝8時になると、付き添いを連れた患者が一斉にそれぞれのベッドに陣取り、プライバシーを保つため、ベッドの周りのカーテンが引かれる(でも、もちろん、声は漏れてくるのだが)。それぞれの主治医がやってきて、そのカーテンの中で手術の説明をし、その後カーテンが開かれると、理学療法士がやってきて、全員に向けて術後の体操について簡単な解説をする。朝9時になると、最初の患者がベッドごと運び去られ、手術室に向かう。術後、回復室から戻ってくると、1時間ほど休んだあと、看護婦がトーストと紅茶を運んできて、それを食べた後、患者たちは着替えて去っていく。こうして日帰り患者が1人、2人と順に去り、夜8時になると、わたしたち3人だけを残して、大きな病室はひっそりと静まりかえる。日本では、よく同じ病室の人と友だちとなったり、退院後にも会ったりといった話をよく聞くが、こんな状況なので、術前検査でたまたま一緒になったサンドラとちょっと話をしたくらいで、友だちになるような時間もなかった。そのサンドラとですら、手術翌日にカテーテルが取り外されて歩けるようになってから、やっと話ができたわけで、その後すぐに退院となったため、たいした話をする時間もなかった。

テレビもラジオもないし、夜は人間ウォッチングをする対象もなく、病院は恐ろしく退屈だったので、早々に退院できたのはありがたかった。主治医がわざわざ術後の経過を見に来なかったということは、手術自体もまったく問題がなかったのだろう。

イギリスの病院はおおらかというか、おおざっぱである。長くなるので、次回に続く。