景気回復の手ごたえにもう一つ力強さが感じられない中で、多くの人々は職場を失う不安をぬぐえずにいる。
倒産したそごうグループのように、バブル時代からの問題の先送りが限界にきている会社も少なくない。
世界中で進む企業間競争は、それに追い打ちをかけるように、人件費の圧縮を迫っている。情報技術(IT)革命は当面、人減らしを促進する要因ともなる。
そんな厳しいときだからこそ、仕事の分かち合いにより、雇用を確保する方策を真剣に考えなければならないと思う。
いわゆる「ワークシェアリング」の先進地として、日本などからの視察が相次いでいるオランダでは、たとえば夫婦で「一・五働き」が当たり前になっている。
共働きであっても、片方が、そしてときには2人ともパート労働の形をとる。会社に行く日数や勤務時間を減らし、余った時間は自由に使う。別な働きを持つこともあれば、家事や育児に充てたり、学校などに通ったりする人もいる。公務員が勤務時間外に別の仕事をするのも、原則としてOKだそうだ。
日本では、労働時間と給料を合わせて減らすことを「ワークシェアリング」と呼ぶことがある。しかし、こうした急場しのぎの措置とはまったく異なった制度だ。
アムステルダム郊外にある欧州日産の本社では、370人のうち20人がパート契約だ。オランダ全体のパート比率が30%に達しているのに比べると少ないが、人事部長つきの秘書もパート労働である。
パートといっても、その待遇はフルタイムの人と変わらない。そもそも、日本のように「正社員」と「パート社員」という目で見ると、実態を見間違う。
オランダでは、1996年に労働時間を理由にした差別待遇を禁じる法律ができた。同じ仕事なら時間あたりの賃金も休暇や年季でも不利にはならない。
日本では能力主義を掲げる企業が増えてきた。そうであるのなら、労働時間の長短よりも、仕事の質が問題になるはずだ。パートなら待遇は悪くて当然、という考えも変えていかなければなるまい。
もちろん、正社員中心の労働組合も、意識改革を迫られる。雇用保険や年金、税制なども変える必要が出てくるだろう。
若者、中高年の雇用確保に加え、定年後も健康で、働く意欲のある人たちの仕事場を増やさなければならない。それには、「一・五働き」のような融通性のある労働条件を受け入れられる賃金体系を考えることが必要ではないだろうか。
今年の春闘では、経営側が「ワークシェアリング」の本格検討を働きかけ、労働側は渋った。それが賃金の抑え込みにつながると警戒したのだろう。
人々が、自らの人生設計に合わせて、自身の雇用形態を決める。そこでは仕事の中身に応じた給料が支払われ、「サービス残業」もない。そんな姿を探るための議論の必要性を、オランダの試みは教えている。
(朝日、2000年08月25日。社説)
倒産したそごうグループのように、バブル時代からの問題の先送りが限界にきている会社も少なくない。
世界中で進む企業間競争は、それに追い打ちをかけるように、人件費の圧縮を迫っている。情報技術(IT)革命は当面、人減らしを促進する要因ともなる。
そんな厳しいときだからこそ、仕事の分かち合いにより、雇用を確保する方策を真剣に考えなければならないと思う。
いわゆる「ワークシェアリング」の先進地として、日本などからの視察が相次いでいるオランダでは、たとえば夫婦で「一・五働き」が当たり前になっている。
共働きであっても、片方が、そしてときには2人ともパート労働の形をとる。会社に行く日数や勤務時間を減らし、余った時間は自由に使う。別な働きを持つこともあれば、家事や育児に充てたり、学校などに通ったりする人もいる。公務員が勤務時間外に別の仕事をするのも、原則としてOKだそうだ。
日本では、労働時間と給料を合わせて減らすことを「ワークシェアリング」と呼ぶことがある。しかし、こうした急場しのぎの措置とはまったく異なった制度だ。
アムステルダム郊外にある欧州日産の本社では、370人のうち20人がパート契約だ。オランダ全体のパート比率が30%に達しているのに比べると少ないが、人事部長つきの秘書もパート労働である。
パートといっても、その待遇はフルタイムの人と変わらない。そもそも、日本のように「正社員」と「パート社員」という目で見ると、実態を見間違う。
オランダでは、1996年に労働時間を理由にした差別待遇を禁じる法律ができた。同じ仕事なら時間あたりの賃金も休暇や年季でも不利にはならない。
日本では能力主義を掲げる企業が増えてきた。そうであるのなら、労働時間の長短よりも、仕事の質が問題になるはずだ。パートなら待遇は悪くて当然、という考えも変えていかなければなるまい。
もちろん、正社員中心の労働組合も、意識改革を迫られる。雇用保険や年金、税制なども変える必要が出てくるだろう。
若者、中高年の雇用確保に加え、定年後も健康で、働く意欲のある人たちの仕事場を増やさなければならない。それには、「一・五働き」のような融通性のある労働条件を受け入れられる賃金体系を考えることが必要ではないだろうか。
今年の春闘では、経営側が「ワークシェアリング」の本格検討を働きかけ、労働側は渋った。それが賃金の抑え込みにつながると警戒したのだろう。
人々が、自らの人生設計に合わせて、自身の雇用形態を決める。そこでは仕事の中身に応じた給料が支払われ、「サービス残業」もない。そんな姿を探るための議論の必要性を、オランダの試みは教えている。
(朝日、2000年08月25日。社説)