神社の狛犬のような「あいつ」
以前、うちの近所に「クーちゃん」という名前のチワワがいた。彼は靴屋のおじさんの飼い犬だった。
その後、このクーちゃんと私は「同士」とでもいうべき深い同盟関係を結ぶことになるのだが……なにしろ彼との出会いは衝撃だった。
私はそのとき自転車に乗り、何の気なしに町の通りを眺めながら走っていた。すると目の端に、何か異様なものが引っかかった。
「今のはなんだろう?」
私は自転車を回れ右させ、もと来た道を戻って行った。町並みを注意深く眺めながら。
すると目に留まったのは、一匹の犬だった。
そいつは靴屋の店先のショーウインドウの上にちょこんと乗り、まるで神社の狛犬のような状態で道行く人を興味深そうに眺めているのだ。店の人はいない。
思わず私は駆け寄り、手を差し出した。だがヤツはまったく関心がない様子だ(あとで知ったが、こやつは女性にしか興味がないらしい)。
仕方がないので、私は自分の十八番を出すことにした。マッサージだ。
そっとヤツの後ろに回り込み、犬の肩から首にかけてを丹念に両手でマッサージする。私の得意ワザだ。するとヤツはとたんに、「いいわぁー」といううっとりした表情を浮かべてカラダを私の手に押し付けてくる。
しかも自分が揉んでもらいたい部位を順番に押し付けてくるのだ。
かくてこのときマッサージという、彼と私との深い契りが固く結ばれるきっかけとなる行事が確定した。私はその後、店に行ってはイの一番に彼にマッサージするハメになった。
飼い主を置き去りに
女性にしか興味がなく、男性が構おうとしてもつれない素振りのクーちゃん。だが「マッサ」という強力な武器をもつ私にだけはえらくなついた。
あるとき店に行くと、クーちゃんも飼い主さんもいない。
散歩にでも行っているのだろうか? 店の近所を探してみると、やっぱり見つけた。ヤツは一時的にリードを解かれ、飼い主のおじさんと道に佇んでいた。300メートルくらい先だ。
私はクーちゃんを見つけたのがうれしくて、思わず「クーちゃん!」と大声で叫んで速足で駆け寄った。
すると私を発見したクーちゃんはしっぽを激しく振りながら、でも申し訳なさそうに飼い主のおじさんのほうを見上げている。
ヤツは頭がいいから、飼い主を放って私のもとに駆け寄ることに気を遣いためらっているのだ。だがその後、彼は飼い主のほうを2~3度、見上げたあと、ついにガマンできなくなった様子で私のほうに走り出した。
そのあとを飼い主さんが走って追いかけながら、「こいつ、飼い主をないがしろにしやがって」と笑いながらついてくる。
かくてクーちゃんは私の元にやってきて、いつものポジションでいつものマッサージにありついた。あのときの気持ちよさそうな顔ったら。やれやれ。
小脇に抱えて
またあるときは、こんなこともあった。
いつものように靴屋さんに訪問し、クーちゃんといっしょに散歩に出た。
すると間の悪いことに、私は激しい尿意に襲われてしまった。
公衆トイレへ行くとして、クーちゃんをどこかに括り付けておくところはないか? 探したがあいにく見当たらない。
仕方がないので私はクーちゃんを小脇に抱えたまま、その状態で用を足すことにした。
その最中、クーちゃんのほうを見ると、彼は私がなにをやっているのかまるでお見通しのように大人しく静かに私の腕にブランとぶら下がっている。
「もうそろそろにしろよ」とでも言いたげに彼は私のほうを見る。
そのシチュエーションに思わず私は吹き出しそうになってしまった。
こんなふうにクーちゃんとの傑作なエピソードは数多い。機会があったら、また書くことにしよう。
【関連記事】
「続・チワワのクーちゃん」
以前、うちの近所に「クーちゃん」という名前のチワワがいた。彼は靴屋のおじさんの飼い犬だった。
その後、このクーちゃんと私は「同士」とでもいうべき深い同盟関係を結ぶことになるのだが……なにしろ彼との出会いは衝撃だった。
私はそのとき自転車に乗り、何の気なしに町の通りを眺めながら走っていた。すると目の端に、何か異様なものが引っかかった。
「今のはなんだろう?」
私は自転車を回れ右させ、もと来た道を戻って行った。町並みを注意深く眺めながら。
すると目に留まったのは、一匹の犬だった。
そいつは靴屋の店先のショーウインドウの上にちょこんと乗り、まるで神社の狛犬のような状態で道行く人を興味深そうに眺めているのだ。店の人はいない。
思わず私は駆け寄り、手を差し出した。だがヤツはまったく関心がない様子だ(あとで知ったが、こやつは女性にしか興味がないらしい)。
仕方がないので、私は自分の十八番を出すことにした。マッサージだ。
そっとヤツの後ろに回り込み、犬の肩から首にかけてを丹念に両手でマッサージする。私の得意ワザだ。するとヤツはとたんに、「いいわぁー」といううっとりした表情を浮かべてカラダを私の手に押し付けてくる。
しかも自分が揉んでもらいたい部位を順番に押し付けてくるのだ。
かくてこのときマッサージという、彼と私との深い契りが固く結ばれるきっかけとなる行事が確定した。私はその後、店に行ってはイの一番に彼にマッサージするハメになった。
飼い主を置き去りに
女性にしか興味がなく、男性が構おうとしてもつれない素振りのクーちゃん。だが「マッサ」という強力な武器をもつ私にだけはえらくなついた。
あるとき店に行くと、クーちゃんも飼い主さんもいない。
散歩にでも行っているのだろうか? 店の近所を探してみると、やっぱり見つけた。ヤツは一時的にリードを解かれ、飼い主のおじさんと道に佇んでいた。300メートルくらい先だ。
私はクーちゃんを見つけたのがうれしくて、思わず「クーちゃん!」と大声で叫んで速足で駆け寄った。
すると私を発見したクーちゃんはしっぽを激しく振りながら、でも申し訳なさそうに飼い主のおじさんのほうを見上げている。
ヤツは頭がいいから、飼い主を放って私のもとに駆け寄ることに気を遣いためらっているのだ。だがその後、彼は飼い主のほうを2~3度、見上げたあと、ついにガマンできなくなった様子で私のほうに走り出した。
そのあとを飼い主さんが走って追いかけながら、「こいつ、飼い主をないがしろにしやがって」と笑いながらついてくる。
かくてクーちゃんは私の元にやってきて、いつものポジションでいつものマッサージにありついた。あのときの気持ちよさそうな顔ったら。やれやれ。
小脇に抱えて
またあるときは、こんなこともあった。
いつものように靴屋さんに訪問し、クーちゃんといっしょに散歩に出た。
すると間の悪いことに、私は激しい尿意に襲われてしまった。
公衆トイレへ行くとして、クーちゃんをどこかに括り付けておくところはないか? 探したがあいにく見当たらない。
仕方がないので私はクーちゃんを小脇に抱えたまま、その状態で用を足すことにした。
その最中、クーちゃんのほうを見ると、彼は私がなにをやっているのかまるでお見通しのように大人しく静かに私の腕にブランとぶら下がっている。
「もうそろそろにしろよ」とでも言いたげに彼は私のほうを見る。
そのシチュエーションに思わず私は吹き出しそうになってしまった。
こんなふうにクーちゃんとの傑作なエピソードは数多い。機会があったら、また書くことにしよう。
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