軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

庭にきた蝶(25)ミドリシジミ

2018-11-02 00:00:00 | 
 今回はミドリシジミ。と書き始めたが、実はミドリシジミ類の一種ということで、数種類いるミドリシジミの仲間のいずれであるかは、まだ確信が持てないでいる。

 庭のブッドレアに吸蜜に来ているところを見つけて撮影はしたが、ずっと翅を閉じたままだったので、撮れたのは翅の裏だけであった。ミドリシジミの仲間特有の翅裏の紋様が確認できるものの、よく似た種が多くいて、この翅裏の写真だけでは素人には同定はとても難しい。

 採集すれば、より確実なことがわかったはずと思うのだが、前回のカラスシジミ(2017.3.17 公開の本ブログ)のことが思いだされて、捕虫網を取りに走ることはしなかった。まずは、撮影した写真をご覧いただく。


ブッドレアの花で吸蜜するミドリシジミの一種 1/7(2018.9.19 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するミドリシジミの一種 2/7(2018.9.19 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するミドリシジミの一種 3/7(2018.9.19 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するミドリシジミの一種 4/7(2018.9.19 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するミドリシジミの一種 5/7(2018.9.19 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するミドリシジミの一種 6/7(2018.9.19 撮影)


ブッドレアの花で吸蜜するミドリシジミの一種 7/7(2018.9.19 撮影)

 撮影時には、ミドリシジミの仲間であろうとは思ったものの、その日は9月19日の午前11時頃であり、もうとっくに発生の季節は過ぎていると思っていたので、不思議に思い「フィールドガイド 日本のチョウ」(2013年 誠文堂新光社発行)で調べてみたところ、意外にも多くの種について、9月にまで成虫が見られると書かれていた。

 更に、「長野県産チョウ類動態図鑑」(1999年 文一総合出版発行)の成虫初見日、成虫終見日のデータを見ると、9月以降も生き残る種の数は更に多くなり、ゼフィルスの半数以上が該当していた。

 次の表は、現在日本で見られる25種のミドリシジミの仲間(=ゼフィルス)について、この2冊の本の内容を参考にまとめたものだが、16種類ほどが9月以降にも見られるようである。この中で、ヒサマツミドリシジミは長野県ではみることができそうにないので外すと、15種類が残る。さらに外観から、明らかに今回撮影したものではないと判断できる種を除くと、候補は表に淡緑色をつけた8種類に絞られた。


日本産ゼフィルスの発生時期と長野県での発生有無(「フィールドガイド 日本のチョウ」【赤ライン】、「長野県産チョウ類動態図鑑」【青ライン】より)

 この8種類から、さらに翅裏の色と紋様により、ミドリシジミ、メスアカミドリシジミ、アイノミドリシジミの3種は外し、候補を5種に絞った。あとは、翅裏の微妙な色あいや、紋様の詳細で判断することになるが、個体差などもありうるから、何を決め手とするかがなかなかむつかしくなる。また、関連書によると9月以降まで生き延びるのは♀が多いとされていることから、これも考慮しながらの同定作業になった。

 「フィールドガイド 日本のチョウ」には、オオミドリシジミ、ジョウザンミドリシジミ、エゾミドリシジミとハヤシミドリシジミの4種の♂と♀を比較した写真がある。また、「日本産蝶類標準図鑑」(2011年 学研発行)には、「オオミドリシジミ属6種の♂の見分け方」というページがあり、前記4種にヒロオビミドリシジミとクロミドリシジミを加えた6種類の比較写真と解説を見ることができるが、こちらは♂についてだけの記述で、♀についての情報は得られない。

 上記の2つの情報をまとめると次表のようである。同定の決め手となりそうなものは、後翅の白条と肛角橙色斑で、これらを撮影した写真と見比べてみた。


同定のための比較表


全体の拡大写真(2018.9.19 撮影写真より)


尾部の拡大写真(2018.9.19 撮影写真より)

 また、義父のコレクションの中には、候補に挙げた種もいくつか含まれていたので、参考にした。




自宅にある義父のコレクションから(2018.10.30 撮影、写真は同一標本の表と裏)

 あれこれ調べた結果、エゾミドリシジミ、ハヤシミドリシジミのいずれかと思われるが、これ以上はなかなか進まないというのが現状である。

 産地を軽井沢に限った、上記2種の情報ということになると、栗岩竜雄氏の「軽井沢の蝶」(2015年 ほおずき書籍発行)が参考になるかもしれない。このすぐれた写真集のハヤシミドリシジミとエゾミドリシジミの項にはそれぞれ次のような記述がある。

 「ハヤシミドリシジミが日本国内で見つかったのは比較的新しく、1951年(昭和26)年のこと。蝶学の権威、白水隆教授によって当時の沓掛(現在の中軽井沢)産をタイプ標本にして命名。つまり軽井沢とは縁のある蝶なのです。・・・ところが・・・今日までの40年、それ相応の心構えで処々方々探ってみるも、一度たりとてかすりません。・・・いったいどうなっているのでしょう。」ということで、軽井沢産のほとんどの種を網羅したこの写真集には、ハヤシミドリシジミの写真は載っていない。

 エゾミドリシジミの項には、「多分そうじゃないかなぁ・・・と思いつつ、決定的な区別点を飲み込めないまま、漫然と判定しては標本箱に収まる Favonius 属の一つ。・・・難なく撮影は済んだのですが、問題は種名の特定でした。・・・」

 種の同定に悩むのは私だけではなかったようである。ハヤシミドリシジミの軽井沢での稀少性を考えると、エゾミドリシジミの可能性が大きいように思えてくる。
 
 さて、迷うのはこれくらいにして、絞り込んだ2種について、ざっと紹介すると、両者とも前翅長は15mm~23mmの小型の蝶で、♂の翅表はハヤシミドリシジミ(以下ハヤシ)では青緑色、エゾミドリシジミ(以下エゾ)では青みを帯びた黄緑色の金属光沢をもつ。♀の翅表はともに黒褐色である。翅裏面はともに灰褐色。裏面後翅中央に見られる白条は両者ともに太いが、ハヤシでより太くなる。

 共に北海道、本州、九州に分布するが、四国にはエゾのみが生息する。幼虫の食樹はハヤシではブナ科のカシワが主であり、エゾではブナ科のコナラ、ミズナラ、カシワである。棲息地は食樹を反映して、ハヤシは火山性草原や山地草原、海岸などに発達するカシワ林、エゾは主にミズナラやコナラの生える山地の落葉広葉樹林である。発生は年1回で前出の表に示した通り共に6月ごろから羽化をはじめる。卵で越冬する。

 ところで、庭に初めてゼフィルスの仲間が訪れたので、このゼフィルス一般についてもう少し書いておこう。

 蝶の採集に興味を持つと、多くの人はゼフィルスの美しく緑色に輝く金属光沢の翅表に惹かれることになるようだが、高校生の私も同様であった。ゼフィルスという名前の由来は、当時読むようになっていた岩波新書の内表紙に描かれている四人の風の神の中の一人で、春と初夏のそよ風を運ぶ「西風の神 Zephyrus」のことだと知ったのもこの頃であった。


岩波新書の内表紙のデザインに見られる四人の風の神、右下に Zephyrus の字が見える

 また、高校の生物部の誰かが書いた、「八ヶ岳のすそ野で長い竹竿のような捕虫網を使ってゼフィルスの採集をした」という記事を読んで、いつかその八ヶ岳に行ってみたいと思っていた。大学に入り、最初の年だったと思うが、夏休みにその計画を立てた。しかし、その頃大学に通う少し長い坂道を歩いていると息苦しさを覚えるようになり、学内の医学部に行き診察を受けたところ、自然気胸と診断され、夏休みは安静にしているように言われてしまった。

 体調の方は自然に回復していったが、この頃を境に蝶からは遠ざかるようになっていき、就職してからは全く蝶には縁のない生活になっていた。

 再びゼフィルスに関心が戻ったのは、アカシジミの大発生のニュースを知って、弘前に出かけた2013年になるから、ずいぶん長いブランクであった(2017.6.30、2017.7.7 公開の本ブログ)。定年を迎え軽井沢に住むようになってからは、蝶をはじめとして、自然への関心が若いころに増して高まり、飼育をして生態を3D撮影したり、野外で写真撮影をするようになったが、同時にゼフィルスへの関心も再び戻ってきていた。

 軽井沢には多くのゼフィルス類が生息している。このことは、鳩山邦夫さんの著書(チョウを飼う日々、講談社発行)や、前記の栗岩竜雄さんの写真集などで分かっていたが、実際の出会いはなかなかやってこなかった。そして、とうとうゼフィルスの方から庭にやってきてくれることになった。

 種名の同定はまだ怪しいところがあるが、これを機に来シーズンには多くのゼフィルスの仲間に出会いたいものと思っている。

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