ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

大倉ダム

2024-06-11 08:00:00 | 宮城県
2016年4月 9日 大倉ダム
2024年4月25日
 
大倉ダムは宮城県仙台市青葉区大倉の名取川水系広瀬川左支流大倉川にある宮城県土木部が管理する多目的マルティプルアーチ式コンクリートダムです。
仙塩地区への工業用水・仙台平野への灌漑用水を目的とした名取川水系での河川総合開発計画は戦前より進められていましたが戦況の悪化により着手には至りませんでした。
戦後の復興を受けた水需要の増加や仙台市街を貫流する広瀬川の治水を目的として建設省により「大倉川総合開発事業」が採択され広瀬川左支流大倉川に1961年(昭和36年)に建設されたのが大倉ダムです。
大倉ダムは建設省の事業で建設された特定多目的ダムで、完成後に宮城県に移管されました。同様に建設省の直轄事業で建設され完成後に地方自治体に移管されたダムとしては京都府の大野ダムや秋田県の皆瀬ダムなどがあります。
大倉ダムは広瀬川および名取川の洪水調節(7月1日~9月30日の洪水期に最大800/秒の洪水カット)、安定した河川流量の維持と不特定利水への補給、流域農地への灌漑用水の供給、仙台市及び塩釜市への上水道用水の供給、仙塩工業地帯への工業用水の供給、東北電力大倉発電所での最大出力5200キロワットのダム水路式発電をダムの目的としています。
 
大倉ダム建設地点は非常に安定した地盤でアーチダム建設に適しています。
しかし全幅200メートル近い谷を一つのアーチダムで結ぶよりも、中央にスラストブロック(人工アバット)を設置して2つのアーチダムを並立させるほうが経済的に優位ということでダブルアーチが採用されました。
ダブルアーチ式コンクリートダムとしては日本で唯一、ダムの型式であるマルティプルアーチとしても香川県の豊稔池ダムとともに2基しかない希少な型式のダムです。
構造令の改正により現在の日本ではマルティプルアーチダムを作ることはできないため、文字通り唯一無二の存在です。
そういった点を評価され2023年(令和5年)に土木学会選奨土木遺産に選定されるとともに日本ダム協会により日本100ダムに選ばれています。
大倉ダムには2016年(平成28年)4月に初訪、2024年(令和6年)4月に再訪しましました。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載してあります。
再訪時は職員様同行でダム見学を行いました。そちらの詳細は『大倉ダム ダム研見学会』の項をご覧ください。

まずはダム下へ
公園として整備され、桜の時期には融雪放流と花見をセットで愛でることができます。
一方で、ダブルアーチをを一望するにはスペースがなくその姿を写真で伝えることができないのが残念。
中央のスラストブロックを挟んで二つのアーチダムが並びます。
(2016年4月9日)

 
こちらは洪水吐のある左岸のアーチ堤体。
クレストにローラーゲート4門を装備。
(2024年4月25日)

 
ゲートをズームアップ。
例年ゴールデンウィークを挟んだ時期に融雪放流を行いますが、再訪時は歴史的な少雪だった影響もあり放流はなし。
(2024年4月25日)

 
こちらは非越流の右岸側アーチ堤体。
(2016年4月9日)

 
ダムの下流400メートル地点にある東北電力大倉発電所
もともと当地には水路式の旧大倉発電所がありましたがダム建設で水没するため新たな発電所に置換されました。
最大出力は5200キロワットでダムに発電容量はなく利水従属発電となります。
この発電所からの放流水が下流で灌漑・上水・工水として利用されます。
(2024年4月25日)

 
管理事務所内にある完成当時の写真
こういうアングルで見れる場所があればいいんですけどね?
当時はスラストブロックの上に管理事務所がありました。
トイレの排水はどうしてたんだろう?
(2024年4月25日)

 
右岸ダムサイトの大倉ダムバス停。
(2024年4月25日)

 
下流面
こちらは非越流の右岸アーチ堤体。
(2024年4月25日)

 
こちらはゲートのある左岸アーチ堤体。
(2024年4月25日)

 
減勢工
ダム建設地点周辺は全幅200メートル程度の渓谷ですが、左岸側が深く浸食され大倉川の流路になり右岸側は河岸段丘となっています。
ちょっとわかりづらいですが下流にアーチ型の副ダムがあり、段丘上はダム下公園です。
(2024年4月25日)

 
ダム湖の大倉湖は総貯水容量2800万立米
ダム湖越しに日本200名山の船形連峰が一望できます。
ダム建設以前は川沿いに盆地が開け農地が広がっていました。
大倉ダムはその下流の狭窄部に建設されており、ダム建設地としては理想的な立地です。
(2016年4月9日)

 
天端は県道55号となっており車の通行ができます。
ダム上流には『定義如来 西方寺』があり交通量の多い土日祝日は時計回りの一方通行となります。
ゲートピアは鉄骨トラス製
ピアの手前には艇庫と灌漑用取水設備があります。
(2016年4月9日)


左岸から。
(2024年4月25日)

 
こちらは非常用放流バルブ
大倉ダムでは利水放流や水位低下放流は発電所経由で行われますが、発電所の点検や改修際にこのバルブが使用されます。
(2024年4月25日)

 
こちらは左岸農業用水取水管
広瀬川沿岸の仙台市大倉川土地改良区に専用水路で灌漑用水を供給します。
(2024年4月25日)

 
左岸農業用水の水利使用標識。
(2024年4月25日)

 
こちらは東北電力大倉発電所の取水口
昭和30年代ということで大掛かりな取水設備になっています。
主要な利水のほか、水位低下放流などもここを経由して行われます。
(2024年4月25日)

 
発電用の水利使用標識。
(2024年4月25日)

 
上流面
左が左岸農業用水の取水設備、その右手が艇庫。
(2016年4月9日)

 
上流から遠望。
(2016年4月9日)

 
日本で唯一のダブルアーチということで、見どころ満載。
ただ、やはり高所から堤体を俯瞰できる場所があれば!というのが偽らざる本音。
 
(追記)
大倉ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
0292 大倉ダム(0298)
宮城県仙台市青葉区大倉
名取川水系大倉川
FNAWIP
MA
82メートル
323メートル
28000千㎥/25000千㎥
宮城県土木部
1961年
◎治水協定が締結されたダム