風そよぐ部屋

ウォーキングと映画の無味感想ノート

映画/タレンタイム 優しい歌

2017年09月11日 | 映画

秀作です。
日本では珍しいマレーシア映画です。監督・脚本はヤスミン・アハマドさん、1958年生まれの女性です。2009年病死しました。
生涯で6本の映画しか世に出さなかったそうです。私は初めて見ました。
英語、マレー語、ヒンディー語、中国語の四つの言葉が行きかうと冒頭に紹介されますが、正確にはさらに手話とクレオール語・
ピジン語の多言語が話されます。
英語も、ガチガチのUK英語とクレオール的マレー英語が飛び交うのです。
クレオール言語とは、一般的に異なる言語を使う人々の間で自然に作り上げられたピジン言語が、世代を経て母語として話さ
れるようになった言語を言います。
確かヒンディー語の時、一部英語の字幕が使われたと思いますが、後はまったく字幕はありませんでした。
もちろん、日本語の字幕は付きますが…。
マレーシアは多民族、多宗教の社会、おそらく多数の共通語は英語と思います。

英語のタイトルは、Tallent Time 由来と思います。テレビなどのそれとは異なり、学校でのアサイメント=ミニ文化祭のよう
なものから作られたTalentime。
四人の高校生が登場します。それぞれの家庭がどんな仕事なのか詳しい説明は触れられません。
イギリス人の父とムスリムのマレー人の母を持つ女生徒・ムルー一家。そこにはムスリムに改宗した中国人の未亡人の
メイドが住み込んでいます。
何で生計を立てているかなどは説明がありませんが、裕福であることは想像できます。
インド人でヒンドゥ教徒のマヘシュ一家。マシューの父親は死亡し、その遺族年金で生活しています。マシューは、
聴覚言語障害者です。日常会話は手話ではなく口話・読唇です。

彼は、ムルーが練習で帰宅が遅くなるので、バイクで送迎することに抽選で選ばれます。
しかし、ムルーは彼が耳が聞こえず音を発せられないことを知りません。
好意を抱く彼に挨拶しても、聞こえない彼は「無愛想」で、彼女の心は、乱れます。
マレー系ムスリムのハフィズ、父親は失踪、母親は脳腫瘍で入院中です。
彼は、転入生ですが、トップの成績です。ムルーにひそかに恋心を抱いています。
中華系のカーホウ、宗教はわかりませんが、ベンツに乗る父親は、息子の成績が悪いと殴ります。
それまで、彼はトップの成績でしたが、ハフィズのその場を奪われ、鬱積しています。
彼も、ムルーをひそかに思っています。
ストーリーは決して複雑ではなく、シリアスでも決してなく、ほとんどコメディです。
四人のタレンタイムをめぐる青春の一コマを縦軸に、それぞれの家庭のかなりシリアスな話題をさりげなく、挿入します。
その内容は、とても深刻なのですが、さらっと物語的に語るのです。
マシューの叔父さんの話は、かなり重いです。若い時、好きな女性がいたのですが、他コミュニティということでマシューの
母親に反対され、ずっと独身で、マシュー一家を援助してきましたが、その彼女がなくなって結婚することになりました。
結婚式で騒ぐ彼らに喪に服すムスリムの隣人が逆恨みして彼を殺してしまいます。
ある夜、ムルーとマシューはデートのところをメイドに見つかり、説教の後、ムルーの家に招かれたのですが、安心と疲れて
寝入ってしまいます。
そのことを知った彼の母は、ムルーとの付き合いを禁じるのでした。
マシューとムルーが愛を語る場面と、彼が母親に切ない胸の内を明かす場面は、手話でした。
私にはその手話が決して滑らかには見えませんでしたが、他の場面では手話は使われていないのに、ここで手話が使われた
意味・価値・重要さを思いました。
そう、「言葉」、思いを伝えるのはとても重要で大事なんです。
とても美しいシーンでした。
ムルーがマシューを好きになったのは、彼の容姿で、まさに彼女のひとめぼれでした。

このこともとても重要です。彼女は、それまで彼を全く知らなかったのですから。
彼女にとって、彼の出自や宗教、彼の言語は?、家庭環境、豊か貧しいか、賢いかアホかなどは関係ないからです。
マシューは初めはムルーに無関心でしか仕方ありませんでした。
でも、彼女は背も高く、美人で、ピアノと歌声は極上で、彼女に密かに心躍らせるのでした。
この映画が特に優れているのは、今日「問題」となっている、ムスリムなどの宗教や異人種間の対立や軋轢をあるがままに受容し、
特別視していないことです。
マレーシア社会がそのように寛容であることを意味していません。
マシューのおじさんの隣人との軋轢はあるし、貧しいインド系ヒンデゥの人々への異教徒・異コミュニティからの差別や
不寛容、逆のそれらも当然あります。
アハマドさんは、そうしたマレーシア社会を批判したり、「寛容たれ」と説教しているのではありません。
いろんな問題を抱えているけど、でもマレーシアの社会の未来は明るいと希望しているのだと思います。
貧しいインド系ヒンデゥ教徒、しかも聴覚言語障害の男性とマレー社会で裕福なエリート社会の家庭、でも、きっとうまくやって
行けるよと、若い二人を後押ししています。
連続して、すばらしいMoonlightとタレンタイムを鑑賞できて、私はとても至福でした。    【9月4日】



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