3.「ローマの街角」~塩野七生著・国際情報誌『フォーサイト』に1994年春~1999年の冬間(5年)のコラム集。一コラム新書判3~4頁。
・マキャベリは、1000年もの間キリスト教で指導してきたのに人間性に少しも進歩も向上も見られないのは、人間自体がもともと宗教によってさえ変わり様もないほどに「悪」に対して抵抗力がないからであると考えた。ゆえに、そういう人間達が住む世の中を変えて行くには、この人間性を冷徹に直視することが第一と、主張する。
・勝った武将はいずれも、自軍のハンディを埋めることなど考えず、不利を有利に変えることができた人である。司令官に最も必要な資質は想像力なのである(マキャベリ) ~不利を有利に一変させるには発想の大転換を求められる以上、想像力しかない。
・人種差別は、宗教上の理由からでもイデオロギィーからでもなく、ただ単に生活上の不都合から生まれる。経済的余裕を持たない「貧しい白人」が他のどの階級よりも先に人種差別主義者に一変する。
・イタリアでは、高校でも大学でも試験の半分以上が口頭試問である。
・優れた人物とは、不測の事態への対処ができた人であったと言うことを歴史は教えている。
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が突きつけたもの
~人智による話し合いでは解決できず
アメリカが断固として介入しない限り国連軍にもNATOにも紛争解決は不可能という事実
だが、アメリカは世界の安全保障に自国人の血を流す決意はないこと
冷戦時代には大国のエゴ[意向]と非難されたが、今ではそれさえ明確ではないといこと
ナチスドイツとともに葬り去ったと思っていた異民族、異宗教、異文化への民への非寛容が不死鳥のようによみがえったこと。非寛容な人間の精神はこの50年、形を変え場所変えて生き続けている。
・動機の正否などは関係ない~動機ならば皆良き意志の発露だ、問題はその良き動機がなぜ悪い結果につながってしまうか、だ。
「どれほど悪い事例とされていることでもそもそもの動機は善意によるものであった」(マキャベリ)
・韓国と日本は自分たちのことばかり話題にするからケンカするのです。第三国の、しかも遠い昔の第三国を話題にしたら意外と同意見になるかもしれない。
・全てを決するのは持てる力の多少ではなく、その効率よい活用にある。
・民族の「生命」の長さとは、ある時期に真のリストラ=再構築をやれたか否かにかかっている。
第二次世界大戦の日本の敗北の原因は
~日本人自体のものの見方とものの考え方と事への処し方にあった。=古代ローマと反対のことをした。
日本は侵攻した所では必要品を現地調達した~ローマでは基本は本国からの補給でやむを得ない場合でも銀・銅で支払った
ローマでは玉砕戦法は無縁だった~最少の犠牲で最大の戦果を得ると言う常識。
マザー・テレサを評価する
救いの手をさしのべた貧しい人たちに対し、キリスト教への帰依を求めなかった
彼女が与えようとした救いは、貧困や病気からの脱出よりも、その中での安らかな死の方であったこと。
事前に要する費用を集めるために積極的にマスメディアを利用した冷徹さ。
・“思い遣り予算”なんて英語にもできない形容で自国民を騙すのやめて属国税とはっきり言ってはどうであろうか。
・ローマでは、敗因は細部に至るまで追求された。ただし、敗因は追求したが責任者の処罰は行われていない、敗者復活の機会まで与えられている。失敗は誰でもする。同じ誤りを繰り返さないことのみが勝者と敗者の分岐点になることを歴史は教えてくれている。
外国語という道具を手にする前に修得しておくべき事
哲学や歴史に代表される一般教養を学ぶこと。
自らの言に責任を持つ習慣。
完璧な母国語の修得。
通訳を介さなければならない時の心得
なるべくなら相手方と同じ国出身の通訳を使う。
相手の方に身体を向け相手を見て話す。通訳は無視して良い。
センテンスを短くする。長くなりそうな場合は動詞で切る。~通訳に要約させないため。
英語が不得手出あることを公表しておく。
構成の歴史家ならば、20世紀をどう見るであろうか。人間は平等であるべきと言う信念を現実化しようとして、様々な実験を試みた世紀、と見るかもしれない。
・覇権国家とは、コンピュータではインプット不可能な「敬意」とか「尊敬」とかいう概念がないと、存続不可という面白い生き物である。
憲法について
第96条のみ改正する。~必要となれば常に改正が可能な状態にしておくべきだから。
=各議院総数の二分の一プラス一人の賛成を必要とする。[絶対不可侵は弊害が多い]
ユダヤ・ローマ法について
ユダヤ法~神が人間に与えたもの~神聖にして不可侵、改めることは不可。
法に人間を合わせる。
ローマ法~人間が定めたもの~神聖不可侵ではない、必要に応じて改める。
人間に法を合わせる。
【感想】
味わい深く読み応えある一冊である。
投げかけている問題・問は多岐に渡る。
彼女の発想はとにかく柔軟で創造性に富んでいる。
イデオロギィの色目で見ることの誤り・おかしさに気付く。
彼女の考え=提言に全て賛成とは言えないしそれをそのままマネしてもダメであり、現実を“冷徹”に見つめ、現実的解決策を自分の頭で考える事の重要さを痛感する。
『最後に』の「5年間書きつづった提言がどれ一つとして聞き容れられていない」の一言に何と言えばよいか。
2.『イタリアからの手紙』・塩野七生著
エッセイ集
[マフィア]はおもしろかった。
シチリアマフィアが第二次世界大戦後一大勢力になり今日なお絶大な力を保持するのは~
ムソリーニは法手続きなしにマフィアを壊滅まで今一歩の所まで追いつめたが、戦況は変わり、連合国がシチリアに侵攻する。アメリカ(FBI)はムソリーニを攻める時にシチリア上陸への手助け・道案内をマフィアに頼んだのが功を奏し、電撃的に進撃勝利する。イタリア解放後もアメリカの庇護のもとに密輸(酒は安いのでタバコ)・野菜果実市場(オレンジとレモンの輸出)・建設業・住宅・道路・港湾・工場、そして今では水道まで支配下に置いている、と言われる。現在では与野党中枢まで影響力を持っている、と塩野は書く。
1.『ローマ人の物語』[3]勝者の混迷[文庫版上・下]塩野七生著
ポエニー戦争・カルタゴ戦争に勝利し、地中海の覇権国となったローマは政治・経済諸処ほころびが生じてくる。改革に挑むが「内なる敵」もいる。
この巻の前半、ローマの経済について記述されている。
これまで疑問に思っていた経済的仕組みが理解できた。
【騎士階級】[ラテン語:エクイタス]
~ローマ軍に騎士を提供する義務を負う第一階級の属すほどの資産家という意味。
国政より経済活動に専念する道を選んだ人々と言っても良い。
・その重要な仕事の一つは租税徴収の請負(落札すると手数料が入る)。
・金貸し業[租税を変わりに払い、後で借金として取り立てる]
・軍団に必要な物資の納入
・公共事業の請負[この頃セメントが発明された]
=元老院議院は「商」に携わることは法律で禁じられ、〈裏で:自分の配下の解放奴隷などにさせていた〉
・富んだ騎士階級は土地の投資した。
【国有地】~同盟国にした国の土地の一部は没収し国有地とした、紀元前140年当時は国有地総数は50haで全領土の七分の一であった。
国有地はローマ市民に貸与された(借地料は小麦=年収益の十分の一、オリーブブドウ畑=五分の一)、借地権は相続・譲渡も認められた=ほとんど私有地。
~牧畜業やブドウ栽培などは
収穫まで年月を要するので先行投資を要し、兵役義務のある農場と多数の奴隷を使う大規模農園との価格競争で小規模農民は苦境に陥り借金をし次第に土地を失い、ローマに流れ込んだ。
=元自作農の失業者の出現と“農業の構造の変化”
:兵役を務める資格資産を下げても兵役免除者(プロレターリ)が増え、市民(兵役負担がある)がが減った。
「失業者とはただ単に職を失った・生活の手段を失った人々ではない。社会での自らの存在理由を失った人々なのだ。福祉を充実させれば解消する問題ではない」(塩野)
【グラックス法・改革】
・国有地の相続は認めたが、譲渡は認めない。
・広大な国有地を借用している者は、補償金をもらいそれを国家に変換しなければならない。
・返還された国有地を希望する農民に再配分する。
↓
無産者に落ちた農民に再度農地を与え自作農に復帰させる=失業者救済・社会不安解消・兵士の獲得。
この借地権がローマ市民の間で譲渡されている限りでは問題はなかったが、実際はローマ市民以外[ローマ連合加盟の市民]の多数譲渡されていた。
「人間とは食べていけなくなるや必ず食べて行けそうに思える地に移動する」(塩野)=ケルト(ガリア)人の移動
【マリウスの改革】 徴兵制から志願制の軍政改革
・総司令官の使える軍団数が伸縮自在になった、~防衛型かた攻撃型に変化
・資産の多少に分かれていた軍団分類が無用になった、同時にバラバラであった隊旗も廃止となり銀製の鷲旗となった。以後鷲がローマを象徴する。
・軍団内の〈ローマ市民-ローマ連合参加兵〉の区別=ローマ市民権の有無の消滅
・これまでは荘官や幕僚は市民集会で選出されて来たが総司令官の任命になった
・歩兵間の区別・武装の区別が消滅し、同じ投げ槍と盾と剣をを持つようになった
・騎兵団[これまでは上流階級の子弟の士官学校的であった]は、乗馬の上手いヌミディア・スペイン・ガリア人によって構成されるようになった。
・近衛兵[これまでは同盟諸都市からの選抜兵]は、全軍団から選抜した。
↓
・失業者の吸収、長期に兵を使える
・軍団内では資産による階級制度は消滅した
・ローマ市民と同盟諸都市市民の区別は希薄になった
・最高司令官の権力の増大[軍団数の伸縮・将官階級の任命制導入]
・最高司令官を頂点とする将官階級・一般兵士の関係がより緊密になった
↓↓
{マイナス面}:
・ローマ軍団の私兵化
・平時における兵士の過剰
「改革とはもともとマイナスであったから改革するのではなく、当初はプラスであっても時が経つにつれてマイナス面が目立ってきたことを改める行為なのだ」(塩野)
「法律とは厳正に施行しようとすればするほど人間性との間に摩擦を起こしやすいものだが、それを防ぐ潤滑油の役割を果たすのがいわゆる義理人情ではないか」(塩野)
「恵まれた階級以上に頑迷な守旧派と化す‘プアー・ホワイト’はいつの世にも存在する」
【紀元前一世紀のローマ人口】
成年男子(市民権):90万人
イタリア半島全体人口(60歳以上老人女子供);650万人
奴隷:250万人(俗習民やシチリアは含まない)
【奴隷】~高い順
教師(家庭教師)・熟練技術者(医者、建築家、彫刻家、画家)・上級技能者(交易、農園経営、秘書)・一般職人(店のマネージャー、職人、芸人、剣闘士)・芸能(舞踏、奏楽の女奴隷)・家事労働の男女奴隷・非熟練(農園、鉱山)
最高値と最低値の格差は100対一
・自由民の二分の一から三分の一いた奴隷だが大規模蜂起したのは、
大規模農園の多いシチリアで2回で、国内ではスパルタクスの反乱だけだった。