見たいと思っていた映画です。
実話をモデルにしているそうですが、ほとんどはフィクションです。
おもしろかったですが、映画としてのデキはイマイチです。
その理由は、後半のカーチェイスに見られる何とも安易な作り、全くの興ざめ、
つまりストーリーの行き詰まりです。
この映画は、リアリティが売りでは無いので、光州脱出劇をもっと工夫するべきでした。
軍の連携ミスの失敗や彼らの命令主義などを徹底して茶化し、笑い飛ばし、
その間隙を縫って危機一髪脱出するプロットにすれば良かったと思います。
確かに、最後のタクシードライバー達の心意気は「感動的」ですが、
仲間が犠牲になってヒーローを助けるのはいかにも安物のアメリカ映画の手法です。
軍内部にこの惨劇に反発する兵士がいたことがほんの一瞬描かれ、少し救われました。
韓半島は、その地勢的位置から様々な国々に侵略され分断されてきました。
同時にその境遇に果敢に抵抗・戦うアイデンティティを自らのものとする歴史を韓国民衆
は作ってきました。それを描くことがこの映画の目的では無いのですが
それが日本の民主主義と大きく違う「骨太」を作って来たと私は思います。
ところで、この映画には女性がほとんど出てきません。
ソウルのタクシー運転手・マンソプの小さい娘だけです。
その理由は、私にはわかりませんが、1980年頃女性のタクシードライバーはほとんど
皆無だったでしょうが、肝っ玉タクシードライバーを作っても良かったのでは…。
また、余計なラブロマンスは避けたい意味があるのかもしれません。
私が、一番気に入ったエピソードは、連絡先を教えてというドイツ人記者の申し入れに、
お菓子の名前を即興に偽名にしたことです。
その理由は、私は想像つかないのですが、「面倒・もう関わりたくない」気持ちだったのでは
無いでしょうか。ドイツ人記者は彼との再会を心底望むなら他にもいろんな手立てが
あったと思うのですが…。
この映画は、あくまでも光州事件を扱うことが目的ではありませんし、ジャーナリズムの
勇気をたたえる映画でもありません。
それらを題材として、韓国人社会のユニークなおかしさを描くエンターテイメントの映画です。
光州事件の背景や事実を語っていないのですが、そこに否応なく誘うのです。
それが、この映画が韓国で大ヒットした一要因と私は思います。
蛇足ですが、英題は、A taxi driver、ロバート・デ・ニーロのタクシードライバーはA がなく、
Taxi driver です。
主演したソン・ガンホはハンサムでは無いおっさんですが、有名な韓国俳優で、
シュリやグエムル-漢江の怪物など、おもしろかったです。 【9月10日】