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北タイ陶磁の源流考・#4<2010年考察のサンカンペーン窯創業考・#3>

2017-01-07 09:45:44 | 北タイ陶磁
<続き>

第9代・ティローカラート王の時、ヨドヒストラ王子がスコータイ王国統治下のシーサッチャナーライから、ランナー朝に帰順した時に連れてこられた陶工達によって築窯され、焼造を開始したと云う。これはKraisri氏の見解である。つまり15世紀中葉から焼造が開始されたことになる。
この説には幾つかの問題点がある。タマサート大学のPitiphat教授によると、幾つかの陶磁の年代測定では、14世紀の年代を示し、それは鉄絵双魚文盤に多いという。
スコータイやシーサッチャナーライから陶工が移動して起こる現象は何であろうか。考えられるのは築窯構造や窯材をできるだけ似せることと、器物の形状や装飾表現を似せることから始まると考えるのが自然である。
先ず窯の構造は、スコータイやシーサッチャナーライとサンカンペーン、ワンヌア、カロン共に単室窯でよく似ている。しかし寸法的な差は大きく、スコータイ・タウン窯址が長さ8.75m、幅2.4mでシーサッチャナーライ・コノーイ窯址が10.0×4.0mなのに対し、ワンヌア窯址で4.8×2.0m、サンカンペーンでも大きな部類のワット・チェンセーン窯址で3.4×1.9mである。
スコータイ、シーサッチャナーライで従来用いていた規模の半分以下の窯で焼造を開始したというのは、見方によっては若干不自然である。先進の技術を誇りに見せようとするのは古今東西問わず、技術者や職人のプライドである。そのようにみると多少疑問が残る。
次に双方の器物の特徴であるが、鍔縁や稜花形の縁をもつ盤は少なからず共通している。しかし器形については違いがある。スコータイ、シーサッチャナーライでは高台径が狭く、その高台は高く、しっかり作られているのに対し、サンカンペーンは高台径は広く、幅は狭く且つ低い。サンカンペーン、カロン、パヤオの各窯の盤の形状は、元染めや明代の盤との共通点が多い。
装飾に関する特徴も、一部の草花文盤等を除き相違点もある。サンカンペーンの装飾表現はそれよりも、カロン、パヤオ、ナーンやミャンマーの鉛錫釉緑彩文盤との共通性がうかがわれる。
しかしながら窯構造と装飾文様の共通性、サンカンペーン窯址からのスコータイ、シーサッチャナーライ窯の破片出土等を総合して判断すると、Kraisri氏提示の時期は別として、双方の窯から直接的、間接的な関与を受けたものと考えられる。
一方、シーサッチャナーライには、いわゆるモン陶と呼ばれる13世紀頃の盤や壺が存在し、その特徴はサンカンペーンやパヤオ窯の原形であろうことは容易に想像できる。
メンライ王がランナー朝を創始する頃のチェンマイ盆地は、ランプーンに都を置く、モン族国家のハリプンチャイ王国であった。つまりKraisri氏の説く、ヨドヒストラ王子の帰順の前から、スコータイ朝治下のモン族か、ハリプンチャイ王国のモン族のどちらかが、サンカンペーンの地で開窯したと考えるのが自然である。
尚、タイの識者では、パヤオ窯はサンカンペーン窯の古様を示すとの見解が支持されている。しかし、パヤオ窯の窯址調査報告は目にしておらず(存在自体についても、現段階では未調査)・・・(しかし2016年当該ブロガーが調べた時点で、発行されていること判明)詳細は不詳であるが、パヤオ窯に隣接するカロン・ファイサイ窯、カロン・ワンヌア窯についての、タイ芸術局の窯址調査報告によると、サンカンペーン・ワット・チェンセーン窯が3.4×1.9mに対し、カロン・ワンヌア窯は4.8×2.0m、ファイサイ窯は4.8×2.0mである。
あくまで想定であるが、パヤオ窯も似たような窯構造であったかと思われる。また器形や文様のデザインについても、共通点が多々ある。タイ北部のランナー朝前紀は、サンカンペーン、パヤオ、カロン共々モン族国家であったことが、これらを左右しているであろうとの想定である。
縷々記述したが、開窯は14世紀であろうと思われること、更にはサンカンペーンに83基を超えるであろう窯が築窯され、その鉄絵文様はシーサッチャナーライ、スコータイとは異なる点があることやカロン、ワンヌア、パヤオ、プレーの各窯との類似性や非類似性の様子を見ると、異なる背景をもつ人々が関与し、そこから独自の展開をとげたと考えられる。当該ブロガーにとっては、雲南諸窯の関わりを考えているが、未だそれについて述べる確証がないのが残念である。
写真はカロンの独鈷杵文を十字に重ねた文様である。これに類する文様は、雲南・玉渓窯址からも出土していると関口広次氏は報告されている。
サンカンペーン窯成立に至る考察と題して、考えている事柄を記述したが、論理が成立していない点も多々あると考えられる。




                                 <続く>


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