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サンカンペーン窯と焼成陶磁(4)

2018-02-10 07:45:35 | サンカンペーン陶磁

<続き>

サンカンペーン窯では、2色の掛分け釉の素晴らしい陶片が出土している。例外はあるもののサンカンペーンの窯は、あまりにも小形で且つ状態は良くなく、一貫して良質な陶磁を焼成するには不向きであった。空気と温度については、良い条件管理というより、運が左右したであろう。温度が良好な焼成状態に達することはまれで、しばしば窯は陥没した。

膨大な量の廃棄陶片は、陶工が抱かえていた問題を示している。窯のコントロールは優れたものではなく、陶土の状態も必ずしも良いとは云えず、釉薬の水分量は多すぎたようである。

Shaw氏は、サンカンペーンには伝統があったが、それは決して優れたものではなく貧弱なものであり、陶工は外来の技術(何を指しているのか、全般的な技術力のことか、具体的記述がないので不明)を習得するのが難しいようであったと、その著作に記されている。更に次のようにも記されている・・・曰く、多くの美しい作品が焼成されており、時には外国の陶工が、ランナー王宮の御用として、より高い品質の陶磁を焼成するために、招請された可能性が高いと考えている。それはクメール陶に似た2色の掛分け釉の花瓶や鉄彩(鉄絵)の美しい盤、そして数は少ないが発色の素敵な青磁による。(・・・これはShaw氏の見解で、金石文や古文書が残っているわけではないが、想定可能な推測である。)

(出典:チェンマイ国立博物館)

これらが示す熟練した陶工は、小さな窯の限界を克服したが、より良い窯を築窯することはなかった。陶工は窯や陶土等の原料を最良に制御できないことや、域外陶磁の影響などにより形状、大きさ、釉色が驚くほど多様で、それらの陶磁を分類することは困難である。中には知られた装飾文様のパターンに合致しないものもあり、識別が難しい陶磁も存在している。

大形壺・瓶

これらは全てのサンカンペーン陶磁の中で、最も優れたもので、幾つかは形状と釉薬において際立って美しいものがある。おそらく6個以上の大型壺・花瓶を同時に焼成することはできず、大量生産することはできなかった。幾つかの素晴らしい陶片がJam Pa Born窯から出土している。2色掛分け釉の壺は、クメール陶磁を連想させる(上掲写真)。ボディーは茶系統の釉薬を持つものもあるが、通常は黒系統である。茶系統とはオリーブグリーンと云ってよい。この釉薬は剥がれやすい傾向がある。握手は通常存在しない。耳は肩部に置かれ、茶または頸部同様の青磁釉で覆われ、それは青緑色や淡黄色を示している。白いスリップがしばしば青磁釉の下で使用されている。頸は高くて、時に波打つ外縁をもっている。また青磁の壺で、肩が茶系統の釉色で、その上半分が淡い緑色に発色し、下半分が濃いオリーブグリーンのものもある。単色の青磁の壺は薄胎で、発色は鈍い黄色を示し、これらの壺は小さい頸と口縁をもっている。

高度な美的感覚をもっていた陶工の手による大壺が存在する。その壺に関し、Shaw氏は以下のように記述している。握手は使用されなかったが、小さな突起状の装飾が取り付けられることがあった。ギザギザの植物文と思われる文様間に象の装飾がみられるが、それ以外の形態の装飾は使用されなかった。これに関し、関千里氏はその著書「東南アジアの古美術」P220に以下のように表している・・・印花文は象や魚であったり、蔓状の植物文であったりする。肩についている耳には、龍や蛙そして貝がある・・・と記している。そして産地としてはサンカンペーンORパヤオとし、どちらか決めかねているが、Shaw氏はサンカンペーンと記す。

この写真は、数寄者所有の壺であるが、その方はサンカンペーンと呼んでいた。どうも現時点ではサンカンペーン、パヤオ、ナーン説が存在し、サンカンペーンの窯跡から、当該陶片が出土していないこともあいまって謎である。

話を戻す。褐色釉の壺は、同じような形で作られていたが、それに加えて波状の口縁と二重口縁をもつ球根のような形(ハニージャー)の壺がある。褐色釉には艶消しの黒から栗色、黄土色のオリーブグリーンまで幅広い発色をしている。釉は厚くかかり滴り落ちるものや、薄くて縞模様になったり、斑を帯びるものもある。

(出典:TROCADERO Net Shop)

これらの大型壺に使用される胎土は、色と純度が異なっているが、一般的には灰色がかっている。単色の青磁は、サンカンペーン陶磁として識別できるが、褐色釉は他の北タイ陶磁と識別が難しい場合が多々存在する。

またまた謎めいた話である。Shaw氏はその著書で赤枠の掛分け釉大壺をサンカンペーンと記す。

それはランプーンのハリプンチャイ国立博物館の蔵品であるが、高さ45cmと堂々としている。

それが上2葉の写真である。関氏が述べる龍の耳を持つ。当該ブロガーはサンカンペーン説に多少なりとも疑問を持っている。これをサンカンペーンとすれば、ラオス帰りの大壺の一群は、印花文の共通性からサンカンペーンということになる。そのような判断は現時点では無理な判断と云わざるを得ない。・・・話が飛んでしまったが、縷々記載したようなことを含め、サンカンペーンの壺は魅力満載である。

Jars(ジャー)

小さな壺や瓶の大半は青磁だが、時には無釉や茶系統か、二色の掛分け釉が見られる。また握手の有無にかかわらず、多くの形状とサイズが豊富に存在する。一般的に青磁は、鈍い黄緑色であるが、時には窯の温度が高く、魅力的な光沢の翠色で細かい貫入が入ることがある。

(出典:TROCADERO Net Shop)

所謂二重口縁壺や小型の壺には、重さが2kgになるものもあり、強度もあったことから破損せずに出土した。しかし、それらは機能的ではあるものの美的鑑賞には、いまひとつである。但し、酒やその他の液体の輸送や保管には理想的であった。

化粧土(スリップ)は、通常貧弱な胎土を隠すために使用され、釉薬は器胎の下部まで覆っている。畳付きは、ほとんど平面(フラット)だが、幾つかは粗雑な高台をもっている。底は糸切痕というより、引きはがされたように見えるものもある。焼成された胎土の色は、赤色から褐色、淡色および灰色であり、多くの不純物が含まれている。時には釉薬の下に気泡をみることができる。

サンカンペーン陶磁のジャーの特徴として、小さな瓶や壺に環状の耳が付けられていることで、カロンのそれと判別が難しい事例も存在する。また蓋付の小さな壺も存在する。別には胴の中ほどに、大きな穴のあいたキンマ壺が在る。

                          <続く>


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