新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

11月21日 その2 我が国の英文和訳の技術は素晴らしい:

2020-11-21 17:00:59 | コラム
英語を和訳する時には洋画の題名の邦訳のような感覚で:

私が常々不思議に思っていることがある。それは我が国では官民挙って英語教育に力を注いでいるにも拘わらず、英語で思うままに自分が思うことを表現できるだけの力を備えた者が一向に増えず、一方では恥じるベきような珍妙なカタカナ語を次から次へと産み出してしまう英語力の不足というか、言葉の誤用が目立つ点である。

ところが、事英文乃至は英語の表現の和訳となると、今回採り上げるような絶妙な表現力が発揮されるのは、私は「どうしてだろう」と、その跛行現象に首を捻らざるを得ないのだ。ということで、以下に「これは上手いな」と感じた例を幾つか挙げていこうと思う。

その前に、ここに掲げた見出しの「英語を和訳する時には洋画の題名の邦訳のような感覚で」は、高校3年の時に英語の授業を担当して頂いた鈴木忠夫先生の優れた教訓であり名言だと信じている「英文和訳の基本的な心得」とでも言いたいのだ。その一例を挙げておこう。

例えば、今を去ること60数年前に評判になっていたアメリカの映画に「哀愁」というのがあった。この英語の題名は“Waterloo bridge”だったのだ。これを配給会社は「哀愁」にしたのは、映画の内容に即した素晴らしい意訳だと思う。制作者の狙いだったのだろう男女の出会いの橋を題名にしたところを見事に振り切って、悲劇的な恋愛という筋立てを尊重して「哀愁」にしてしまったのは凄いと言うしかない。

要するにこれくらいの思い切りの良さと大胆さを持たないことには、他人を唸らせるような見事な英文和訳は出来ないということだ。

その点では我が国の英文和訳の達人たちの技術には何時も感嘆させられているし、尊敬すらしている。時には何という忖度振りかと腹立たしい思いをさせられる訳語もあるが。そこで思い当たる「上手い」か「凄い」と言いたくなる、屡々報道の用語として用いられて、我が国に広く普及している和訳の例を挙げていこう。

半旗:
解説)これは亡くなった方に敬意を表し弔意を表す為に国旗を檣の半分の高さに掲げることで、英語ではhalf-mastかhalf-staffとなっているようだ。だが、私は「半旗」と聞いて長い間「半分の大きさの旗」のことだと思っていた。しかし、英語の表現を知って「これは面倒な」と思ったのだった。

即ち、「国旗を檣の半分の高さに掲げる」と訳したのでは体を為さないからだ。そこで、和訳の達人は知恵を絞って「半旗」とされたのだろう。「上手いな」と思わず敬意を表したくなる和訳だ。だが、これを見て旗竿の半分の高さのことだと、直ちに理解できる人がどれほどいるだろうかとも考えてしまう。

星条旗:
解説)言うまでもなくアメリカ合衆国の国旗であり、英語は文字通りにStars and Stripesである。ところが、アメリカで過ごす時が長くなり、屡々国歌を聞くようなると、国歌ではStar-spangled bannerと歌われていると知ったのだ。即ち、「キラキラ輝く星を散りばめられた旗」とでもなるだろうか。ここで、私が惑わせられたのがspangleだった。

日本語というかカタカナ語に「スパンコール」というのがあるので、これとspangleの関係を広辞苑で調べてみると、何とスパンコールは「スパングル」が訛ったものだと判明したのだった。和訳の話から少し外れてしまったが、スパンコールの語源がspangleかspangledだったというのは意外だっただけのことになってしまった。

一般教書演説:
解説)元の英語はThe State of the Union Addressであり、大統領が内政・外交の方針を述べる演説のこと。私にはそれならば「施政方針演説」で良かったようにも思えるのだが、如何なものだろう。「教書」は何処から出てきたのだろう。

国際連合:
解説)言うまでもない「国連」のことだが、これは英語の表記はThe United Nationsであって、何処にもinternational という言葉はない。私は故に常にUNとしか表記しない。この和訳はこれまでにUNに対する無用な尊敬の仕方を散々貶してきたので、これ以上の非難は避けておく。

安全保障理事会:
解説)これも感心するのみだ。「安保理」なる略語も作り上げた。英語はThe Security Councilなのだが、security という単語には「保障」というまでの意味はないように思える。だが、この和訳ではこの委員会の神々しさが十分に表現され、何故我が国が入りたい、常任理事国に選ばれたいという願望が表れている気がする。

常任理事国:
解説)これも凄いと思って何時も感心している。英語表記は“permanent member”であるからだ。私は上手い和訳であり意訳の極みだと思っている。誰がこのように訳したのかと感心している。「永久」を「常任」と訳したのが凄いと思う。

聖火:
解説)我が国ではオリンピックは限りなく神聖な行事だと崇め奉られているからこそ、こういう和訳が出てきたのかと信じているというか、疑っている。尤も、初期のオリンピックには神聖さがあったのだと察してはいるが。英語の表記は“Olympic flame”である。

併殺:
解説)最後に野球用語を採り上げておこう。英語は勿論double playである。これを併殺と訳した知恵は素晴らしいと思う。何処にも「殺」という単語がないにも拘わらず「併殺」とした。序でのことにtriple playは「三重殺」とされていた。

ここで不思議なのは、我が国の野球用語では「ゲッツー」(=get two)が普及していること。永年アメリカでMLBの野球を見て、その野球の中継放送を見ているが、get twoとは誰も言わないのだ。

実は、私は戦前に昔の後楽園球場で職業野球(professional baseball)を見ていたが、その当時でも既に「ゲッツー」が使われていたのだった。とすると、ダブルプレーと聞いてそれを「二人をアウトにする」という風に「ゲット・トウ―」と言い換えたのかなと考えている。なお、戦後には職業野球は「プロ野球」になってしまったが、これはprofessionalの頭だけを採ったらしい。




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