○○476『自然と人間の歴史・日本篇』住専処理(1996)

2016-09-19 09:19:06 | Weblog

476『自然と人間の歴史・日本篇』住専処理(199)

 また、1996年6月、「特定住宅金融専門会社の債権債務の促進等に関する特別措置法」が国会で成立しました。母体行責任かそれとも課して責任かということですったもんだしましたが、この法律制定と96年度予算が成立していることで、住宅金融専門会社の解体処理を巡って6850億円の公的資金が投じられることになりました。
 ここに住専問題とは、住専向けの金融機関の融資が不良債権化していたのをどうするかの問題でした。本来は、ん資金を借りる側もそれを貸す側も民間同士なのですから、かれらの間で不良債権を処理すればよいものなのですが、話し合いが紛糾したことから、国会がこれに関与することになっていったのです。結局は、母体行の責任が言われ、住専に出資していた銀行の債券は放棄、住専に融資していた農協系金融機関は贈与として5300億円を支出するが、これにより埋めきれない6800億円は政府が負担するという運びになっていったのでした。
 この政治決着には前史がありました。95年12月20日、時の連立内閣の村山首相は首相官邸で記者会見を行いました。
「日本の金融秩序に対する内外の信頼を回復するため、また契機対策からもこれ以上先送りすれば傷口を大きくし、金融界の混乱を大きくする。ぎりぎりの苦渋の決断として、公的資金を導入せざるを得ない。」
 これが総選挙で敗北した社会党籍の首相が進退極まったなかで発した節度なき「苦渋の決断」であったことは庶民なら誰の目にも明らかであったでしょう。それほどに与党・社会党の凋落は激しく、明くる96年1月5日には村山首相が閣議で退陣を表明。6日後の1月11日になるや橋本・自民党政権が発足し、ここに住宅金融専門会社に対する政治家の私利私欲による処置がまかり通っていったのです。
 この96年6月からの処理の流れで、いわゆる住専8社のうち7社の清算が決まりました。住専とは、元々は個人向け住宅ローンのために金融機関等の共同出資によって設立された、主として銀行借り入れを減資に貸し出しを行うノンバンクの一種でした。
 この住専が担保に見合った貸し出し、分散貸し出しの原則をかなぐり捨てて、大口のカネを借り手に集中的に融資し続けてきたことが、バブル崩壊とともに資金回収困難となって跳ね返ってきたのです。
 不動産融資の焦げ付きなどによって経営不振に陥った住専8社の92年9月時点の金融機関借り入れ状況は、総額で14兆885億円に膨らんでいました。住専各社は、農林系の協同住宅ローンを除く7社が母体行を中心とした金融機関から金利減免の支援を受けていたものの、不動産取引の低迷などから債権の回収が思うに任せず借入金の圧縮がすすんでいなかったものです(読売新聞、92年11月19日)。
 96年になって、彼らが持っていた債権が額面13兆円。これが不況による貸し倒れ等で価値が大幅に減価して、損失の大きさは6.4兆円に膨れ上がっていました。内訳は、3.5兆円+1.7兆円+5300億円+6850億円ということで説明され、この最後の部分を政府支出で穴埋めしようというものでした。
 具体的には、95年12月19日に発表された政府・与党による住専処理スキームと異なりません。これによると、旧住専7社の一次損失は6兆5000億円。このなかの6兆1000億円の資産を住宅金融債権管理機構に資産譲渡し、同管理機構は同額の譲渡代金(うち管理機構の自己資金
3000億円)を旧住専7社に支払う。
 住宅金融債権管理機構への資産譲渡に伴う資金の流れは、
①96年度当初予算で日本銀行は預金保険機構の住専勘定に財政資金6850億円を出資する。預金保険機構はそのカネを住宅金融債権管理機構に譲り渡す。母体行は2兆700億円、一般行は1兆8000億円、農林系は1兆9000億円、合わせて5兆8000億円の低利融資を行う。
②住宅金融債権管理機構の損失が拡大した住専勘定に欠損が生じた場合には財政支出を追加する
③住専の追加見込み額は7社合計で約6兆4000億円である④母体行は債権総額の3兆5000億円を、一般行においては1兆8000億円をそれぞれ債権放棄する
⑤農協系金融機関は住宅金融債権処理機構に5300億円を贈与する
⑥住宅金融債権管理機構は住専7社に1兆2000億円の支援を行う(日経新聞、96年12月25日付け)、というものでした。
 これは資本主義の原則である自己責任原則を金融秩序の名のもとに真っ向から葬り去ろうという最初の試みでした。
 救済の理由として持ち出されたのは、農林中央金融公庫が住専に多額の融資をしていたため、住専を破産法などの法的整理で処理すると、農林系金融機関の経営を揺るがす問題に発展しかねない、ひいては金融不安が起こる懼れがある、というものでした。といっても、債権回収を行う必要があるわけで、預金者保護のために設立されていた認可法人であった預金保険機構の従来業務に加え、住専処理機構への出資や資金援助、住専処理機構による強力な資金回収のための助言・指導、回収困難事案に対する財産調査権を活用しての取り立て等が可能となりました。
 この住専処理の一連の流れのなかで、モラル・ハザードは働いたのでしょうか。6850億円の財政からの支出については、何ら合理的根拠は見いだせません。それどころか、税金を注入する先は図体の大きいだけのノンバンクで、預金者保護とは縁もゆかりもありません。一方で、農林系金融機関が本来負担すべき6850億円であるにもかかわらず、そして彼らの経営責任こそ問われるべきであったのに、小選挙区制で怖い政治家たちはそのことにいっさい触れませんでした。結局のところ、新金融安定化基金という社団法人176社が合計8130億円の資金を出して、この基金による15年間の拠出金を国庫に納めることで、6850億円の一部をそうさいしたいというような、まさに雲をつかむような話で終幕を迎えたのです。財政民主主義からする節度あるある流れは起きず、結果として政・官・財一体となった住専処理であったことは、否めません。
 このとき、母体行に対しては、次のような「念書」を書かせたようです。
「ご当局指導のもと、全金融機関一致しての支援を踏まえた上で、金融システム安定化の観点から、再建計画に沿って責任をもって対応してまいります所存でありますので、当局においてもよろしくご理解、ご助力の程お願い申し上げます。」
 また、農協系金融機関については、なんと農林水産省との覚え書きによって元本保証をするかのような文言がしたためられていました。
「大蔵省は農協系統金融機関に今回の措置を超える負担をかけないよう責任をもって指導していく」といい、まるで預金者のように次から次へとカネを住専に貸し続けた農協系金融機関のいい加減さを放置するのですから、臭いものへ蓋の感への感を免れません。
 今一つ、「週刊読売「(98.4.5)に住宅金融債権管理機構の社長、中坊公平へのインタビユーがなされています。
「この会社は資本金2000億円、全額が国の出資という典型的な国策会社です。国策会社であって、その窓口が大蔵省です。その大蔵省の方々の監督を受けて自分が社長としての仕事をするときに、意見が分かれるというか、私の主張が大蔵省と会わない場合もあると思うんです。」
「処理すべき不良債権は8兆円あるんです。そのうち5兆円は私が管轄しとるんです。直轄するということは、かれこれ1000件近い事件を全部見とるんですよ。だから、1件1件、私が決済してるんです。」
 さらに、聞き役の宮崎 緑キャスターが「ところで、不良債権の回収にあたっては、いわゆる「闇の勢力」とも対峙するわけですが、怖いと思われませんか。」と話題を転じたことに対応して、こう述べています。
「.....不良債権を回収するとき、彼らはどう出てくるかというと、損切り屋なんです。」
「担保物件にわざわざ傷をつけるわけです。いちばん露骨なやり方が不法占拠です。あるいは架空の賃借権をつけるとか、債権を譲渡してしまうとか。」
 宮崎キャスターが「ただでさえ地価が値下がりしているのに、さらに価値が下がってしまう」としたのに対して、「おまけに傷をつけて、その担保物件を売ろうにも売れないようにするんです。すると向こうは「あんた、損切りでちょっと損しときいな。それでわしとこちょっとお金くれたら瑕疵なくすんやから」というところとで、闇の勢力が暗躍するわけです。」と答えています。私たちは、この一人の老練な法曹家の勇気ある発言から何をまなんだらよいのでしょうか。

(続く)

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