3月18日、FRBが長期国債の買い取りという最後のカードをついに切りました。6ヶ月の時限処置とされております。日経によると、1930年代の大恐慌から1950年まで戦争を挟んで同様に買い取りが行われており、今回はそれ以来の歴史的な出来事です。
今回のいわば虚をつくような発表で、米国債の10年もの金利は瞬時に0.5%も下落(価格は上昇)しております。これで円との長期金利差が縮まったことで瞬時に円高へと振れております。
これだから為替も難しい。巷では100円越えは時間の問題と見ておりましたので、ドル買いのポジションをとっていた方も多かったことでしょう。
今日の筆者の考察のテーマは、この歴史的な中央銀行による国債の買い取りが意味するところを、極めて大局的な見地から考えてみることです。
【今の金融危機を招いたもの】
信用収縮危機とも言われておりますが、金融経済が実態経済に比べて2007年末で3.6倍にも達していたことが原因です。
◆世界の金融資産総額:196兆$ vs.世界のGDP:55兆$
この金融資産と実体経済の乖離が、住宅を中心としたバブルでした。バブルだったことは、今回、金融資産の増勢が持続可能ではなかったことで証明されました。
端的に言うと、住宅価格について言えば、人々がその収入で買える範囲を越えてしまったということです。金融商品について言えば、世界のGDP総額が付与できる利息分を超えた元本に、世界の金融資産総額が膨れあがってしまったということです。
【どこに向かって経済が収縮しているのか】
金融経済が実態経済の3倍程度にジャンプしたのが2000年です。ちょうど、住宅バブルやITバブルの発生時期に相当します。
それ以前は2倍でした。1980年まではちょうど実体経済と金融経済が同じでした。
よって、今回の信用収縮は、金融経済が実体経済の少なくとも2倍になるまでは収縮するものと考えます。
◆196兆$が110兆$にまで落ちなければなりません。86兆$(44%)の収縮です。(8170兆円、$=95円)
【これまでの収縮度】
◆世界の株式時価総額:推定で30兆ドルの下落。
◆米国と欧州の住宅価格:推定で20兆ドルの下落
◆これまでの金融機関のローン債権や証券化商品の損失額:推定6兆ドル。(みずほ)
注:住宅価格の下落分と金融機関の証券化商品の損失額は一部重複しておりますが、この際、細かな点は大局には影響ないので無視します。
◆合計の収縮度:56兆ドル。 残りの収縮必要額:30兆ドル。
【必要資金に対する手当】
追加で収縮される30兆ドルの穴埋めのためには、それに相当する資金が必要ですが、もはや民間や米国外の資金に多くは期待できません。これは、欧州も同様です。
そこでFRBやBOE(英中銀)、そして日銀による国債買い取りとなりますが、今回のFRBの3000億ドル程度ではとても足りません。
国家信用が損なわれない限界値まで、米国、英国、EU、そして日本の中央銀行は国債買い取り(=信用収縮補完の資金供給)をいずれ迫られる筈です。
それがいくらになるかの試算は筆者の能力を超えておりますが、日本でも将来の日銀による国債買い取りは、50兆円から100兆円規模が必要と想定されてます。いわゆる真水です。それくらい日本のGDPの落ち込みは悲惨。
50兆円としても5000億ドル強。日本のGDPが世界の10%程度であることを勘案して、世界主要国で5兆ドル規模までの国債買い取りは余儀なくされるのではないかと推定します。
これで、30兆ドルの追加の収縮圧力をいかに和らげることができるかどうかが焦点です。これに世界全体が失敗すると、結果は世界経済崩壊に至るかも知れません。
【どういう解決手段があるのか】
今や、今回の問題は世界的な信用収縮ということにおいて、単なる不況の循環とは全く様相を異にしており、まさに史上初の出来事です。100年に1度でも何でもありません。
これからの30兆ドルもの信用収縮の追加の嵐に対して、中央銀行が対処できるとしてもたったの5兆ドルまで。(民間資金の国債購入が減れば、その分増えます。)これでも通貨の価値を毀損させる恐れが十分にありますが、それにもまして金利水準を上げることは叶いません。巨額国債の発行は必然的に各国の利払い増加に繋がりますので、何としても、中央銀行は、各国政府が発行する国債を買い取り続け、金利高騰を防ぐことが必要となります。
こうして金利を上げないために市場に水膨れさせた各国の通貨は、その分価値が下落するのは免れず、帰結するのは、追加の信用収縮25兆ドル分を帳消しにする世界インフレーションしかありません。このインフレーションは、各国政府の負債を軽減させるという思わぬ「副作用」もあるのです。
【何がインフレを起こすのか】
25兆ドルに見合ったインフレーションは、本来110兆ドルまでの収縮が要請されているところ、135兆ドルで勘弁して貰うためのものとなります。およそ23%のインフレさえ起こせば、(楽観的過ぎるかも知れませんが)信用収縮は一旦収まるかも知れません。
月に1%のインフレで年率12%ですから、約2年に亘って月間1%のインフレにコントロールできれば実現は可能です。
しかし、これはいわば信用収縮下で需要が減退している中での、政策人為的なインフレですから、本来は企業も価格を上げたくはありません。上げると即、売上げ減につながるからです。
そうなると、2008年7月に原油がバレル147ドルの最高値をマークしたように、人口増(=経済成長)に不可欠な一次産品(これは環境問題その他から増産が困難)の価格がまず上がることが考えられます。いや、今のところこれしか頭に思い浮かびません。
2008年7月の原油の上昇は、サブプライム問題が信用収縮へ向けての牙をむく、まさにその前夜のバブルに踊った人々の最後の饗宴だったのです。この饗宴を冷まそうとEUが政策金利を上げたのがバブル破裂の号砲となり、とどめを刺しました。この時のインフレ率は年率でたったの4%程度でした。
【最後に】
一次産品を中心としたインフレの芽は、このところの原油の50ドル回復を見ても、じわりと出てきております。しかし、この年率12%程度のインフレにうまく制御できるのかどうか、まったく予断を許しません。
1970年代の狂乱物価と言われた時を思い起こすと、企業は原油価格中心に原価が上昇したため、やむなく製品価格の引き上げを行わざるをえなかったのです。昨年夏頃まではまさにそうでした。一度、この値上げの連鎖が起こると、それぞれの値上げが相乗していく怖さがありますね。今回、インフレ率が50%程度にまで行く可能性は十分にあると思います。また、そこまで行かないと、膨れあがった政府債務を減らすことは極めて困難だからです。
こうした、ハイパーインフレ直前まで行かせないための方策が1つだけ残されております。それは、世界の実質GDPを今後の信用収縮相当分を吸収できるほどに引き上げることです。GDPを上げるためには、企業で言えば、生産性を上げることに尽きます。単位投入リソース(人、モノ、金)で、これまでより2倍上回るアウトプットを出せば、生産性が2倍となりGDPもその分増えます。末端価格はその分下げることができます。そして原材料費の一次産品の高騰を吸収して、価格転嫁は行わなくても済みます。
これが、今回の世界各国の経済刺激のための投入資金が、定額給付金のような単なるバラマキではなく、生産性の向上に繋がるところへの集中投資が促されている理由です。
こうした生産性の劇的な向上を通じて、増え続ける世界人口の糊口を凌ぎ、中国やインドの人々の生活水準も上げながら、かつ、インフレを年率1-2%の範囲、悪くても3-4%の範囲に押さえ込むという可能性がなくはありません。ところが現実には、生産性2倍を実現するのは極めて困難だと言えます。
しかし、{長期金利=GDPの実質成長率+期待インフレ率}という古典的な公式からすれば、仮に世界の実質GDPの平均成長率が生産性のある程度の向上で年率8%になったとき、期待インフレ率を2%に押さえ込んでも、10%の長期金利となります。先進国のGDP成長率は3%としても5%の長期金利水準になります。これでは日本は当然としても、これから国債を増発する各国は破綻に追い込まれるかも知れません。
このジレンマをどう解決するのか、史上初の出来事の帰趨は、あと数年後には明らかになっていることでしょう。
FRBはその最後の賭けに打って出たということになります。
今回のいわば虚をつくような発表で、米国債の10年もの金利は瞬時に0.5%も下落(価格は上昇)しております。これで円との長期金利差が縮まったことで瞬時に円高へと振れております。
これだから為替も難しい。巷では100円越えは時間の問題と見ておりましたので、ドル買いのポジションをとっていた方も多かったことでしょう。
今日の筆者の考察のテーマは、この歴史的な中央銀行による国債の買い取りが意味するところを、極めて大局的な見地から考えてみることです。
【今の金融危機を招いたもの】
信用収縮危機とも言われておりますが、金融経済が実態経済に比べて2007年末で3.6倍にも達していたことが原因です。
◆世界の金融資産総額:196兆$ vs.世界のGDP:55兆$
この金融資産と実体経済の乖離が、住宅を中心としたバブルでした。バブルだったことは、今回、金融資産の増勢が持続可能ではなかったことで証明されました。
端的に言うと、住宅価格について言えば、人々がその収入で買える範囲を越えてしまったということです。金融商品について言えば、世界のGDP総額が付与できる利息分を超えた元本に、世界の金融資産総額が膨れあがってしまったということです。
【どこに向かって経済が収縮しているのか】
金融経済が実態経済の3倍程度にジャンプしたのが2000年です。ちょうど、住宅バブルやITバブルの発生時期に相当します。
それ以前は2倍でした。1980年まではちょうど実体経済と金融経済が同じでした。
よって、今回の信用収縮は、金融経済が実体経済の少なくとも2倍になるまでは収縮するものと考えます。
◆196兆$が110兆$にまで落ちなければなりません。86兆$(44%)の収縮です。(8170兆円、$=95円)
【これまでの収縮度】
◆世界の株式時価総額:推定で30兆ドルの下落。
◆米国と欧州の住宅価格:推定で20兆ドルの下落
◆これまでの金融機関のローン債権や証券化商品の損失額:推定6兆ドル。(みずほ)
注:住宅価格の下落分と金融機関の証券化商品の損失額は一部重複しておりますが、この際、細かな点は大局には影響ないので無視します。
◆合計の収縮度:56兆ドル。 残りの収縮必要額:30兆ドル。
【必要資金に対する手当】
追加で収縮される30兆ドルの穴埋めのためには、それに相当する資金が必要ですが、もはや民間や米国外の資金に多くは期待できません。これは、欧州も同様です。
そこでFRBやBOE(英中銀)、そして日銀による国債買い取りとなりますが、今回のFRBの3000億ドル程度ではとても足りません。
国家信用が損なわれない限界値まで、米国、英国、EU、そして日本の中央銀行は国債買い取り(=信用収縮補完の資金供給)をいずれ迫られる筈です。
それがいくらになるかの試算は筆者の能力を超えておりますが、日本でも将来の日銀による国債買い取りは、50兆円から100兆円規模が必要と想定されてます。いわゆる真水です。それくらい日本のGDPの落ち込みは悲惨。
50兆円としても5000億ドル強。日本のGDPが世界の10%程度であることを勘案して、世界主要国で5兆ドル規模までの国債買い取りは余儀なくされるのではないかと推定します。
これで、30兆ドルの追加の収縮圧力をいかに和らげることができるかどうかが焦点です。これに世界全体が失敗すると、結果は世界経済崩壊に至るかも知れません。
【どういう解決手段があるのか】
今や、今回の問題は世界的な信用収縮ということにおいて、単なる不況の循環とは全く様相を異にしており、まさに史上初の出来事です。100年に1度でも何でもありません。
これからの30兆ドルもの信用収縮の追加の嵐に対して、中央銀行が対処できるとしてもたったの5兆ドルまで。(民間資金の国債購入が減れば、その分増えます。)これでも通貨の価値を毀損させる恐れが十分にありますが、それにもまして金利水準を上げることは叶いません。巨額国債の発行は必然的に各国の利払い増加に繋がりますので、何としても、中央銀行は、各国政府が発行する国債を買い取り続け、金利高騰を防ぐことが必要となります。
こうして金利を上げないために市場に水膨れさせた各国の通貨は、その分価値が下落するのは免れず、帰結するのは、追加の信用収縮25兆ドル分を帳消しにする世界インフレーションしかありません。このインフレーションは、各国政府の負債を軽減させるという思わぬ「副作用」もあるのです。
【何がインフレを起こすのか】
25兆ドルに見合ったインフレーションは、本来110兆ドルまでの収縮が要請されているところ、135兆ドルで勘弁して貰うためのものとなります。およそ23%のインフレさえ起こせば、(楽観的過ぎるかも知れませんが)信用収縮は一旦収まるかも知れません。
月に1%のインフレで年率12%ですから、約2年に亘って月間1%のインフレにコントロールできれば実現は可能です。
しかし、これはいわば信用収縮下で需要が減退している中での、政策人為的なインフレですから、本来は企業も価格を上げたくはありません。上げると即、売上げ減につながるからです。
そうなると、2008年7月に原油がバレル147ドルの最高値をマークしたように、人口増(=経済成長)に不可欠な一次産品(これは環境問題その他から増産が困難)の価格がまず上がることが考えられます。いや、今のところこれしか頭に思い浮かびません。
2008年7月の原油の上昇は、サブプライム問題が信用収縮へ向けての牙をむく、まさにその前夜のバブルに踊った人々の最後の饗宴だったのです。この饗宴を冷まそうとEUが政策金利を上げたのがバブル破裂の号砲となり、とどめを刺しました。この時のインフレ率は年率でたったの4%程度でした。
【最後に】
一次産品を中心としたインフレの芽は、このところの原油の50ドル回復を見ても、じわりと出てきております。しかし、この年率12%程度のインフレにうまく制御できるのかどうか、まったく予断を許しません。
1970年代の狂乱物価と言われた時を思い起こすと、企業は原油価格中心に原価が上昇したため、やむなく製品価格の引き上げを行わざるをえなかったのです。昨年夏頃まではまさにそうでした。一度、この値上げの連鎖が起こると、それぞれの値上げが相乗していく怖さがありますね。今回、インフレ率が50%程度にまで行く可能性は十分にあると思います。また、そこまで行かないと、膨れあがった政府債務を減らすことは極めて困難だからです。
こうした、ハイパーインフレ直前まで行かせないための方策が1つだけ残されております。それは、世界の実質GDPを今後の信用収縮相当分を吸収できるほどに引き上げることです。GDPを上げるためには、企業で言えば、生産性を上げることに尽きます。単位投入リソース(人、モノ、金)で、これまでより2倍上回るアウトプットを出せば、生産性が2倍となりGDPもその分増えます。末端価格はその分下げることができます。そして原材料費の一次産品の高騰を吸収して、価格転嫁は行わなくても済みます。
これが、今回の世界各国の経済刺激のための投入資金が、定額給付金のような単なるバラマキではなく、生産性の向上に繋がるところへの集中投資が促されている理由です。
こうした生産性の劇的な向上を通じて、増え続ける世界人口の糊口を凌ぎ、中国やインドの人々の生活水準も上げながら、かつ、インフレを年率1-2%の範囲、悪くても3-4%の範囲に押さえ込むという可能性がなくはありません。ところが現実には、生産性2倍を実現するのは極めて困難だと言えます。
しかし、{長期金利=GDPの実質成長率+期待インフレ率}という古典的な公式からすれば、仮に世界の実質GDPの平均成長率が生産性のある程度の向上で年率8%になったとき、期待インフレ率を2%に押さえ込んでも、10%の長期金利となります。先進国のGDP成長率は3%としても5%の長期金利水準になります。これでは日本は当然としても、これから国債を増発する各国は破綻に追い込まれるかも知れません。
このジレンマをどう解決するのか、史上初の出来事の帰趨は、あと数年後には明らかになっていることでしょう。
FRBはその最後の賭けに打って出たということになります。