【掲載日:平成21年6月29日】
茜さす 紫野行き 標野行き
野守は見ずや 君が袖振る
【蒲生野は、水田の下に静かな眠りについている】

天智七年(668)
都が近江へ変って一年余り
遷都騒動も ようやく落ち着きを見せていた
時は春
ここ蒲生野では 薬狩りが行われている
額田王は お付きの女官と共に 久方ぶりの 楽しみを味わっていた
カツ カツ カツ 遠くに響く蹄の音
何気なく 仰ぐと
あれは 大海人皇子
(あれ あんなに袖を振って わたしを誘っている)
ふと 額田王は 二人の若かりし日を思った
(はしたないことを 人目もあるに
昔と変わらぬ皇子だこと)
大海人皇子は 馬を近づける・・・
それを見やって 額田王は 詠い懸ける
茜さす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る
《春野摘み 野守見るやん 行き来して うちの方向こて 袖なぞ振って》
―額田王―(巻一・二〇)
近づく大海人 思わず 馬を止め
微笑みかけながら 詠い返す
紫の にほえる妹を 憎くあらば
人妻故に われ恋ひめやも
《そう言いな 可愛いお前に 連れ合いが 居るん承知で 誘たんやから》
―大海人皇子―(巻一・二一)
にっこりと 微笑み返す 額田王
「ワッハハハ・・・」
豪快な笑い声を残し 駆け去って行く大海人皇子
蒲生野に 春の日差しが揺れている

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