【掲載日:平成21年8月17日】
つのさはふ 石見の海の 言さへく 韓の崎なる
海石にそ 深海松生ふる 荒磯にそ 玉藻は生ふる・・・
【唐鐘浦、大洞窟より猫島を望む】
唐鐘浦の大洞窟
海蝕崖の断崖 奇観が続く
洞窟に轟き響く 荒波の声
岩礁底に躍る 深海松の翳
またしても 思いに映る 依羅娘子
つのさはふ 石見の海の 言さへく 韓の崎なる
海石にそ 深海松生ふる 荒磯にそ 玉藻は生ふる
《辛之崎の 海底の 岩にはミルが 生えている 磯には玉藻 育ってる》
玉藻なす 靡き寐し児を 深海松の 深めて思へど
さ寝し夜は いくだもあらず 這ふ蔦の 別れし来れば
《靡く藻みたいに 寝たあの児 深い心で 思てたが 寝た夜なんぼも あれへんに 置いて出て来て しもたんや》
肝向かふ 心を痛み 思ひつつ かへりみすれど
大船の 渡の山の 黄葉の 散りの乱ひに
妹が袖 さやにも見えず
《せつ無うなって 振り向いた 落葉えらいに 降ってきて お前振る袖 見えやせん》
嬬隠る 屋上の山の 雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠ろひ来れば
《お前住んでる 屋上山 照ってる月を 隠すよに 隠れてしもて 寂しなる》
天つたふ 入日さしぬれ 大夫と 思へるわれも
敷栲の 衣の袖は 通りて濡れぬ
《お日さん沈んで 侘しなり なんぼわしでも 泣けてきて 袖を濡らして 仕舞たんや》
―柿本人麻呂―(巻二・一三五)
青駒の 足掻を早み 雲居にそ 妹があたりを 過ぎて来にける
《馬の奴 足早いんや 早すぎて お前の家を 通り過ぎたで》
―柿本人麻呂―(巻二・一三六)
秋山に 落つる黄葉 しましくは な散り乱ひそ 妹があたり見む
《ちょっとの間 落ち葉散るのん 待ってんか お前の家が 見えへんよって》
―柿本人麻呂―(巻二・一三七)
寄る年波の旅
官務ゆえ 戻りはするが
天候 賊 病気
旅は いつでも 死の覚悟と共にある
それ故の 別離の悲しさ 辛さ
妻恋しさが 人麻呂を 離さない
<からの崎>へ
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