古の 人にわれあれや
ささなみの 故き京を 見れば悲しき
大津宮陥落の後 十数年が過ぎ
持統天皇の御代
父 天智天皇の供養にと 近江への行幸
高市黒人は 従賀の一員として 参じていた
人麻呂も 同行だ
〔当代一との 声望の歌人と 一緒だ
わしとて 歌詠みとして 立身の望みはある
人麻呂殿から 学ぶ 良い機会じゃ〕
帝のお召
人麻呂は詠うb
玉襷 畝火の山の 橿原の 日知の御代ゆ 生れましし 神のことごと 樛の木の いやつぎつぎに 天の下 知らしめししを・・・
《畝傍の山の 橿原の 神武の御代を 始めとし 引き継ぎ来る 大君の 治め給いし 都やに・・・》
―柿本人麻呂―〔巻一・二九の一部〕
神々しくも 朗々と
並ぶなき 声調 気魄
聞きいる者 すべて 黙し
人麻呂 一人の世界が 広がる
公の 歌奏上が済み 湖畔に佇む 影二つ
〔素晴らしい 歌謡でござった
人麻呂殿で無うては ああは行き申さぬ
わたくしめも 励みを重ね
少しでも 近づきとう存じます〕
〔いやいや 精一杯でござる
天皇を前にしての歌詠み
全身全霊での なせる仕業〕
人麻呂は 顎鬚を 撫ぜる
〔ところで 黒人殿
ここは 今は亡き 天智帝の旧都
鎮魂の歌 いかがかな〕
古の 人にわれあれや ささなみの 故き京を 見れば悲しき
《この古い 都見てたら 泣けてくる 古い時代の 自分やないのに》
―高市黒人―〔巻一・三二〕
ささなみの 国つ御神の 心さびて 荒れたる京 見れば悲しも
《ここの国 作った神さん 心萎え 京荒れてる 悲しいこっちゃ》
―高市黒人―〔巻一・三三〕
〔こやつ なかなかの歌詠み 心の迸りはないが 泌み泌みたるものを 秘めておるわい〕
人麻呂の心中 察する術無く
黒人に背に 冷汗が流れる
〔人麻呂殿に 披露するような歌か
競おうなどと 百年早いわ
弾ける魂が 欲しいものじゃ・・・〕
湖畔に 吹き下ろす 比良の風
黒人の 胸を 吹き抜ける
<大津京址>へ
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