【掲載日:平成21年7月28日】
東の 野に炎の 立つ見えて
かへり見すれば 月傾きぬ
【安騎野 東方全貌】

軽皇子は 十歳になっておられた
「もう 狩りにお出ましもの 年齢になられた」
「少し きついが 安騎野が よかろう」
「父君の 思い出の場所じゃ」
群臣の 意見まとまり 皇子は 安騎野へ
持統天皇七年(693)冬
(亡き草壁皇子の 狩りにも お供した あれから 十数年か)
人麻呂は しみじみと思う
やすみしし わが大王の 高照らす 日の皇子
神ながら 神さびせすと 太敷かす 京をおきて
《天皇の御子 皇子さん 立派に成長 しなさって 天皇治める 京出発ち》
隠口の 泊瀬の山は 真木立つ 荒山道を 石が根 禁樹おしなべ
《初瀬の山の 山道を 岩よじ登り 木を分けて》
坂鳥の 朝越えまして 玉かぎる 夕さりくれば
み雪降る 安騎の大野に 旗薄 小竹をおしなべ
草枕 旅宿りせす いにしへ思ひて
《朝越えなさり 夕方には 雪の降ってる 安騎野着き
ススキや竹を 敷きつめて 父君偲んで 旅宿り》
―柿本人麻呂―(巻一・四五)
阿騎の野に 宿る旅人 うちなびき 眠も寝らめやも いにしへ思ふに
《阿騎野まで 狩りに来たのに 昔来た 草壁皇子思い出し みな寝られへん》
―柿本人麻呂―(巻一・四六)
ま草刈る 荒野にはあれど 黄葉の 過ぎにし君が 形見とぞ来し
《ここ阿騎野 荒れ野やけども 草壁皇子さんが 儚うなった 追慕の場所や》
―柿本人麻呂―(巻一・四七)
東の 野に炎の 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ
《日が昇る 月沈んでく 西空に 草壁皇子の面影 浮かんで消える》
―柿本人麻呂―(巻一・四八)
日並の 皇子の命の 馬並めて 御猟立たしし 時は来向ふ
《今はない 草壁皇子が 馬並べ 狩に出たんも いまこの時分》
―柿本人麻呂―(巻一・四九)
軽皇子の成長をよそに 思うは草壁皇子のことばかり

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