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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

旅人編(6)わが手枕を

2009年11月05日 | 旅人編
【掲載日:平成21年11月11日】

うつくしき 人のきてし 敷拷しきたへ
             わが手枕たまくらを  纒く人あらめや

〔寂しさは 日に日につのると 他人ひとは言うたが
 まさに  その通りじゃ〕
葬儀の日から 旬日じゅんじつ
初七日も終え やっと 人心地ついた旅人たびと
ひしひしと迫る 寂寥感せきりょうかん
何を見ても  思い出すのは 郎女のこと
夕闇せまり もの影が おぼろになると 胸が痛い
眠るべく 延べた床は 身に冷たくみる

うつくしき 人のきてし 敷拷しきたへの わが手枕たまくらを  纒く人あらめや
可愛かいらしい お前が枕に して寝てた この手枕に 寝る人らん》
                         ―大伴旅人―〔巻三・四三八〕 

朝廷から  弔問の使者
悔みのたまわり物を持っての訪れ
もう  あれから 二か月
気は  取り戻したものの 
旅人に 昔日せきじつの覇気はない 
使者の 石上堅魚いそのかみのかつおは 気をかせた
「旅人殿  お役目は終わった
 折角の下向げこうじゃ 基山きやまの眺めを 望みたい
 どうじゃ 案内あないかなわぬかのう」

抜けるような  青空
遥かな眺めは 気宇きうを 荘大にし
筑紫の山々の緑が  目に沁みる
〔共に来て  よかったであろう〕
堅魚かつおは 旅人を思いやって うた

霍公鳥ほととぎす 鳴きとよもす の花の 共にやしと 問はましものを
霍公鳥ほととぎす 鳴いてるお前に 聞きたいな 卯の花咲くのと 同じに来たか》
                         ―石上堅魚いそのかみのかつを―〔巻八・一四七二〕

遥かを見やっていた  旅人
思い直したかに  応える

橘の 花散る里の 霍公鳥ほととぎす 片恋しつつ 鳴く日しそ多き
霍公鳥ほととぎす 散った橘 恋しいと 甲斐もないのに 鳴く日が多い》
                         ―大伴旅人―〔巻八・一四七三〕 

耳にした 「霍公鳥ほととぎす」を み込みはしたものの
旅人の心は  郎女から 離れられずにいた