風の音

葉をすっかり落とした高木の梢

どれも一斉にゆらゆらと北風に揺れている

電車の中から見入ってしまった

外ではどんな音がしているのだろう

子供の頃は森が近くにあって

木々がザアーと風にそよぐ音をふつうに聞いていた

赤松林や竹藪でも独特の風音が聞こえた

その音は本当は風の音ではなく

風と木々が作る音なのだけど

風の音だと思っていた

まだテレビのない時代で

ラジオでは風が吹いている音を表す機械などもあったが

あの音は自分の知っている風の音とは違うと思っていた

だが台風がやってきたとき

庭の向こうの森がそんな音を出した

風が音を作るのは梢だけではなかった

それを中野の二万円のレトロな家で思いだした

窓はアルミサッシなどではなく、木枠にガラスがはめられており

年月を経て隙間ができているので

風が吹く度にガラスが傾いて

カッターン、カッターンと揺れて音を出した

子供時代に日常で聞いていた懐かしい音忘れていた音

だった

電車の外の高木の梢ではどんな音が出ているのだろう