菊菜

京都に八年も住んでいながら

そのときは菊菜と春菊の違いを知らなかった

というより菊菜という名を知らなかった

東京に戻ってから旅行として京都のお正月を楽しんだ

キッチン付の宿に高校の恩師といっしょに泊まり

あろうことか大晦日の錦(市場)に恩師に買い物に行ってもらった

私がさも買い出しをいやそうにしていて

先生は「私がいってきましょうか」と言いだされた

お正月に必要なものを紙に書いて渡すと

先生は大分たってから食料を抱えて戻ってこられた

「これねえ、春菊っていうと店の人が京都ではこれが春菊なんですって」

といって差し出されたのは

葉っぱが根元いっかしょから集中して生えている野菜だった

今では東京でも珍しくなくなった菊菜だが

それまでは春菊といえば真ん中に軸があってそれから上昇するように葉が点々と生えていた

あのときの楽しかったお正月を思い出すと涙がこぼれる

先生はもう旅行がおできにならないから

今夜の献立

菊菜と焼き椎茸の柚子醤油お浸し、温奴、蕪の味噌汁、鹿児島うるめ干し、魚沼産コシヒカリご飯