運動会

「土曜日お時間ありますか」

料理塾の生徒のイトウちゃんが私に尋ねた

「は？はい」
「その日うちの子の運動会なんですよ」

私の頭の中は
イトウちゃんの子供の運動会を見に行く場面が浮かんだ

「それで大変厚かましいお願いなのですか」
来たー

「先生にお弁当作っていただけないでしょうか」
なーんだ
「喜んで」

だってまだ半年しかクラスに来ていないイトウちゃんが
私の料理でいいと認めてくれたんだから

私は自分の息子の運動会のお弁当を作ったことはない
フランスの学校にはそのような軍国主義的行事はない
いいや、運動会の経験はある
日本の保育園で
その日のみじめな話は今ここに書く勇気がない
とにかく私はお弁当を作らなかった

でも私の母は私のために
歌舞伎の観劇と同じくらい念を入れた
お重のお弁当を作っていた

イトウちゃんはお仕事してる人で
その朝も学校の用事で七時から出かけるのだとか

ようがっすよ
やってみますね

でお弁当箱だけは届きました

実はイトウちゃんとこはうちの斜め前のマンション
もしかしたら私の料理が認められたんじゃなくて…