NGNのIPv6接続の約款変更をめぐってISPとNTTがもめている。問題の焦点はNGNでのIPv6アドレスの払い出し方をめぐる、所謂「マルチプレフィックス問題」に関してだ。NTTからの約款変更の変更申請に対して、ISPや他のキャリアなどが「ケチ」をつけるという、まぁ、いつもの構図といえば構図。とはいえ、今回の約款変更の申請案は「最悪」の選択だと言っていい。
NGNのIPv6接続の約款変更案に対する再意見が公開,NTT東西が徹底反論 - ニュース:ITpro
そもそもこのIPv6マルチプレフィックス問題とは何かというと、IPv4アドレスの枯渇に伴い、IPアドレスをIPv6アドレスに切り替えていかねばならないのだけれど、その払い出しをNGN網とISPの両方から払い出すことによって(つまり端末に複数のIPv6アドレスが払い出されることによって)、経路情報やサービスの提供に支障が発生する問題のこと。
以前、IPv6を使ったサービスの検討を行っていたこともあって、その当時からこの「マルチプレフィックス問題」は存在していたのだけれど、その当時はあまり注目されていなかった。というか、これが大きな問題となることに対する認識が弱かったのだろう。事実、その当時検討していたメンバーの中には、NGNから払い出されるIPv6アドレスは「プライベートアドレス」だと思っているものもいたし、技術屋を自認する課長なんかも「ふ~ん、それのどこが問題なの?」くらいのものだった。勘がいい人間じゃないと気にしていなかったのだ。
しかしこの問題はここに来て急に現れた問題ではない。NGNでIPv6アドレスを割り当てることは以前から話題として出ていたのだし、それに先立つフレッツ網や光プレミアム網(NTT西日本エリアのみ)では数年前からIPv6アドレスが割り当てられていたのだから。
つまりフレッツ網でのIPv6アドレスの払い出しが許可された時点でこの問題が起きる可能性は「分かっていた」のであり、つまり総務省やIPNICの戦略性のなさ以外のなにものでもない問題なのだ。
現在、IPアドレスを提供しているISPが、IPv6も提供していきたいというのはわかりやすいだろう。ではNTTは何故、NGNでIPv6アドレスを提供しようというのだろうか。
そもそもIPv6化というのは技術面の話だけではなく、その豊富なアドレス空間から、ネットワークに接続される全ての機器に対して一意のアドレスを提供し様々なサービスを提供しやすくしようという政治的な色合いが濃い施策であった。
これに対してNTTは家庭にまでひいているFTTH(光ケーブル)の利用用途を、PCからのインターネット接続のためだけではなく、様々な端末からの「通信」のために利用したいと考えおり、例えば「ひかりTV」や「ひかパー」「フレッツテレビ」は「光」を使って「TV」に放送を再送信するものだし、「光LINK」シリーズではフォトフレームや一種のホームサーバ(どうみてもEeeBOXだけど)を提供したりしている。IPv6化の狙いとNTTのリビングネットワーク戦略とは合致するのだ。
それだけではない。
電話端末の開放(各メーカーが電話機を販売できる)があったとはいえ、電話番号の配布やUNIの仕様の決定権を持つことで事実上、垂直統合的なサービスが提供できた「固定電話」系のサービスに比べ、あるいはimodeのように日本最大のISP兼キャリアとして垂直統合モデルを築いたDoCoMoに比べて、IPサービスに関してNTTは完全に「土管」になってしまった。「土管」は土管でしかない。一定の収益基盤は築けるものの、新しい収益源を獲得するというのは難しい。
NTTにとっては、NGNで「土管」からプラットフォーマーへと巻き返すために、ユーザー側端末を認証するための符号(=IPv6アドレス)が必要だったのだ。NGN網側でセキュリティやQoS、課金認証などなどの機能を提供するために、あるいはSNI事業者がサービスを提供しやすくするために…。もっとも本当にNTTの人間がそれだけの戦略性をもってフレッツ網/NGN網でのIPv6アドレスの配布権を獲得しようとしていたのかは微妙なところだが。
で、結局どのような形で「申請」したのかというと、「トンネリング方式」と「ネイティブ方式」の併用だ。
トンネリング方式:現行のIPv4インターネット接続と同様の方式で、NGN用のIPv6アドレスとISPから払い出されるIPv6アドレスが並存する。それを制御するためにIPv6NAT機能を備えたアダプタを新たに設置する必要がある。
ネイティブ方式:最大3社の代表ISPが一元的にIPv6アドレスを管理し、NTTがそれを預かった上で払い出す方式。ユーザー側にはインターネット接続にしろ、NGNに閉じた通信にしろ一意のアドレス体系でサービスを受けることが可能になる。代表ISP以外はローミングによる接続でサービスを提供することになる。
詳しくはITproの記事を読んでもらうとして、何故、最悪だといっているかというと、トンネリング方式を並存させるということは、もともとIPv6アドレスで考えられていたような、全ての通信機器に固有のアドレスで管理するということができなくなるからだ。
全ての通信機器を一意のアドレス体系で管理すること。それはこれまでのサービスのあり方を一変する可能性を秘めている。自宅にルータを設置しNATでプライベートアドレスを割り当てるといった形では、操作性や設定のわずらわしさなどの問題もあり、ネットワークに接続される端末というのには限界があるだろう。これがv6アドレスが自動的に割り当てられ通信できる環境が整うとなると、それこさそ白物家電など「設定画面」をもたないような端末でも通信端末化させることが可能となる。あらゆる家電がネットに接続され携帯やPCからコントロールされる、あるいはネットワーク越しにサービスやサポートを受けることが可能になる。PCの世界に閉じない「クラウド」や「ネットワークサービス」を受けることが可能になるのだ。
今のISPや他のキャリアからの指摘というのは、あくまで今の自分たちのビジネスが脅かされることからの反論に過ぎない。代表ISPに独占されて自分たちが生き残れないのではないか、自分たちが「土管」になってしまうのではないか、アダプタの費用負担を行いたくないからNTTに負担させよう…などなど。そこにはより大きな視点での戦略性などない。
ユーザーにとっての視点(C)、様々なサービスを提供していくであろう企業側の視点(B)、つまりISPや通信キャリアといったインフラを提供する側の視点ではなく、より上位レイヤーに存在するステークホルダーの視点(B2C、B2B)で考えるとき、社会全体の情報流通・ICTを促進することの方が望ましいはず。それがNTTによるアドレス管理なのか、代表ISPなのか、JPNICのような団体によるものなのかは別問題だ。
NGNあるいは今後の「クラウド社会」を実現するための社会基盤設計という観点から「IPv6マルチプレフィックス問題」は考えるべきなのだ。
NTT東西がIPv6インターネットに向けた接続約款の変更を申請 - ニュース:ITpro
NGNとISPの相互接続、2方式の長所短所?インターネット-最新ニュース:IT-PLUS
NGNは「ガラパゴス」以前に「無人島」 - ビールを飲みながら考えてみた…
NGNのIPv6接続の約款変更案に対する再意見が公開,NTT東西が徹底反論 - ニュース:ITpro
そもそもこのIPv6マルチプレフィックス問題とは何かというと、IPv4アドレスの枯渇に伴い、IPアドレスをIPv6アドレスに切り替えていかねばならないのだけれど、その払い出しをNGN網とISPの両方から払い出すことによって(つまり端末に複数のIPv6アドレスが払い出されることによって)、経路情報やサービスの提供に支障が発生する問題のこと。
以前、IPv6を使ったサービスの検討を行っていたこともあって、その当時からこの「マルチプレフィックス問題」は存在していたのだけれど、その当時はあまり注目されていなかった。というか、これが大きな問題となることに対する認識が弱かったのだろう。事実、その当時検討していたメンバーの中には、NGNから払い出されるIPv6アドレスは「プライベートアドレス」だと思っているものもいたし、技術屋を自認する課長なんかも「ふ~ん、それのどこが問題なの?」くらいのものだった。勘がいい人間じゃないと気にしていなかったのだ。
しかしこの問題はここに来て急に現れた問題ではない。NGNでIPv6アドレスを割り当てることは以前から話題として出ていたのだし、それに先立つフレッツ網や光プレミアム網(NTT西日本エリアのみ)では数年前からIPv6アドレスが割り当てられていたのだから。
つまりフレッツ網でのIPv6アドレスの払い出しが許可された時点でこの問題が起きる可能性は「分かっていた」のであり、つまり総務省やIPNICの戦略性のなさ以外のなにものでもない問題なのだ。
現在、IPアドレスを提供しているISPが、IPv6も提供していきたいというのはわかりやすいだろう。ではNTTは何故、NGNでIPv6アドレスを提供しようというのだろうか。
そもそもIPv6化というのは技術面の話だけではなく、その豊富なアドレス空間から、ネットワークに接続される全ての機器に対して一意のアドレスを提供し様々なサービスを提供しやすくしようという政治的な色合いが濃い施策であった。
これに対してNTTは家庭にまでひいているFTTH(光ケーブル)の利用用途を、PCからのインターネット接続のためだけではなく、様々な端末からの「通信」のために利用したいと考えおり、例えば「ひかりTV」や「ひかパー」「フレッツテレビ」は「光」を使って「TV」に放送を再送信するものだし、「光LINK」シリーズではフォトフレームや一種のホームサーバ(どうみてもEeeBOXだけど)を提供したりしている。IPv6化の狙いとNTTのリビングネットワーク戦略とは合致するのだ。
それだけではない。
電話端末の開放(各メーカーが電話機を販売できる)があったとはいえ、電話番号の配布やUNIの仕様の決定権を持つことで事実上、垂直統合的なサービスが提供できた「固定電話」系のサービスに比べ、あるいはimodeのように日本最大のISP兼キャリアとして垂直統合モデルを築いたDoCoMoに比べて、IPサービスに関してNTTは完全に「土管」になってしまった。「土管」は土管でしかない。一定の収益基盤は築けるものの、新しい収益源を獲得するというのは難しい。
NTTにとっては、NGNで「土管」からプラットフォーマーへと巻き返すために、ユーザー側端末を認証するための符号(=IPv6アドレス)が必要だったのだ。NGN網側でセキュリティやQoS、課金認証などなどの機能を提供するために、あるいはSNI事業者がサービスを提供しやすくするために…。もっとも本当にNTTの人間がそれだけの戦略性をもってフレッツ網/NGN網でのIPv6アドレスの配布権を獲得しようとしていたのかは微妙なところだが。
で、結局どのような形で「申請」したのかというと、「トンネリング方式」と「ネイティブ方式」の併用だ。
トンネリング方式:現行のIPv4インターネット接続と同様の方式で、NGN用のIPv6アドレスとISPから払い出されるIPv6アドレスが並存する。それを制御するためにIPv6NAT機能を備えたアダプタを新たに設置する必要がある。
ネイティブ方式:最大3社の代表ISPが一元的にIPv6アドレスを管理し、NTTがそれを預かった上で払い出す方式。ユーザー側にはインターネット接続にしろ、NGNに閉じた通信にしろ一意のアドレス体系でサービスを受けることが可能になる。代表ISP以外はローミングによる接続でサービスを提供することになる。
詳しくはITproの記事を読んでもらうとして、何故、最悪だといっているかというと、トンネリング方式を並存させるということは、もともとIPv6アドレスで考えられていたような、全ての通信機器に固有のアドレスで管理するということができなくなるからだ。
全ての通信機器を一意のアドレス体系で管理すること。それはこれまでのサービスのあり方を一変する可能性を秘めている。自宅にルータを設置しNATでプライベートアドレスを割り当てるといった形では、操作性や設定のわずらわしさなどの問題もあり、ネットワークに接続される端末というのには限界があるだろう。これがv6アドレスが自動的に割り当てられ通信できる環境が整うとなると、それこさそ白物家電など「設定画面」をもたないような端末でも通信端末化させることが可能となる。あらゆる家電がネットに接続され携帯やPCからコントロールされる、あるいはネットワーク越しにサービスやサポートを受けることが可能になる。PCの世界に閉じない「クラウド」や「ネットワークサービス」を受けることが可能になるのだ。
今のISPや他のキャリアからの指摘というのは、あくまで今の自分たちのビジネスが脅かされることからの反論に過ぎない。代表ISPに独占されて自分たちが生き残れないのではないか、自分たちが「土管」になってしまうのではないか、アダプタの費用負担を行いたくないからNTTに負担させよう…などなど。そこにはより大きな視点での戦略性などない。
ユーザーにとっての視点(C)、様々なサービスを提供していくであろう企業側の視点(B)、つまりISPや通信キャリアといったインフラを提供する側の視点ではなく、より上位レイヤーに存在するステークホルダーの視点(B2C、B2B)で考えるとき、社会全体の情報流通・ICTを促進することの方が望ましいはず。それがNTTによるアドレス管理なのか、代表ISPなのか、JPNICのような団体によるものなのかは別問題だ。
NGNあるいは今後の「クラウド社会」を実現するための社会基盤設計という観点から「IPv6マルチプレフィックス問題」は考えるべきなのだ。
NTT東西がIPv6インターネットに向けた接続約款の変更を申請 - ニュース:ITpro
NGNとISPの相互接続、2方式の長所短所?インターネット-最新ニュース:IT-PLUS
NGNは「ガラパゴス」以前に「無人島」 - ビールを飲みながら考えてみた…
では、次の記事を楽しみにしています。
ただPF機能や網側で提供するサービス、IPv6ならではの機能が他のNGNユーザーも提供されるのかは微妙ですね。結局、ネットワークなんて繋がってなんぼなので、中途半端な網間接続なら、インターネット上で制御するよ、というのがキャリア以外の意見でしょうね。