文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:秘太刀 馬の骨

2015-02-23 22:55:02 | 書評:小説(その他)
秘太刀馬の骨 (文春文庫)
クリエーター情報なし
文藝春秋


 何とも怪しげなタイトルに、いったいどんな技なんだと、却って興味が湧く、藤沢周平の時代小説、「秘太刀 馬の骨」(文春文庫)。以前、ジョナサン・キャロルのダーク・ファンタジー、「月の骨」を読んだ後、冗談半分で、まさか「馬の骨」なんてタイトルはないだろうなと思って、検索してみたら・・・「あった!」(笑)。それが、先日、近所の書店(新刊も古書も扱っている)の200円コーナーに置いてあったので、「タイトルはヘンだが、藤沢周平だしな」、外れはないだろうということで買ってみた。

 タイトルはヘンだが(しつこい!)、読んでみると、これがなかなか面白い。主人公は、近習頭取の浅沼半十郎という某藩の武士。藩名は分からないが、藩主は播磨守だそうだ。しかし、このころの○○守というのは、実際に治めている場所とは関係がないので、参考にはならない。作品の記述からは、どうも北国に位置しているようだ。彼は、130石取りというから、一応は上級武士に当たるだろう。人間が集まれば、派閥が生まれるものだ。この藩にも、2つの派閥があり、彼はそのうちのひとつで、家老の小出帯刀の率いる一派に属している。

 ある日、半十郎は、派閥の親分である帯刀に呼ばれる。甥の石橋銀次郎が「馬の骨」の使い手を探索するのに手を貸せというのだ。「馬の骨」とは、6年前、派閥の前盟主であった望月四郎右街門隆英の暗殺に使われたらしい技だ。そして、「馬の骨」とは、藩内にある矢野道場に伝わる秘太刀らしい。しかし、矢野道場の現当主である矢野藤蔵を初め、5人の高弟たちも、確かに先代まではそのような技はあったが、誰も伝授された者はないと言う。

 本書は、そのタイトルからも想像がつくように、基本的にはチャンバラ小説である。ひとつの見どころは、矢野道場の面々が、本当に「馬の骨」を伝えられていないか、銀次郎が実際に立ち会ってみて調べるというところだろう。他流試合はしないという矢野道場の面々に、銀次郎は、相手の弱みを探り出し、秘密を守る代わりに立ち会わせるというあまり褒められたものではない方法を使っている。

 しかし、銀次郎が、相当の悪党なのかと言えば、案外とそうでもないようだ。嫁に逃げられてしょぼくれている長坂権平などには、結局二人の仲を取り持つような結果になっているのだから。おまけに、立ち会っても、やられて大怪我をすることの方が多い。懲りない御仁である。一方、銀次郎の伯父の帯刀の方は、かなり腹黒い。藩主との確執もあり、何か腹に一物を持っている。

 この作品は、「馬の骨」を伝承しているのは誰かということと、帯刀が「馬の骨」の使い手を探させる裏には何があるのかという、二つのミステリー的な要素を含んでいる。チャンバラの場面を楽しむだけでなく、こういったことも考えながら読んでいくと、面白さは倍増することだろう。

 ところで、「馬の骨」の伝承者の正体。覆面をしていたので、顔は見えなかったのだが、居合わせた半十郎たちには、ある人物が正体として浮かぶ。実際にその人物の名前も出てくるのだが、それが一番妥当な解釈だろう。ところが、これについて、巻末の解説を書いている出久根達郎氏は、エピローグに描かれたエピソードを根拠に、異論を唱えている。私はこれに与しない。なぜなら、「馬の骨」は矢野道場に伝わっている流派であることは、作品の中で明確にされている。しかし、出久根氏の示唆する人物は、長谷という小太刀の道場に通っていたとあるのだ。まず流派が違う。他流派の人間に「秘太刀」を授けることなど、まずあり得ないだろう。おまけに、その人物はずっと気鬱の病にかかっていたのである。作品に描かれているような行動を取ることは難しいと思う。

 結局、最後のエピソードは、作品に一抹の明るさを残したかったから入れられたのではないだろうか。同様のことは、例えば、「隠し剣 秋風抄」に収録され、映画「武士の一部」の原作にもなった「盲目剣谺返し」のラストでも行われているではないか。もっとも、作品の解釈は色々。読者が、それぞれの解釈をしても良いと思うのだが。

☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。


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2 コメント

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馬の骨 (マッピー)
2015-02-24 00:30:54
この小説、以前NHKでドラマ化されていましたよ。
ドラマは見ていないのですが、タイトルがヘンなのでおぼえていました。
実際の奥義はどんなものだったのか、今さらながら興味がわいてきました。
なにせ「馬の骨」ですからね。
どんなのだったんだろう?
Re:マッピーさん (風竜胆)
2015-02-24 07:07:29
>NHKでドラマ化
そうなんですか?それは、ちょっと視てみたかったですね。
やはり、文章で読むのと、映像で視るのはだいぶ違うでしょうから。
このタイトル、ほんと興味がわくようなタイトルですね。

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