文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:夢にも思わない

2013-11-14 06:00:00 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
夢にも思わない (角川文庫)
クリエーター情報なし
角川書店


 宮部みゆきによる「今夜は眠れない」(リンク先は「本の宇宙」)の続編に当たる「夢にも思わない」(角川文庫)。主人公の緒方くんは、東京の下町に住む13歳の中学生。同じクラスのクドウさんという可愛らしい娘が大好きで、彼女目当てで、白川庭園で行われる虫聞きの会に出かける。ところが、そこで殺人事件が起きる。最初はクドウさんが殺されたとショックを受けた緒方くんだったが、殺されていたのは、クドウさんによく似た従姉の森田亜紀子という少女だった。この作品は、緒方くんが、親友の島崎といっしょに、事件の真相を追究するという、言うなれば、一種の少年探偵ものである。

 事件の裏には、亜紀子の哀しい人生があった。義理の父親と上手くいかず、どこにも居場所がなかった彼女。そこが自分の居場所だと勘違いしたのが、違法な少女売春組織だ。自分に比べて、幸せに暮らす従妹のクドウさんを、同じ境遇に引きずり降ろそうとする暗い暗い情念。いっしょに抜け出そうとした男の心も亜紀子には届かなかった。彼女の短い人生は、ただ哀れとしか形容しようがない。

 可愛くって幸せなクドウさんと、身を持ち崩してしまい、従妹の光をうらやみ、妬んだ亜紀子。あまりにも対称的な二人の境遇。しかし、さすがは宮部みゆき。ここに一ひねり加えている。緒方くんが気付いてしまった、クドウさんの心の奥底にある黒い部分。 彼の健全な中学生らしい純粋さは、それを見過ごせなかった。それは、緒方くんには辛い、恋の終わりでもあったのだ。

 思春期に体験した、あまりにも非日常的な体験。しかし、この出来事は、緒方くんにとって、大きな成長の糧になるだろう。それにしても親友の島崎くん、中学生なのに賢すぎるような気が・・・。

☆☆☆☆

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。
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