夜のフロスト (創元推理文庫) | |
クリエーター情報なし | |
東京創元社 |
イギリスきっての名探偵と言えば、なんといってもシャーロックホームズだが、もう一人気になる人物を見つけた。それが、R・D・ウィングフィールドの描く、デントン警察署のフロスト警部だ。しかし、彼を名探偵と言って良いものかどうか・・・。
その人物像は、かなり面白い。かなり後退した頭髪に、くたびれてよれよれの服装。押収品はくすねるわ、経費の領収書は偽造するわ、取り調べでは容疑者者を平気で騙すわと、びっくりするようないいかげんさなのだ。おまけに、下品な下ネタジョークの連発。しかし、なぜか勲章持ちで、それが時にフロストを救うことになる。論理よりは、勘で動くタイプであり、他の名探偵のように、整然とした推理を展開してくれる訳でもない。しかし、とても人間臭い、不思議な魅力を持っている。
本作、「夜のフロスト」(東京創元社)では、流感で署員の欠勤が相次いでいるのに、連続老女殺害事件、少女誘拐殺人事件など、これでもかというくらい、次から次に、重大事件が連続し、皆がアップアップの状態だ。やっと容疑者を確保したと思ったら、出てくるのは、まったく別の犯罪で、人員不足の中、現場は疲労困憊。
ところが、デントン警察署の署長というのが自分の点数稼ぎばかりするような人物。無能なくせに、威張りちらすわ、権力者にはおべっかはつかうわで、管理者としては失格。もちろん人望はない。しかし、これがフロストと対比を成して、彼の魅力を引き出す効果を上げている。
いいかげんだが、人間臭くて、自分の点数には拘らないフロストは、署員の間では、意外に人気があるようだ。偽造がばれて突き返された経費の領収書を、署員が総出でフロストのために偽造し直しているシーンはなんとも笑える(良い子は、絶対に真似をしてはいけませんよ)。
ところで、この作品ではフロストと組まされることになったギルモア。部長刑事に昇進したばかりで、放っの強い青二才だが、きっとフロストに振り回されているうちに、刑事としての大切なものを掴むのだろうと思っていたがさにあらん。あまりの激務ぶりのため、嫁が自分にかまってもらえないことに起こって家出してしまい散々だ。でも、あまりめげているようにも見えず、自由を謳歌しているようだ。もしかすると、彼もだんだんとフロストのようになっていくのだろうか。
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※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。