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「月魚」 三浦しをん 角川文庫

2021-09-17 | 読書
三浦しをんさんのデビュー作、「格闘する君に〇」に続く二作目の「月魚」を読んだ。
この作品が若いからというわけでもないだろうし、決めつけるのも失礼だ。こみいったストーリーでもなく楽しんで読める。

感情描写も、風景描写の瑞々しさも新鮮でとても美しい、何度読み返してもいいような気がする。後味もいい。
これも持ち味の一つかもしれない。
一度読んで好きになっていたので。「2021カドフェス」で再読。


「無窮堂」の若い店主、本田真志喜24歳、祖父から受け継いだ店を守っているが、本来の本好きで不満もない。少し色素の薄い(白皙の)美青年。
祖父の本田翁は古書の業界で力があり尊敬もされている。
店を持たず、仕入れた古書をセリに出して利ザヤを稼ぐ「せどりや」でやくざまがいの父親を持つ瀬名垣太一25歳。上背もあり多少荒い気性もある偉丈夫。見立ても天才的な古書屋。
やくざだが父親は目端がきいて才能があるのを翁は見抜いて可愛がり、太一も子供の頃から真志喜の遊び相手で一緒に育つ。

だが瀬名垣は二人で遊んでいるとき「無窮堂」の捨てようとした本の中から、日本に一冊しか残っていないという稀覯本を見つける。
これで父は「せどり」から抜けられる。
だが父は恩ある「無窮堂」の物だと頑として受けとらなかった。その目を持ったことを喜べと言った。

振り向くと真志喜の父の姿がなかった。

その時から真志喜の父親を追い出したという瀬名垣の罪の意識が重く背中にとりついた。

真志喜は屈託がなく瀬名垣が来るのを待っていた。そして瀬名垣と真志喜は古書好きというほかは全く違っていたが、それがなぜか微妙な禁忌の雰囲気を纏って大人になった。

山奥の素封家の主人が無くなり残った書籍を処分したいという。瀬名垣は真志喜とともに出かけて行った。土蔵の二階は専門書の書棚があったが、先妻の子供は売らずに図書館に寄付するのを望んでいた。だが若い後妻は頑として譲らず、瀬名垣たちは整理にかかった。そこにもめ事の折衷案として町からもう一軒の古書店を呼んだ。それは行方不明だった真志喜の父親だった。やはり「黄塵庵」という古書店を開いていた。

しかし出会った二人はもうすっかり他人だとお互いに実感した。
長い道のりをポンコツのトラックはあえぎあえぎ帰ってきた。

買い付けの旅から1か月後
瀬名垣が来た。
店を持つという、「開店祝いにあのトラックをやる」「いらん」


稀覯本「獄記」を見つけ出した時から世間に出ることを拒んできた瀬名垣は、店をもって人と交わろうと思った。
あの夏の日から真志喜は瀬名垣の傍にずっといたのだから。


甘い甘い、が、めでたい快い締めだ。うっすらと官能的。古書の流通の様もうっすらと。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 


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