10年ほど前に大河ドラマで放送されていたのを始めて知った。やはりNHKは豪華キャストで、顔ぶれをしみじみ見てしまった。
父が高知の生まれで、曽祖父が盆暮れの挨拶に侍屋敷(武家屋敷)に行っていたと聞かされていたそうで、祖父は庭になっていた「うちむらさき」(文旦)を貰って帰ってくるのが楽しみだったという話をきいた。上士に仕えた下級武士だったようで、私も高知で生まれた。祖父が絵本を読んでくれたことを覚えているが、私が物心ついた頃になくなったそうだ。母の話では刀剣類があったが戦時中に武器になったといっていた。美しい糸かがりの鞠や人形があった。父が遅く生まれた一人っ子で高知にいる父方の親戚は少なくなった。
そんなことで、この本を読んでみることにした。
ぼろを着てやせ馬に乗った一豊のところに千代という美しい嫁が来た。父が討ち死にしたので叔母の元で育ったが、可愛がられ叔父が持参金として大金の10両をくれた。
鏡の裏に隠していたのは有名な話で、千代は純朴な一豊に功名を立て、出世して一国一条の主になることを約束させた。目端の聞く千代はそれとなく信長に仕官することを勧め、そこで秀吉に目をかけられるようになる。
合戦で手柄を立て次第に家禄も増えてくる、不相応に家臣を雇ったので生活は苦しかったが、千代はそれとなく誉め、自信を持たせる。一豊も千代にのせられているように思うが、何事もそつなくこなす千代を信頼している。
二人の郎党、五藤吉兵衛と祖父江新右衛門の働きも、一豊の人柄を認めて親身になっている。時に導き、助けていく。
伊賀者の忍者が住み着くところも面白い。
安土城を築城することになり、そこで「馬ぞろえ」をすると言う。一豊の老馬はいかにも情けない、千代は鏡の裏からヘソクリを出して、馬市で家臣が手を出せない名馬を買う。一豊は信長の前で大いに面目を施し、評判が上がる。
一巻はここまで。
愉快な話だった、戦国大名の駆け引きや戦いで滅びた名将の話ではなく、実際に土佐42万石の主になっていく話は面白い。もちろん内助の功が今でも伝えられる千代の優しいほのめかしや、励ましが、こううまくいくというのは並みの人ではなかったのだと思う。またそれを信じて奮起する一豊も頼もしい。良妻賢母の鑑といわれるが、戦うサラリ-マンを夫にしてもなかなか真似は出来ないだろう。
司馬さんが今に残る遺品や、歴史の背景など挟みながら、講談のような言葉使いで書いてある、愉快な展開も気持ちよく速い。