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生活保護と後発医薬品
その1
ジェネリック医薬品:生活保護者に安価薬 「違反者」割り出し徹底 生活保護受給者に対してジェネリック(後発)医薬品の使用を事実上強制する通知を厚生労働省が自治体に出していることが明らかになった。背景に医療費抑制を迫られる“国の懐事情”があり、通知書でも「後発医薬品は安く」「医療保険財政の改善の観点から」など、お金にかかわる文言が並ぶ。一方、指導に従わない生活保護者を割り出すため、薬局に1枚100円の手数料を払ってまで処方せんを入手するとしており、なりふり構わぬ様子がうかがえる。 |
生活保護受給者を他から切り分けて、後発医薬品を使えという厚労省の指示をもちろん私は強く批判する。けれど、生活保護受給者は権利の上でも他とは区別されるべきだという意見も少なくないように思える。
「生活保護を受けるのなら、受けない人と同じ権利は得られないのは当然」という、いただいたコメントは極論だともいえそうだが、しかし、厚労省の思惑、つまり生活保護受給者は後発医薬品でよいという立場への支持も潜在的にあるということだ。
このエントリーで、以下のとおりコメントへ応答しておきたい。
====
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する |
と憲法25条にあるとおり、すべての国民、つまりだれでも「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」をもっています。
健康で、文化的な、最低限度の生活が保障されていると解してよいでしょう。
一方で、生活保護法は、「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障する」と定めていますね。
だから、最低限度の生活はひとしく保障されるということでしょう。
ならば、医療を受ける権利もひとしく保障されなければなりません。誤解のないようにかさねていえば、(医療を)「受ける権利」はだれであろうと、権利としては同じで、権利の大小なんてない。
医療というものが現物で給付される日本では、受ける人がだれであろうと同じものでなければなりません。医療行為が、生活保護受給者にはこれであって、そうでない人にはこれとはちがうあれであってはならないのです。
厚労省がやろうとしていることは、まさにあれとはちがうこれを生活保護者に限って実施しようというものでしょう。私が差別だというのはこの点です。
最低限度(の生活)という言葉へのこだわりを、いただいたコメントから、私は率直にいって受け取るわけです。
医師の診断にもとづき病名が決まり、処方内容も決定される。診療の内容も確定する。処方内容や診療内容が、生活保護受給者か否かで決まるわけではない。
ましてや医師はすべて先発品でないといけないともいってないでしょうし、後発品を使うのは生活保護(受給者)のみともいってはいないでしょう。
後発医療品を使う事イコール、弱者切捨てではありません。 |
「後発医療品を使う事イコール、弱者切捨て」なんて誰もいってないわけですね。
診断が同じであるのに、医療の内容を生活保護受給者とそうでない人とを峻別しようとする厚労省の意図を批判しているのです。
安く済む医薬品を、高い医薬品にした事による差は、誰かが負担している |
負担するという意味では患者以外にはないでしょう。そして負担のない生活保護者分はつきつめれば税金ということになるでしょう。
むしろいいたいのは、医薬品で必要以上にもうかるしくみが厳然としてあることです。先発品を開発するのは大製薬メーカーですから、彼らは膨大な利益をあげている。そのしくみにメスをいれるべき。あわせて多大な利益をあげているのですから、応分の負担をもとめなければなりません。社会保障を社会保障として成り立たせていく上でも。
====
日本では、働いてはいても、生活保護水準以下の所得の人びと、ワーキングプアの存在が広く知られるようになった。数百万ともいわれるこれらの人びとは、もっとも手をさしのべられるべき対象である。生活保護受給者は権利の上でも他とは区別されるという一つの考え方、立場は、ワーキングプアの存在をどう解釈し、今回の後発医薬品でワーキングプアをどのように位置づけるのか。
だれかが、だれかの分を負担することを認めるか否かは、つまるところ社会保障や所得再分配の是非に通底する。
所得の多い人から低い人へ垂直的に分配するという考えが前提にあって、社会保障もはじめて成り立つ。
大企業には開発にかかわる優遇税制もあって、税制上、幾重にも優遇されている。が、その意味でも、たとえば製薬大企業に応分の負担を求めることは、すぐにでもやらないといけない政府の仕事ではないか。
その2
いくつかの点についてここでふれておく。
後発医薬品は、一般的に開発費用が安く抑えられることから、先発医薬品に比べて薬価が低くなっており、政府においては患者負担の軽減や医療保険財政の改善の観点から後発医薬品の使用促進を進めているところである。 被保険者については、通常医療に係る患者負担が発生しないことから、被保護者本人には後発医薬品を選択するインセンティブが働きにくい状況であるため、必要最低限の保障を行うという生活保護の趣旨目的にかんがみ、被保護者に対して、医学的理由がある場合を除き後発医薬品の使用を求めるものとする医療扶助における後発医薬品の取扱いを定めた |
このように今回、厚労省がとる措置の位置づけを厚労省自身はのべている。
後発医薬品の使用促進を厚労省がかかげてきたのは周知の事実だが、思惑どおりにはすすんでいない。
上の文でいおうとしているのは、費用負担のない生活保護だから、後発品を使おうという指向が働かない。したがって、厚労省が「医療扶助における後発医薬品の取扱い」を定め、後発品に切り替えていくというものだ。
具体的にどのように取り組んでいくのか、つぎのように厚労省はその方向を示している。
その対応は、福祉事務所にむけた対応と、医療機関および薬局にたいする協力依頼、とに区分されている。
ここで、推測されるのは以下の点である。
第一に、福祉事務所にたいする指示によって、厚労省の意図する方向への管理強化。福祉事務所への指導を強化することによって、生活保護受給者は萎縮することになるだろう。通常、受給者が頑なに先発医薬品を使えと希望することなどほとんどないと思うし、受給者は福祉事務所の態度を過剰に意識しないといけないような立場にある。
福祉事務所にたいしては、つぎの点で周知徹底を図るよう求めている。
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第二に、厚労省は、医師および薬剤師にも「協力」をよびかけている。さすがに、厚労省は医師や薬剤師の業務に直接的に介入しようとは文章上は明記していない。処方するのは医師だからである。処方に基づき、医薬品を出すのは薬剤師だからである。だから「協力」なのであって、それは、むろん福祉事務所や生活保護受給者への言い回しとも異なり、一方での高圧的態度はここでは垣間見ることもできない。
あくまでも「協力依頼」にすぎない。いいかえると、後発品の使用を半ば義務づけるような、強い姿勢を表明し、生活保護費を削減しようという厚労省の立場も勘案して、協力してほしい、協力せよというものだ。
裏を返せば、医師法や薬事法に則っていれば、医師のいかなる処方にたいしても介入できないのだ。
先発医薬品を使っている受給者は誰かということまで報告させるという今回の措置は、歯車が狂っていて、端的にいえば弱い者をたたこうとするもっとも卑怯な手口にほかならない。
この後発医薬品問題をとおして、社会保障とは何か、生活保護とは何か、医療費を押し上げているのはだれか、社会保障の財源はどのように確保するのか、明示されないといよいよいけないが、いずれの課題でも、現在の政府・与党が政策的に行き詰まっていることを強く感じる。(「世相を拾う」08071)
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