セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「キャバレー」

2014-10-12 23:15:30 | 外国映画
 1972年制作の音楽付き映画(これがミュージカルかは疑問)、再見になり
ますが今回の「ブログDEロードショー」はこの作品で参加します。

 「キャバレー」(「Cabaret」・1972年・米)
   監督 ボブ・フォッシー
   脚本 ジェイ・プレッソン・アレン
       ヒュー・ホイーラー
   原作 クリストファー・イシャーウッド
   音楽 ジョン・カンダー
   作詞 フレッド・エッブ
   編曲 ラルフ・バーンズ
   撮影 ジェフリー・アンスワース
   美術 ロルフ・ツェートバウアー
   出演 ライザ・ミネリ
       マイケル・ヨーク
       ジョエル・グレー
       ヘルムート・グリーム

 1931年ベルリン、ワイマール体制下で共産党とナチスが争い徐々にナチ
スが幅を効かし出してた時代。
 下宿先を探してたイギリスの学生ブライアンは或るアパートでキャバレー歌
手のサリー・ボールズ(アメリカ人)と出会う・・・。

 背徳、退廃、暴力をナチズムのもう一つの側面と見るなら、「地獄に堕ちた
勇者ども」、「愛の嵐」の系譜に連なる作品。
 オープニング、歪んだ鏡面に映る客席、アップで入り込んでくるMC(司会進
行~J・グレイ)の冷笑含みの退廃と滑稽なメイク。
 キャバレー「キットカット・クラブ」で繰り広げられるショーの世界は、背徳と退
廃の毒花が咲き乱れ甘酸っぱく妖しい腐臭が充満した裏の顔、そして表の世
界ではナチスの台頭による暴力が満ち溢れてる。
 映画は主役たちの生きる現実世界に反射するようなキットカット・クラブで行
われるショーの世界を差し込みながら進行して行きます。
 受難のユダヤ人とナチスの退廃と暴力、如何にもアメリカ受けの教条主義的
な構図で、人に依っては陳腐と言う人も居るだろうけど僕はそれ程悪いとは思
いませんでした。
 ブライアン、サリー、男爵の関係と破綻の部分は良く描けているんじゃないで
しょうか。
 しかし、この作品の素晴らしい所はそこじゃない、キットカット・クラブで繰り広
げられるショーの数々こそがこの作品の見所。
 ラスベガスで鍛えられた一級のエンタティナー、ライザ・ミネリのパフォーマン
ス、そのライザ・ミネリさえも喰ってしまいそうなMC役のジョエル・グレイの達者
さと存在感。
 この二人の舞台を観てるだけで、この作品は元が取れます。
 二人を取り巻く美しくないダンサーや楽団の醸し出す雰囲気、ピンポイントで
効果を出してるパントマイムの人形。
 ボブ・フォッシーの才気と演出が冴えわたっています。

 キャバレーのオーナーがナチス党員によって殴打されるシーンをショーの合
間にカット・インさせたシーンは効果的だけど、キューブリックの「2001年 宇
宙の旅」、「時計仕掛けのオレンジ」からの引用でしょう。
 オリジナルを未消化だとは思うけど、それなりに良く出来たシーンだと思いま
した。
 美青年が歌うナチス党の歌に聴衆が雷同していくシーンも非常に印象的な
シーン。(どっかで観た気もするけど)

 歪んだ鏡面に写し出される歪んだ世界。
 このキャバレーの世界こそが現実であり、フィナーレを飾る「life is a Cabaret」
(人生はキャバレー」)。
 音楽映画らしからぬ鬱な世界で後味の良い作品では有りませんが、僕はそ
れでも名作だと思っています。

 「人生は舞台、人は皆役者」
 「人の世で起こる事は、すべて舞台の上でも起きる」
 「人生はキャバレー」

 「キャバレー」 OP
 「キャバレー」より「Money、money」

 これで漸く僕のナチス3部作(デカダンス部門)が終了出来ました、機会を与
えて下さった宵乃さんに感謝です。

※「life is a Cabaret」のエルシーを語る部分、♪酒とクスリで死んで、人は嘲笑う、
 でも彼女の死に顔は女王のようだった、私もそうありたい♪
 何だかJ・ガーランドの事のような・・・。
 L・ミネリにとってJ・ガーランドの娘と言う束縛から脱した作品。
※ドラマにカット・インする冷笑的なJ・グレイのカット2つ、印象的なんだけど、
 ちょっと「やり過ぎ」な感無きにしも有らず。
※この頃のライザ・ミネリ、顔は個性的過ぎて勘弁だけど、あの太ももはオヤ
 ジ目線になってしまいます。(笑)
 

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (宵乃)
2014-10-13 11:37:45
これはまったく知らない作品でした。
「シカゴ」の原作者が撮った作品か~。ショーの世界が大好きな人なんですね。

>これで漸く僕のナチス3部作(デカダンス部門)が終了出来ました、機会を与えて下さった宵乃さんに感謝です。

こちらこそ、この企画を有意義に利用してもらえて嬉しいです。
なんだか観るのに勇気が要りそうな作品ですが、ショーのくだりはコミカルさもありつつ、時代を反映していそうで面白そうですね。

今回もご参加ありがとうございました♪
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2014-10-13 19:15:45
 宵乃さん、いらっしゃいませ!
 コメントありがとうございます

これはまったく知らない作品でした。>ショック・・・(笑)
まぁ、「ゴット・ファーザー」の年なんですが、
ボブ・フォッシー、ライザ・ミネリ、ジョエル・グレー、音楽賞他計8部門でアカデミー貰った作品、主題歌も大ヒットしたんだけどなぁ。
http://www.youtube.com/watch?v=5QS1l1mSDSo
有名な曲だから記事にはリンクしませんでしたけど、これ聞いた事ないですか?

ブログDEロードショーにリクエストしようかと思ったのですが、調べたら結構置いてない作品だったから、やっぱり埋もれてしまってたんですね。

観るのに勇気が要りそうな作品>「地獄に~」、「愛の嵐」と違い、これは殆ど勇気は要らないと思います。
ただ、気分爽快って訳にはいきませんので、そこだけはご承知おき下さい。

こちらこそ、いつも企画ありがとうございます。
返信する
こんにちは☆ (miri)
2014-10-25 11:18:44
楽天レンタルがリニューアルして、この作品も置いてくれたので、今回良い機会と思い見ました☆
もちろん昔からタイトルは知っていたけど、怖そうで避けていました(笑)。

>受難のユダヤ人とナチスの退廃と暴力、
>ブライアン、サリー、男爵の関係と破綻の部分は良く描けているんじゃないでしょうか。
>しかし、この作品の素晴らしい所はそこじゃない、キットカット・クラブで繰り広げられるショーの数々こそがこの作品の見所。

良い作品でした☆
自然に流れるような、良い記事ですネ~!

私はショウの世界と外の世界、両方とも何もかも全部うまく描きだすのは難しいと思うので
この作品の場合、両方を、おおよそ、うまく描いて凄いな~って思いました♪

ただまあぁ言っても仕方ないけど、ドイツの話???と英語が耳障りでした(笑)。
ドイツ語を全然使わない方が良かったような気もします(笑)  
チョイ役の人に使わせてかえって変だと思いました。

俳優も皆さん良かったですネ! もちろん3人とジョエル・グレイさんも素晴らしかったけど、
マリサ・べレンソンさんのあの感じ、大物監督に使われる筈ですわ、ほほほ・・・。

>※「life is a Cabaret」のエルシーを語る部分、♪酒とクスリで死んで、人は嘲笑う、
>でも彼女の死に顔は女王のようだった、私もそうありたい♪
>何だかJ・ガーランドの事のような・・・。

そうかもしれませんね・・・
早すぎる別れが悲しいけど、誇りを持っていることを伝えてくれました。

>L・ミネリにとってJ・ガーランドの娘と言う束縛から脱した作品。

これは鉦鼓亭さんのお考えですか?
ミネリさんがどこかで言っていたのですか?

まぁ仕事ではそうだったかもしれないけど、
世界でたった一人のお母さん、「束縛から脱する」というのは・・・ちょっと・・・。

「ニューヨーク・ニューヨーク」今年再見しましたが、やはりお母さんと自分の関係性を
描写したようなシーンがありました。(監督のお考えだとは思いましたが)
もし機会があれば是非・・・ミネリさんはこの作品だけではないと思いますので♪

最後に、鉦鼓亭さんのお陰で、この作品を見る気持ちになって、やっと見られました、本当に有難う~!
長々失礼いたしました☆

追伸:「忍ぶ川」ですが、都合で11月初めに記事にしますので、お時間頂けたらお願いいたします☆


.
返信する
いらっしゃいませ! (鉦鼓亭)
2014-10-26 00:10:40
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます

これ、実は3回目の観賞になります。
初見は17の時で、ちょっと刺激が強すぎたみたい。(笑)
二度目が20、そして今回。
評価はA1→A2→A3となりました。(↑)
若い頃はJ・グレイの凄さが今ほど解らなかったんだと思います。
(男の同性愛が出てくる作品は好きじゃなかったし)
中・高時代の友人が大好きでしたね、「人生観変わった」って言ってました。

この作品の場合、両方を、おおよそ、うまく描いて凄いな~って思いました♪
>僕も、そう思います。
途中で突然歌いだすミュージカル・スタイルだと、ここまで描けなかったでしょう。
だから二つに分けたのは正解だし、miriさんの仰るバランスも良くなり、それぞれに深みを持たせる事に成功してると思います。

マリサ・べレンソン>この個性的な顔が多い作品で唯一の清涼剤。
凛とした美しさを感じました。

まぁ仕事ではそうだったかもしれないけど>その意味です。
別に「親子の血縁」ではなく、世間の見方、評判です。
この作品までは、歌っても演じても常に「J・ガーランドの娘」という枕詞が付いて回ってました。
この作品で枕詞が消えてライザ・ミネリという一枚看板になったと思ってます。
(そのかわり、今度は「キャバレーの~」が付いて回りましたけど)

ボブ・フォッシーは「レニー・ブルース」、「オール・ザット・ジャズ」を観ています。
ライザ・ミネリは「ニューヨーク・ニューヨーク」、「ラッキー・レディ」。
フォッシーは「キャバレー」以外、肌が合わない感じ。
(「シカゴ」に気が乗らないは、これが理由なのですが、そのうち観ようと思っています)
L・ミネリも、どうもあの顔が苦手で・・・。(汗)
miriさんご推薦なのですが「ニューヨーク・ニューヨーク」は歌を微かに憶えてるだけ、シーンは一つも憶えてない惨状。(大汗)
「ラッキー・レディ」は、やけに陽光キラキラな画調とG・ハックマンの姿をうっすらを思い出すだけ・・・。
どうも二人とも相性悪いみたいです。

「忍ぶ川」>祝言の帰郷、雪の駅に着いた辺りから「終」までは自信があるのですが、それ以前がかなり曖昧。
なので、近日中に再見する予定でいます。
多分、記事をUPなさってから暫く後のコメントになると思います、ご了承下さい。

お陰で、この作品を見る気持ちになって>それはお互いさまなので。
でも、ありがとうございます。

※このシーン
http://www.youtube.com/watch?v=29Mg6Gfh9Co
僕は昔から左派と朝日新聞が大嫌いですが、今の我が国の雰囲気をこのシーンに感じます。
(今の雰囲気を誰が作ったかの見解は人それぞれでしょうが)
返信する
再びお邪魔いたします☆ (miri)
2014-10-26 11:18:09
>美青年が歌うナチス党の歌に聴衆が雷同していくシーンも非常に印象的なシーン。
>※このシーン http://www.youtube.com/watch?v=29Mg6Gfh9Co
>僕は昔から左派と朝日新聞が大嫌いですが、今の我が国の雰囲気をこのシーンに感じます。
>(今の雰囲気を誰が作ったかの見解は人それぞれでしょうが)

怖いシーンですよね・・・少年だからこそ・・・
でも何と言うか、今の我が国の雰囲気とはちょっと・・・
まぁそういう場面や場合や時もあると思うのですが、そうでない場面や場合や時もあると思うので・・・

ヨーロッパで、少しずつ復活している「その勢力」を思うと本当に怖いです・・・
日本はどう向かってゆくのか分かりませんが、
この歌のシーンのような場面ばかりの国にはならないと信じたいです☆

>「忍ぶ川」>祝言の帰郷、雪の駅に着いた辺りから「終」までは自信があるのですが、それ以前がかなり曖昧。

もうすでに、私もそうなっています(笑)。

>なので、近日中に再見する予定でいます。
>多分、記事をUPなさってから暫く後のコメントになると思います、ご了承下さい。

ご無理なくお願いします。
単純に「お話しできたら良いな~」って思っただけですので・・・。

あと、「シカゴ」は、お若い方が仰る「シカゴの原作者がボブ・フォッシーさん」という感じではなくて
もちろん彼らしいところもあると思いますが、私は全然知らずに見たのでかえって良かったのですが、
原作者とか関係なく、大人が見て(きっと)楽しめる作品になっていると思います♪ 
いずれいつかお時間があれば是非・・・。


.
返信する
いつでも (鉦鼓亭)
2014-10-26 22:23:08
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます!

日本はどう向かってゆくのか分かりませんが
>僕は楽観視していません。
隣国の状態がああですし、何よりン十年撒き続けた燃料が浸み渡っていますから、
上手に音頭を取る人間が現れれば、一定の勢力になると思います。
あのシーンのように・・・。

「忍ぶ川」は、もう一度しっかり見直そうと以前から思ってたのです、
丁度良い機会が訪れたので、一切、お気になされぬようお願いします。

「シカゴ」>来年のリストに入れました。(笑)
今年度の「午前10時の映画祭」も、先週の「チャイナタウン」で自分的にはほぼ終了したので、
これからは日曜、家に居る日が多くなりそうです。
なので、もしかしたら年内になるかもしれません。
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