セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「ダイヤルMを廻せ!」

2015-05-09 15:18:02 | 外国映画
 「ダイヤルMを廻せ!」(「Dial M for Murder」、1954年、米)
   監督 アルフレッド・ヒッチコック
   脚色 フレデリック・ノット
   撮影 ロバート・バークス
   美術 エドワード・キャレア
   音楽 ディミトリ・ティオムキン
   出演 レイ・ミランド
       グレース・ケリー
       ロバート・カミングス
       ジョン・ウィリアムス

 不貞の妻を殺し、その財産を総取りしようと完全犯罪を目論む夫。

 完全犯罪を巡る、濃密な心理サスペンス。
 「情婦」、「探偵<スルース>」(1972年)、こういうの大好き。
 物凄く面白かったけど、本質的な面白さの多くは元の戯曲に有るのは否め
ない。
 それでも、舞台と違う映画というフィールドで魅せる為、随分カットや構図に
苦心してると思います。

 この作品は、最初に夫が完全犯罪の手口を実行犯に説明してから、犯行
が描かれていきます。
 果たして完全犯罪は成功するのか、破綻するとしたらどこからか、二転三
転していくスリル。
 無実の罪で死刑にされる恐怖。
 実に上手く出来ていて、犯罪が動き出すと最後までハラハラが止まりませ
ん。
 舞台と違い、見せたいものだけを画面にチョイスできる映画の利点、そこを
生かし切ってるヒッチコックの手腕は見事です。

 妻 「完全犯罪って出来るの?」
 作家(愛人)「本の上ではね・・・、現実は小説のように上手く運ばん、決して」
 自分の頭の中では好きに設定できる状況も、完全で有るが故に現実の変数
には対応できない。

 事実、真犯人である夫の計画は、作家の言うとおり現実の変数に負けてしま
います。
 つまり、不貞の相手である憎っくき推理作家に負けてしまう。
 面白いのは、そこで終わらずリベンジの第2Rが有る事。
 今度は、作家が指摘した「変数」の中で「完全犯罪」を新たに作り上げ、完成
させてしまうんですね。
 この映画の面白さは、ここに有る気がします。
 これで夫と愛人は1勝1敗の引き分け。
 夫の脇の甘さからくる破綻を、作家の言う「現実」と見るか、単に勝手に墓穴
を掘り自滅したと見るか。
 いろいろ考える事も出来るんじゃないでしょうか。

 不貞を働いた妻と、その愛人の前で屈辱的な敗北を喫しますが、女房には
死の恐怖を存分に味あわせたし、自分は遺産目当ての殺人教唆で手は下し
てないし、原因は女房に有る訳だから懲役15~20年くらい(想像)、作家に
は一矢を報いたしで、三方一両損って所かな。
 えっ、作家は見合った損をしてない?
 そんな事ないですよ、彼の人気が落ち始めたら、きっと彼女に捨てられます
から。(笑)
 (ここの何行かは、ブラック・ジョークですので、その積りで)

 この物語、一点だけ不満というか弱いと感じたのは、謎解き場面での作家の
存在。
 あんな話、犯人が受ける筈もないのに持ち掛ける不自然さ。
 彼が居なくたって、無事、事件は解決します。
 要するに、不倫二人組の(「愛」の)前で犯人が敗北する、只、その為に必要
だっただけ。
 そこから逆算して、あの場に割り込ませたとしか考えられない。
 緻密な話に、ご都合主義が紛れ込んだ感がしました。

 役者陣は完璧。
 だらしないクセにプライド高く、粘着質で冷酷。
 レイ・ミランドの演技は素晴らしかったです。
 警部役のJ・ウィリアムスは「泥棒成金」より単純な役だけど、彼の持つ謹厳
の中に有る、どことなくユーモラスな雰囲気がラストに生きてました。
 レスゲートを演じたA・ドーソンの存在感も秀逸。
 そして、何と言ってもグレース・ケリー。
 不貞妻の役なのに、善悪をちゃぶ台返しにしてしまう美しさ。
 話が入り組んでるから、見惚れてる訳にいかないのが残念。(笑)
 ゴージャスなグレースを観るなら「泥棒成金」
 お茶目な彼女を観るなら「裏窓」
 いろんな表情を観るなのなら本作。
 ヒッチコックのグレース・ケリー3部作、僕の中では現在、そんな分類になっ
てます。

 2015.5.6
 DVD
 
コメント (12)
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