セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

ハリーの災難

2015-05-26 22:57:55 | 外国映画
 「ハリーの災難」(「The Trouble with Harry」、1955年、米)
   監督 アルフレッド・ヒッチコック
   原作 ジャック・トレヴァー・ストーリー
   脚色 ジョン・マイケル・ヘイズ
   撮影 ロバート・バークス
   音楽 バーナード・ハーマン
   衣装 イーディス・ヘッド
   出演 エドモンド・グウェン
       ジョン・フォーサイス
       シャーリー・マクレーン
       ミルドレッド・ナットウィック

 「博士の異常な愛情:~」や「魚が出てきた日」と同じブラック系だけど、
ニヒリスティックなコメディじゃなく、ほのぼの系ブラック・ユーモアで統一
された作品。
 只、「死体」をマクガフィンと言うかオモチャにする話なので、倫理観の強
い人、潔癖な人は避けた方が無難。
 「映画の中くらい、何でもアリ」と思ってるチャランポランな僕には、完全
にノー・プロブレムな作品です。
 死体を繰り返し埋めたり掘り起こしたりする話で、それをB・キートンやク
ールファイブ時代の前川清宜しく無感動にやり過ごすのが「お約束」。ここ
を笑ってやり過ごせないなら、(勉強の為以外は)早々にリタイヤした方が
心身のバランスに良いかと思います。

 或る日、狩猟に出掛けたヤモメ老人が兎を狙って3発撃った、すると森の
中で一人の男が死んでいる。
 村の人間じゃないし誰も見ていない、さっさと埋めようとすると・・・。

 撃ち殺したと思う元・老船長、金底の靴で頭を引っ叩いたのが原因と思う
老婦人、厄介事が片付いたと喜ぶ妻、巻き込まれてしまった画家。
 この4人のホームドラマなんだけど、その真ん中に「死体」がある。(笑)
 そのギャップを大袈裟な仕掛けにせず、極めてコジンマリした話にした所
がイイ。
 ドタバタ大爆笑より落語の小噺みたいにした所に、ヒッチコックの「粋」を
感じます。
 (落語の「駱駝」も死体を肴にする噺だけど、小噺じゃなくトリが演る大ネ
タ)
 死体という緊迫感と程遠い長閑な展開、その中で「羅生門」のような繰り
返し(埋めたり掘り返したり)が続く、それでも飽きさせない所はヒッチコック
のリズムと演出力、感覚の賜物だと思います。
 声に出して笑いはしないけど、腹の中で小笑いしてる、これは、そんな作
品ではないでしょうか。

 主要人物では、新人ながら存在感を既に感じさせてるS・マクレーンが目
立ってます。
 この地味な作品で彼女の華がなかったら、眠くなったかも。(笑)
 (S・マクレーン、人を見る時、よく目を細めてたけどライトが眩しかったの
かな?)
 只、彼女のE・ヘッドの衣装、悪くないけど、あの田舎村にはいかにも不
釣り合い。
 もう少し、垢抜けない感じの方が良かったんじゃないかと気になりました。

 ヒッチコックの作品中、結構、上位にくる作品。
 締りの悪いクローゼットの扉、まんまと一杯喰わされました。

 2015.5.24
 DVD