「昼下がりの情事」(「Love in the Afternoon」1957年・米)
監督 ビリー・ワイルダー
脚本 ビリー・ワイルダー
I.A.L.ダイアモンド
出演 ゲーリー・クーパー
オードリー・ヘプバーン
モーリス・シュヴァリエ
「おしゃれ泥棒」(「How to Steal a Million」1966年・米)
監督 ウィリアム・ワイラー
音楽 ジョン・ウィリアムス
出演 オードリー・ヘプバーン
ピーター・オトゥール
ヒュー・グリフィス
「ワトソン君、偶には映画の話なんてどうかな?例えば「昼下がりの情事」と
「おしゃれ泥棒」の比較なんか面白いと思うけどね」
「ホームズ、珍しいこともあるもんだな、君が映画の話かい?」
「君の記録じゃ、僕は文学も映画も知らない事になってるが、実はそうでもな
いんだよ」
「僕は構わないけど、でも、ワイラーだったら「ローマの休日」じゃないと不公
平じゃないかね」
「そうかも知れないが、「ローマの休日」では、今度はワイルダーに気の毒だ
と思うんだ」
「まあ、確かに。でも「おしゃれ泥棒」じゃ、結果は目に見えてるよ、ワイルダ
ーの圧勝だね」
「そうかな?僕はそこまで差はないと思うんだけど」
「どうして?ストーリーは面白いし小粋で、何より終わり方がいいじゃないか」
「他には?」
「モーリス・シュバリエの父親がいい味だしてるよ、特にクーパーのフラナガ
ンに最後の台詞をいう時の表情、僕には子供は居ないけど、娘が居たら、
あんな表情になるんじゃないかな、それに、楽団の使い方も面白いよ、特に
あのラストのね」
「うん、君の言う事に僕も異存は無いな、ねえ、ワトソン、君は僕が「シャレー
ド」の時書いたヘプバーンについての小さな考察を読んだかね」
「ああ、読んだよ、君が映画について書くなんて意外だった、僕としては少し
異論もあるんだけどね」
「あの時、僕はヘプバーンの相手役は歳が離れていないとダメだって書いた
んだけど、クーパーは幾ら何でも離れすぎじゃないかと思うんだな」
「「麗しのサブリナ」のボガートだって相当だよ」
「あそこがギリギリ許容範囲かな、クーパーは悪くないんだけど、いかんせん
年齢が顔に出すぎてるよ、下手をしたらシュバリエより年上に見える時がある」
「まあ、最初はケーリー・グラントの予定だったからね」
「そう、グラントならねぇ、でも、ここでグラントを使ったら「シャレード」が無くなる
し、難しいところだね。誰か他に居なかったんだろうか」
「う~ん、J・スチュアートは?」
「プレイボーイというタイプじゃない」
「H・フォンダはどうだい?」
「前の年、「戦争と平和」で共演済み」
「J・ウェイン」
「列車の上から「逮捕する!」って言いそうだ、並んだ姿を考えてみろよ」
「C・ゲーブル」
「ヘプバーンにキスをさせるのが可哀そうだ」
「殆んど君の好みだね、D・ニーブンなら色男が出来るんじゃないか」
「当時はまだ格違い。ワトソン、ヘプバーンって人はね、「ローマの休日」の時
から若いクセにオーラが途轍もないんだよ、大物で年上で包容力がないと彼
女のオーラに負けてしまうんだ、そこが難しい所なのさ」
「居ないもんだねぇ、天下のハリウッドも彼女の前では形無しか、でも、それを
言ったら「おしゃれ泥棒」は問題だらけじゃないか、幾ら「ロレンス」をこなした
とは言え、若すぎてヘプバーンを包み込む包容力なんか無いし、完全にオー
ラ負けしてるよ」
「うん、二人で居ると、まるで「姉さん女房」って感じがしたね」
「そうだろ」
「でもあれは、そういう役だったからね、捉えどころのない、頼りになるんだか
ならないんだかって、でも、飄々とした表情といい雰囲気といい、中々、好演し
てたと思うよ、あの素ットボケた感じがヘプバーンのオーラを上手くかわしてて
ベスト・マッチになってる」
「負けてたけどね」
「君らしくない、彼は我が大英帝国の役者だよ、愛国心はどうしたんだい」
「この件に関しては、例え負けても女王陛下に傷は付かないと思うよ」
「ふふふ、確かにね。では、話を戻すとして、ストーリーも「昼下がりの情事」、
う~ん、この日本語のタイトル、どうにかならないかねえ、付けた日本人をトポ
ルみたいに背負い投げしたいくらいだよ、「おしゃれ泥棒」なんて素晴らしいセ
ンスがあるのに、どうも、解らんね日本人は」
「僕もさ」
「で、そのストーリーなんだがね、同類の「トプカピ」なんて比較にならないし、
「昼下がり」に較べても、酷い差はないと思うよ」
「まあ、ワイラーだからね。それはそれとして、ホームズ、君の意見を拝聴した
いね」
「僕の意見はこうだね。小物使いの名人ワイルダーと比較したって、「カルティ
エの指輪」や「ワインボトル」の使い方は上手いと思うよ」
「まあね」
「でね、僕が思ったのは、ヘプバーンのコメディエンヌとしての才能なんだ、そ
りゃ「ローマの休日」以来、ロマンティック・コメディは彼女の十八番なんだけど、
初期の頃って相対的な可笑しさっていうか、ほら、「王様と乞食」みたいな身分
違いからくる可笑しさとか、ピュアと渋さとか、そこに居るだけで生じる不釣合
いな可笑しさみたいなのが主だったと思うんだ、勿論、当時からコメディ・セン
スは抜群だったがね」
「そう言えなくもない」
「でも、この頃になると、さすがに、ピュアだけじゃやっていけない、30代も後
半だからね。ヘプバーン自身は自分の演技力を信じてなかったようだけど、
「シャレード」や「おしゃれ泥棒」の一段と磨かれたコメディ・センスは特筆して
いいんじゃないかな、演技力だって各段に上達してるよ、翌年の「暗くなるまで
待って」のスージー役を見れば解る」
「うん、ただ彼女の場合、自分の型にハマればだけどね」
「まあ、そこは認める、でも、世間はキャサリンやバーグマンばかりを望んでは
いないさ。あの博物館でバケツに身を隠しながら床や柱を拭いてる所なんて一
級のコメディエンヌとしての証明になるんじゃないかな、ただ、僕の不満はオチ
だね、もう少しスパッと短く決めてもらいたかった」
「服装は良かったよ、「ジパンシーが休める」って言ってた、掃除のオバサンの
服だって彼女が着ると、何となくオシャレだっな」
「僕は、御婦人の服装に関しては材質と色以外、何も言えないな、僕の感想な
んて、まるでアテにはならないのだけど、濃いマリンブルーの服が彼女には似
合うんじゃないか、それだけだね、「シャレード」の時も似た色のナイトガウンが
素敵だった記憶がある」
「ふ~ん、君がそこまで言うんだから、僕も、今度、もう一度見直してみるよ」
「うん、是非、そうしてくれ、そして、感想を聞かせてくれたまえ」
「ああ、約束する」
「いやあ、今日は久々に気分転換になったよ、最近はつまらない事件ばっかり
でね、お陰で、パイプで煙草1オンス浪費せずに済んだ、少しワインでも飲むか
い」
「いいね」
「その後、少しバイオリンを弾いててもいいかな、ワトソン」
「リクエストに答えてくれるなら」
「珍しいね、ここ数年無かった事だよ、非常に興味深い、何の曲かな」
「ファシネーション」
「ファシネーション?通俗的だな、僕はまだハイドンの方が」
「ルームシェアの契約をした頃の事、憶えてるかね、ホームズ?」
「何だったかな、どうも事件関係以外は忘れるようにしてるんでね」
「君のバイオリンを何曲も聞かされるのなら、僕にもリクエストする権利がある
ってやつさ」
「そうだったかな・・・まあ、君がそう言うのなら」
「テーブルのワインが「暗くなるまで待て」ないって言ってるぞ、ホームズ」
「どうやら、そのようだね・・・では、我らがヘプバーンに乾杯!」
「of course」
監督 ビリー・ワイルダー
脚本 ビリー・ワイルダー
I.A.L.ダイアモンド
出演 ゲーリー・クーパー
オードリー・ヘプバーン
モーリス・シュヴァリエ
「おしゃれ泥棒」(「How to Steal a Million」1966年・米)
監督 ウィリアム・ワイラー
音楽 ジョン・ウィリアムス
出演 オードリー・ヘプバーン
ピーター・オトゥール
ヒュー・グリフィス
「ワトソン君、偶には映画の話なんてどうかな?例えば「昼下がりの情事」と
「おしゃれ泥棒」の比較なんか面白いと思うけどね」
「ホームズ、珍しいこともあるもんだな、君が映画の話かい?」
「君の記録じゃ、僕は文学も映画も知らない事になってるが、実はそうでもな
いんだよ」
「僕は構わないけど、でも、ワイラーだったら「ローマの休日」じゃないと不公
平じゃないかね」
「そうかも知れないが、「ローマの休日」では、今度はワイルダーに気の毒だ
と思うんだ」
「まあ、確かに。でも「おしゃれ泥棒」じゃ、結果は目に見えてるよ、ワイルダ
ーの圧勝だね」
「そうかな?僕はそこまで差はないと思うんだけど」
「どうして?ストーリーは面白いし小粋で、何より終わり方がいいじゃないか」
「他には?」
「モーリス・シュバリエの父親がいい味だしてるよ、特にクーパーのフラナガ
ンに最後の台詞をいう時の表情、僕には子供は居ないけど、娘が居たら、
あんな表情になるんじゃないかな、それに、楽団の使い方も面白いよ、特に
あのラストのね」
「うん、君の言う事に僕も異存は無いな、ねえ、ワトソン、君は僕が「シャレー
ド」の時書いたヘプバーンについての小さな考察を読んだかね」
「ああ、読んだよ、君が映画について書くなんて意外だった、僕としては少し
異論もあるんだけどね」
「あの時、僕はヘプバーンの相手役は歳が離れていないとダメだって書いた
んだけど、クーパーは幾ら何でも離れすぎじゃないかと思うんだな」
「「麗しのサブリナ」のボガートだって相当だよ」
「あそこがギリギリ許容範囲かな、クーパーは悪くないんだけど、いかんせん
年齢が顔に出すぎてるよ、下手をしたらシュバリエより年上に見える時がある」
「まあ、最初はケーリー・グラントの予定だったからね」
「そう、グラントならねぇ、でも、ここでグラントを使ったら「シャレード」が無くなる
し、難しいところだね。誰か他に居なかったんだろうか」
「う~ん、J・スチュアートは?」
「プレイボーイというタイプじゃない」
「H・フォンダはどうだい?」
「前の年、「戦争と平和」で共演済み」
「J・ウェイン」
「列車の上から「逮捕する!」って言いそうだ、並んだ姿を考えてみろよ」
「C・ゲーブル」
「ヘプバーンにキスをさせるのが可哀そうだ」
「殆んど君の好みだね、D・ニーブンなら色男が出来るんじゃないか」
「当時はまだ格違い。ワトソン、ヘプバーンって人はね、「ローマの休日」の時
から若いクセにオーラが途轍もないんだよ、大物で年上で包容力がないと彼
女のオーラに負けてしまうんだ、そこが難しい所なのさ」
「居ないもんだねぇ、天下のハリウッドも彼女の前では形無しか、でも、それを
言ったら「おしゃれ泥棒」は問題だらけじゃないか、幾ら「ロレンス」をこなした
とは言え、若すぎてヘプバーンを包み込む包容力なんか無いし、完全にオー
ラ負けしてるよ」
「うん、二人で居ると、まるで「姉さん女房」って感じがしたね」
「そうだろ」
「でもあれは、そういう役だったからね、捉えどころのない、頼りになるんだか
ならないんだかって、でも、飄々とした表情といい雰囲気といい、中々、好演し
てたと思うよ、あの素ットボケた感じがヘプバーンのオーラを上手くかわしてて
ベスト・マッチになってる」
「負けてたけどね」
「君らしくない、彼は我が大英帝国の役者だよ、愛国心はどうしたんだい」
「この件に関しては、例え負けても女王陛下に傷は付かないと思うよ」
「ふふふ、確かにね。では、話を戻すとして、ストーリーも「昼下がりの情事」、
う~ん、この日本語のタイトル、どうにかならないかねえ、付けた日本人をトポ
ルみたいに背負い投げしたいくらいだよ、「おしゃれ泥棒」なんて素晴らしいセ
ンスがあるのに、どうも、解らんね日本人は」
「僕もさ」
「で、そのストーリーなんだがね、同類の「トプカピ」なんて比較にならないし、
「昼下がり」に較べても、酷い差はないと思うよ」
「まあ、ワイラーだからね。それはそれとして、ホームズ、君の意見を拝聴した
いね」
「僕の意見はこうだね。小物使いの名人ワイルダーと比較したって、「カルティ
エの指輪」や「ワインボトル」の使い方は上手いと思うよ」
「まあね」
「でね、僕が思ったのは、ヘプバーンのコメディエンヌとしての才能なんだ、そ
りゃ「ローマの休日」以来、ロマンティック・コメディは彼女の十八番なんだけど、
初期の頃って相対的な可笑しさっていうか、ほら、「王様と乞食」みたいな身分
違いからくる可笑しさとか、ピュアと渋さとか、そこに居るだけで生じる不釣合
いな可笑しさみたいなのが主だったと思うんだ、勿論、当時からコメディ・セン
スは抜群だったがね」
「そう言えなくもない」
「でも、この頃になると、さすがに、ピュアだけじゃやっていけない、30代も後
半だからね。ヘプバーン自身は自分の演技力を信じてなかったようだけど、
「シャレード」や「おしゃれ泥棒」の一段と磨かれたコメディ・センスは特筆して
いいんじゃないかな、演技力だって各段に上達してるよ、翌年の「暗くなるまで
待って」のスージー役を見れば解る」
「うん、ただ彼女の場合、自分の型にハマればだけどね」
「まあ、そこは認める、でも、世間はキャサリンやバーグマンばかりを望んでは
いないさ。あの博物館でバケツに身を隠しながら床や柱を拭いてる所なんて一
級のコメディエンヌとしての証明になるんじゃないかな、ただ、僕の不満はオチ
だね、もう少しスパッと短く決めてもらいたかった」
「服装は良かったよ、「ジパンシーが休める」って言ってた、掃除のオバサンの
服だって彼女が着ると、何となくオシャレだっな」
「僕は、御婦人の服装に関しては材質と色以外、何も言えないな、僕の感想な
んて、まるでアテにはならないのだけど、濃いマリンブルーの服が彼女には似
合うんじゃないか、それだけだね、「シャレード」の時も似た色のナイトガウンが
素敵だった記憶がある」
「ふ~ん、君がそこまで言うんだから、僕も、今度、もう一度見直してみるよ」
「うん、是非、そうしてくれ、そして、感想を聞かせてくれたまえ」
「ああ、約束する」
「いやあ、今日は久々に気分転換になったよ、最近はつまらない事件ばっかり
でね、お陰で、パイプで煙草1オンス浪費せずに済んだ、少しワインでも飲むか
い」
「いいね」
「その後、少しバイオリンを弾いててもいいかな、ワトソン」
「リクエストに答えてくれるなら」
「珍しいね、ここ数年無かった事だよ、非常に興味深い、何の曲かな」
「ファシネーション」
「ファシネーション?通俗的だな、僕はまだハイドンの方が」
「ルームシェアの契約をした頃の事、憶えてるかね、ホームズ?」
「何だったかな、どうも事件関係以外は忘れるようにしてるんでね」
「君のバイオリンを何曲も聞かされるのなら、僕にもリクエストする権利がある
ってやつさ」
「そうだったかな・・・まあ、君がそう言うのなら」
「テーブルのワインが「暗くなるまで待て」ないって言ってるぞ、ホームズ」
「どうやら、そのようだね・・・では、我らがヘプバーンに乾杯!」
「of course」