セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「シェルブールの雨傘」(ネタばれ) 極私的名ラストシーン第2位

2011-02-13 12:55:48 | 外国映画
 いままで観てきた映画の中で、特に印象に残ってる名ラストシーンについ
て書いてみます。
 内容が内容ですのでネタばれになります、ご容赦下さい。
 1位と2位は本当は甲乙つけがたいと思っているのですが、作品的に1位
の方が出来が良かったので、こういう順にしました。

 「シェルブールの雨傘」(1964年・仏)監督ジャック・ドミィ 出演カトリーヌ・
ドヌーブ、ニーノ・カステルヌオーボ
 冒頭、雨の中、真上から撮影される石畳、ミッシェル・ルグランの甘いメロ
ディが流れ出し、画面の中を色とりどりの雨傘が通り過ぎていく、そんなタイ
トル・バックで始まる仏製ミュージカル映画(踊らないのでオペレッタという人
もいます)。
 有名なのは、このタイトル・バックと第1部クライマックスのシェルブール駅
での別れのシーンだと思います。
 でも個人的には、この映画、ラストが最高なんです。
 そこを書く前に、また、ダラダラと思いつくまま。(笑)

 映画のあらすじは、
 港町シェルブールの傘屋の娘・ジュヌビーエーブ(ドヌーブ)と自動車修理
工・ギィは激しい恋に落ちるのだが、そこへ召集令状が(当時フランスはア
ルジェ戦争中)、出征前の最後の夜、二人は始めて愛を確かめあう。
 ギィが不在となる中、ジュヌビエーブに悪阻の症状が。
 そんな時、母が懇意にしている宝石商からジュヌビエーブはプロポーズを
受けることに。
 ギィからの便りは途絶え、音信不通の日々が続いていく。
 遂にジュヌビエーブは、悩みながらも全てを承知の上で自分を愛してくれる
宝石商のプロポーズを受け入れる決心をする。
 1年後ギィが負傷兵として帰還、すでにジュヌビエーブの姿はシェルブール
になく傘屋も店を閉じていた。
 荒れるギィ、追い討ちを掛けるように育ての母の死、しかし帰還後、ずっと
自分を優しく見守ってくれていたマドレーヌに気付き、二人は結婚する。
 そして、あの駅での別れから6年後、雪の降りしきるクリスマス・イブの夜・・・。

 最近知った(忘れてた?)んですが、ジュヌビエーブって16歳の設定なん
ですね、ギィは20歳、「10代の瞬間湯沸し器」という面から見れば、死なな
かった「ロミオとジュリエット」の、その後みたいな話。
 ロミオがベローナの街に居られなくなり、逃げた先の町で「行方不明」とい
う噂を聞いたジュリエット、悲しみのあまり腑抜けのようになってパリス伯爵
と結婚しちゃう・・・、ありゃりゃ、とんでもない話に。(笑)
 ま、それはさておき、この映画は非常にユニークな造りになっています。
 それは、最初の台詞から最後の台詞に至るまで全部歌。
 歌というより台詞を全部メロディーに乗せて喋ってるんです、だから絶えず
音楽が鳴っている。
 M・ルグランの才気を感じさせる所ですが、初見の時は2部に入った中ほ
どで飽きました、そこからはちょっと忍耐が必要だった。
 ♪どこ行くの~♪
 ♪トイレよ~♪
 ♪紙が無いから持ってって~♪
 こういう台詞は勿論有りません、冗談です、でも、初めから終わりまでずっ
とこの調子ですからね、物語がダレたと感じてしまうと結構キツイです。
 ♪Oui ~♪なんて、語尾伸ばしたら酔っ払い。(笑)
 それでも有名なシェルブール駅の別れのシーンは、最初の時から印象に
残ってます。
 列車に乗るギィ、ホームに立つジュヌビエーブ、台詞は二つだけ。(笑)
 ギィ「♪Mon amour♪」(好きだ)
 ジュ「♪Je t'aime ♪」(愛してるわ)
 ギィ「♪Mon amour♪」(好きだ)
 ジュ「♪Je t'aime 、Je t'aime ♪」(愛してる、愛してる)
 ずっと、こればっかし、さすがフランス。

 でも、このジュヌビエーブって女、酷え女ですよ。(笑)
 涙、涙のこの別れのシーン(スクリーンで)。
 ギィを乗せた列車が動きだすと「旅情」や「終着駅」みたいにジュヌビエー
ブさん、後を追わないんですよ、その場に立ったまま。
 更に酷いのは、ギィの列車がまだホームを離れないのに、この女、クルッ
と背を向けてサッサと改札口に向かって歩き出しちゃう、おいおい、さっきの
愁嘆場は何だったのかと。
 この性格の悪さは見事に第2部で花開いて、音信不通が長く続いたって
だけでコロっとお金持ちの男の元へ行っちゃう、「戦死通知」が来た訳でも
ないのに。
 そりゃ、子供をどうやって育てるのかって問題もあるけど、
 「私、貴方がいないと生きていけないわ」って切々と訴えたのは何だったん
でしょうかね。(笑)

 さてと、ようやく問題のラストシーンです、すいません。(笑)
 シェルブールの町で小さなガソリン・スタンドをやってるギィ、マドレーヌとの
間に出来た男の子も居る。
 イブの夜、営業所の中でツリーの飾りつけも終わり、子供とマドレーヌがプ
レゼントを買いに降りしきる雪の中を出て行く、それを見送るギィ、家族3人、
とても幸せそうな雰囲気。
 そこへ入れ違うように1台の車が入ってくる、助手席の女の子が悪戯にク
ラクションを鳴らし続ける。
 「止めなさい、フランソワーズ」
 窓を開け、見上げるジュヌビエーブ、その表情が瞬間、固まる。
 同じく固まって立っているギィ。
 パリから用事があって、あれ以来初めて来た故郷、パリへ帰る為に立ち
寄ったスタンドでの偶然の再会。
 二人は殆ど無言のまま営業所の中へ入る。
 ここの何がいいって、ジュヌビエーブが再び営業所を出る3分位の間、あま
りうるさく喋べり合わないのがいいんです、会話は当たり障りのない話が続
いた後。

 ギィが車に乗ってる女の子を見てる。
 「フランソワーズっていうの、会ってみる?」
 首を振るギィ。
 「そう・・・」
 ジュヌビエーブ、ギィが妻と子供と一緒に飾り付けたというツリーを見る、
 「そろそろ行ったほうがいい、家に着くのが遅くなる」
 無言のままドアを開けるとジュヌビエーブが振り返る、
 「あなた、幸せ?」
 「幸せだよ」
 そのまま車へ向かうジュヌビエーブ。(彼女も、それなりの幸せの中にいる)
 開けっ放しになってるドアの所に立ち、出て行く車を見送るギィ、降りしき
る雪、そこへ子供とマドレーヌがプレゼントを抱えて帰って来る。
 子供とじゃれ合うギィ、幸せモードへ戻った家族3人、やがて3人の姿が
営業所の中へ消えていく。
 ジュヌビエーブがドアを出てからFINマークまで、寄りを余り使わず、引き
の画面で淡々と描写していくのが凄くいいんです、そこへ、これでもかこれ
でもかと被さるM・ルグランのテーマ曲の有名な旋律、ちょっと田舎芝居み
たいに臭いんですけど、やっぱり効果があります、このシーンには絶対欠
かせない旋律です。

 恋と愛の違い。
 熱情の時代を過ぎ、分別のつくようになった男と女が再会して、お互いの
現在を何も言わずに理解してあっさり別れる。
 「あっさり別れる」といっても、溢れかえるようないろんな思いを、お互い
の胸ん中に無理やり畳み込んで「あっさり別れる」んです。
 初めて見た時以来、ずっと心に残ってるラスト・シーンです。
 http://www.youtube.com/watch?v=JiNfJHZCD8Q



※フランソワーズという名前は、別れる前、「子供が出来て男の子だったら
 フランソワ、女の子だったらフランソワーズにしよう」と二人が決めていた
 名前です。
 ちなみに、ギィの子供の名前はフランソワ。
※ドヌーブも前半部より、このシーンの、少し落ち着いた感じの方が断然
 好きです。
 でもドヌーブだったら個人的には、ハリウッドで撮った「ハッスル」が一番
 好き、それまでの硬質なイメージじゃなくて陽性で、ちょっと妖艶さも有っ
 て良かったです。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする