栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

後継者不足より深刻な後継者選びの問題(4)

2016-07-26 12:15:00 | 視点
生え抜きを指名、トップに抜擢した例

 少し古い話で恐縮だが、いまから20年程前に九州の某地方銀行で行われた人事の話を。
 当時、地方銀行の頭取は大蔵省からの天下りポストというのが当たり前だった。金融の自由化が進み、それまでの護送船団方式で金融業界が保護されることは表向きなくなっていたが、横並び意識はいまでも日本企業から抜け切ることがないように、他と違うことをやるのはかなりのリスクを伴う。
 ところが、その地銀トップは自らの出身母体、大蔵省から次期頭取を招きことを拒否し、自らが頭取に就任した直後から「次は生え抜きから」と公言していた。もちろん、就任時にそう表明する人はいる。しかし、バトンタッチが現実のものになってくると、そんな言葉はサラリと忘れ、大蔵省人事に従うのが常だ。早い話が保身だ。天下り人事を受け入れることで、自分の大蔵省外郭団体への再天下りも保証される。
 つまり次期頭取を生え抜きから選ぶということは、ある部分で自分の退路を断つことを意味するだけでなく、地方銀行にとっても大蔵省の保護を得られないというリスクを伴う。

 誰だってリスクは冒したくない。だが、部下に夢も見せたい。幻想かもしれないと思っていても、「もしかすると」という夢を。鳩山元首相だって最初から騙そうと思っていたわけではないだろう。純粋にそうしたいと思っていたはずだ。だが、彼にはそこまでの信念と行動力がなかった。結果、沖縄県人を騙したことになり、彼らの激しい落胆と反感を買う羽目になってしまった。
 これが企業なら社員は見限って辞めるだけだ。しかし、彼らは日本人であることを捨てる選択をすることはできなかった。少なくともいままでは。しかしスコットランドがイギリスからの独立を現実的な選択肢として考えるだけでなく行動する時代である。沖縄の人達が琉球人に戻る行動を起こすことは非現実的なことではないだろう。

 さて、銀行頭取の話である。私は当時の頭取T氏が頭取職を生え抜き行員に譲り、自らは会長になった後、数回取材したことがある。
 その時の取材内容は直接、銀行に関係することではなくT氏が兼ねている他の公職に関することだったが、ついでに後任頭取人事のことも尋ねた。実はメーンテーマ以外のことをさりげなく雑談的に尋ねるというのは結構本音が聞かれるものなのだ。メーンテーマと外れるから相手の警戒心も緩むのだろう。

 聞きたかったのは自らの出身母体の大蔵省OBではなく、なぜ生え抜きから現頭取を選んだのかという点だった。
 答えは簡単明瞭だった。「彼が優秀だったからですよ」。いやいや、そう言われても、いざその段になるとやはり大蔵省出身者を迎える銀行がほとんどだし、第一、優秀だという判断の根拠はと、さらに尋ねる。
 T会長曰く。優秀な男だったので、さらに確かめるべく、いろんな部署を経験させてみた。すると、どの部署でもきちんと結果を出してきた。別に何が何でも次は生え抜きと決めていたわけではない。たまたま行内に優秀な人材がいたからで、そうでなければ生き残るためには大蔵省にお願いしてでも優秀な人材を派遣してもらっていた。

 もう1点どうしても聞きたかったのは実権のことだった。というのも当時、都市銀行では頭取より会長の方が実権を握っている例があったからだ。
 それに対しては「それは相談を受けることはありますよ。だが、会長就任とともに銀行のことには基本的にノータッチ」とのこと。とはいえ、それは表向きということはよくある。しかし、T氏の肩書は「会長」で代表取締役の文字はなかったし、ご本人も「代表権は返上しています」。

 もう一度まとめてみよう。
1.まず自らが頭取就任間もなく「次期頭取は生え抜きから」と行員に公言
  行員に希望とやる気が芽生える
2.後継者を育成するため、後継者候補に幾つもの部署を経験させている
3.早期にバトンタッチ
4.会長就任とともに代表権は放棄

 ポイントは後継者の育成をするかどうか、という点だろう。そのプロセスがなく、直系だから、成果を上げたからという点だけで後継者に任命すると、3代目が会社を潰したり、庇を貸して母屋を取られたりということになりかねないので、くれぐれもご用心を。



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後継者不足より深刻な後継者選びの問題(3)

2016-07-26 09:59:14 | 視点
トップに居座り続ける都合のいい理由

 もう1つは福岡市のシステム会社。地元放送局と電機メーカーの共同出資で設立された会社で、トップは放送局からの天下り。同社のT氏は転職組だが、ほとんどプロパー社員と変わらなかった。私が同氏を知った時は専務取締役だったが、それから間もなく代表取締役専務になり、さらに代表取締役社長へと登り詰めた。
 能力があり人当たりもよく人望もあったので社長になるのは当然と思っていたが、本人もその気満々なのは専務時代に「早く代表権を寄こせと言っているんですよ」と半ば冗談めいて言っていたことからも分かる。
 私自身も彼は早く代表権を持つべきだと思っていたし、多少そうけしかけもしていたが、程なく希望通りに代表取締役専務になった。代表権を握り裁量権も大きくなったのだろう、それから同社の業績は拡大していった。やがて代表取締役社長に就任。親会社の天下りポストは代表取締役社長から代表取締役会長に替わった。

 同氏が代表権を持つようになって19年がたった頃、会社設立40周年記念パーティーの案内に呼ばれた。即座に考えたのは40周年を花道に引退するのだろうということだ。
 たしかにT氏の功績は大きいが代表権を握って19年。オーナー経営者でもないサラリーマン社長にしては長すぎる。ここらが引き際。次にバトンタッチすべき時期だろう。
 「権不10年」ではないが、どんなに優れた経営者でもトップの座に20年近くもいれば、裸の王様状態で周りはイエスマンだらけになる。おまけに功績大となれば、社内外から聞こえてくるのは賛美の声だけ。かくして「カリスマ」「名経営者」と呼ばれる人達が道を踏み外していく。そうなる前に後進に道を譲るべきだと思うが、悲しいかな足るを知る人間は少なく、もっと、もっとと欲が出る。

 T氏の場合も例外ではなく、辞めることなどサラサラ考えてないようで、まだまだやる気十分。そんな彼にちょっと辛口を叩いてみた。
「Tさんの後継者は決まっているんですか」
「決まってますよ」
「誰ですか」
「紹介しましょうか。Iですよ」
「えっ、Iさん。Iさんなら知っていますよ。以前、次は彼だと言われていたI部長でしょ」
「ええ、そうです。いまは常務ですけどね」
「彼はいくつですか。もう50は過ぎてますよね。50半ば。そうですか。では、もうバトンタッチですね。今日はその発表もあるのかと思ってましたけど」
「いやあ、取引先がまだお前がやれって言うもんですから」
「でも、代表権を握ってもう19年はたつでしょ。ご自分が代表取締役になったのは40代なんだから」
「私に辞めろというんですか」
 そう言うと近くに居た人を引っ張ってきて、私に押し付けながら
「この人は私に辞めろ辞めろと言うんですよ」と笑いながら、その場を離れて行った。

 いや、私は「辞めろ」と言っているわけではない。優秀な経営者だと認めているし、早くから次の後継者候補も決めていたようだから、後継者の年齢を考えても、もうバトンタッチする時期ではないかと考えただけだ。このままトップの座に居座り続けると自身が以前言っていたこととの整合性も取れなくなるし。

 結局、T氏はその後も辞めることなく代表取締役会長まで務めて引退したようだが、会長就任も引退挨拶も彼から来ることはなかった。
 後日談だが「いま辞めたら親会社から天下りで会長が来る。それは阻止しなければならない」と言っていたから、会長までトップとして君臨するのは本人にしてみれば既定路線だったのだろう。

 人は変わるものである。いい方にも悪い方にも。願わくばいい方に変わりたいと思うが、自分では真っ直ぐ進んでいるつもりでも少しずつ歪んでいくというのはままある。
 「君子は豹変し、小人は面(おもて)を革(あらた)む」。先代存命中は言葉巧みに近づき、表面だけは従う態度をとっているが、先代が亡くなり息子が跡を継いだ途端、本性を表し庇と母屋を取り替える者がいないとも限らない。後継者を見る目を養うのは難しいとつくづく感じる。



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