栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

欲で変わる「二度目の仕事」~作品に垣間見える作家の人生(1)

2016-05-08 21:32:59 | 視点
 このところPCから距離を置いている。理由は前回触れたが、代わりに増えたのが手紙とタブレット。お陰でタブレットの長所、短所も分かってきた。
 前回触れたようにPCに比べればまだ入力に時間はかかるがフリック入力で文章も結構書けるようにもなったのは大きな収穫だった。

電子書籍をタブレット、スマホで読む

 もう一つの変化は電子ブックを読み出したこと。
いままでタブレット、いわんやスマホで本など読めるものかと考えていたが、これまた食わず嫌いだったようで試しに読んでみると結構読みやすく、遅読の私にしてみれば珍しく短期間で1冊読み上げた。

 読んだのは「下町ロケット」。きっかけはソニークラブから届いたポイント案内。それにはポイントの失効期限と、電子書籍で使えるポイント数が表示されていた。せっかくのポイントをムダにするのもと思い、取り敢えずポイント内で購読できる本を2冊購入。その1冊が「下町ロケット」で、もう1冊は浅田次郎の「柘榴坂の仇討」。

 言うまでもないが、いずれも小説。線を引きながら読んだり付箋を貼る必要がないから電子ブックでもいいだろう、どうせ無料だしと軽い気持ちで購入した。

 結果は当初予想した以上に読みやすく、「はまった」。
とはいえ10.1インチタブレットでは単行本を読む感覚に近く、どこでも気軽に読むというわけにはいかないから私の読み方には不向きだった。

 ピッタリなのは7インチサイズのタブレットだが、こちらは手放したので5インチサイズのスマホで読んだ。サイズ的にもちょうど文庫本を読む感覚で、就寝前の一時、スマホで読み進めた。続いて「柘榴坂の仇討」。こちらは短編なのですぐ読み終えた。

多才が故に落ちる罠

 で、さらに次に、は行かない。
ここで紙の本に戻ってしまった。
理由はない。ただ手持ちの文庫本も読んでおかなければと思っただけで、何冊か書棚から取り出した中で、猪瀬直樹の「日本凡人伝 二度目の仕事」を読むことにした。

 猪瀬直樹氏についてはいまさら説明の必要はないだろうが、先の東京都知事である。だが、それは彼の「二度目の仕事」で本来は作家。それもノンフィクションを中心とする作家である。なまじ政治に色気を示したばかりに晩節(?)を汚したが。

 こういう経歴を知りながら「二度目の仕事」を読むと実に面白い。
内容はインタビューで構成されており、最初の仕事で注目を浴びた人の、その後(現在の仕事)についてインタビューしているわけだが、なかなか突っ込みが鋭い。
よくそういうことを聞くよな、という質問もあるが、彼のインタビュアーとしての才能は素晴らしく、なまじ政治の世界に近付きさえしなければと、他人事ながら思ってしまう。

 好事、魔多しとはよく言ったものだ。足るを知っていればと思うが、他人のことは見えても自分のことは見えないものだ。人の欲望は際限ない。

 文中でそれらしきことにも触れている(指摘されている)のに、いざ自分のこととなるとやはり先人と同じ失敗をしてしまうようだ。

 ちょっと引用してみよう。その項のタイトルは「占い師--婦人国会議員第一号 杉田馨子(けいこ)女史の戦後民主主義の方角」

 杉田 あなた、財運はあるわね。
 猪瀬 そうお! おカネ貯まる、ハハハ。
 杉田 貯まるっていうよりもね、ウフフッ、遺産をもらう可能性のある星なのね。
 猪瀬 ハッハッハッ。あんまりカンケイないけどな。
 杉田 わかんないわよ。だってねえ、遺産たって親の遺産とは限らないのよ。
 (中略)
 杉田 欲もあるわね。物欲、案外深いでしょ。
 猪瀬 ない、ない。
 杉田 でも出てんのよ。ま、とりあえず注意するってことは、あまり手を広げないことね。現状を充実させるようにつとめることね。それから、そうですね、東南とか東北ね、あなたが寝泊まりしてるところからの。そこからのいろいろなうまい話を持ってくる人があるでしょ。初めての対人関係は注意すること。

 上記インタビューが行われたのは1983年11月だから、いまから32年余り前。当たるも八卦当たらぬも八卦の世界だからと一笑に付すこともできるが、果たして杉田女史は見抜いていたのだろうか。とりわけ「あまり手を広げないことね」という女史の指摘は、その後の彼の人生を見ていると諫言だったように思えるが・・・。

 このインタビュー中、彼は二度に渡って自分に女難の相があるか尋ねているから、当時から色気はあったのだろう。
 もし、女史の諫めを聞き、政治の世界などに色気を示さなければと思うが、それは後の祭りというか、他人の要らぬお節介かもしれない。

 もう1点気になるのは彼の多少横柄とも思えるような質問の仕方だ。年長者には敬語とまではいわなくても、普通はもう少し丁寧な言葉遣いをするだろうと思うが、それがない。この本を彼が上梓したのはまだ40歳前である。そんなところに引っかかる私がおかしいのかもしれないが。