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栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

セブン-イレブン鈴木会長引退会見の違和感(3)

2016-04-13 12:26:43 | 視点
 まあ、これだけで結論を出すのは早すぎるだろう。では次の事実をどう考えるだろうか。
 康弘氏は新会社の社長に就任するとともにHDの執行役員にもなったのである。さらに14年12月、新設の最高情報責任者(CIO)に就任。

 繰り返すが、それまで右肩上がりの業績を上げてきたわけでもないのに、吸収合併された企業のトップにいきなり「抜擢」されたばかりか、その親会社の執行役員、最高情報責任者になったのだ。しかも最高情報責任者ポストは新設されたものだから、彼のために用意されたといってもいいだろう。

 客観的に見て、これを親の七光りと言わない人がいるだろうか。恐らくいないだろう。
 となれば、その先に見えるものは何か。どんなに鈴木氏本人が引退会見の席上で否定しようと、世襲を目論んだと勘ぐられるのは仕方ない。創業者でも大株主でもない、社員からのし上がった人物が世襲を目論んだとすれば一大事。創業者であり大株主の伊藤名誉会長が鈴木氏の人事案に賛成しなかったのは容易に想像がつく。

ご都合主義的な「資本と経営の分離」

 鈴木氏が多弁に説明し、HDの顧問を務める後藤光男氏(81歳)と佐藤信武氏(77歳)の両古参幹部が補足説明をしようとも部外者にはなんとも理解できないセブンイレブンのトップ交代人事。鈴木氏の引退会見の内容もさることながら、説明会場に首を揃えた面々が揃ってお年寄りなのも奇異に映った。
 コンビニエンス業界は流通業の中では若い業態である。すでに1線を退いた人々ではなく、次世代を担う若い世代が居並んで説明するならまだしも、80歳前後のロートル達の説明では繰り言にしか聞こえず、ますます今回の引退劇の真相を見えなくしている。

 それはそれとして鈴木氏の繰り言、いや失礼、説明で資本と経営の分離が言われている。井坂氏解任人事案の理由とは直接関係ないことであり、唐突な印象を拭えないが、これも先の「獅子身中の虫」発言同様、鈴木氏自身が納得できない個人的感情があったのだろう。以下、その部分を引用してみる。

 「くどくなりますが、私は資本と経営の分離を言ってきました。今、伊藤家の資本そのものは全体の約10%で、そのこと自体は経営に大きく影響するようなものではありません。けれども私は小売業、なかんずくフランチャイズビジネスについて考えると、そのあたりをきちっとしておかないといけないと思っています。その見本を作ることが大きな使命だと思っていますし、何もそれはセブンイレブンだけの問題ではなく、日本のコンビニを総反対された中で作ってきたという私の使命からしても、資本と経営の分離をきちっとすることが、重要だという思いがあったからです」

 納得。このこと自体に異論はない。その通りだと理解する。ただし、今回の騒動発端のセブンイレブン社長交代人事案否決の最後のトリガーが伊藤名誉会長の反対表明だったことを考え合わせると、その通りと一般論で頷くわけにはいかない。
 資本と経営の分離の大原則に従い、オーナーは経営(今回の場合は人事案)に口を挟むな、と言っているように聞こえる。

 とにかく、この人物、一言多いようだ。「お恥ずかしくて申し上げられない」とか「くどくなりますが」と断りながら、くどくど、ネチネチとよく語る。そのくせ肝心な人事案提出の理由についてはあやふやなまま語らないが。

 早い話、会社を私物化したかったとしか思えない。でなければ社外取締役2人を加え4人で構成される「指名・報酬委員会」で5時間も議論し、賛成に至らなかった人事案を取締役会に再度提案するなどという強引な手法を取る理由が見当たらない。

 俺が言うことに反対するはずがない、と考えていたのが案に相違して5時間も議論を尽くすことになり、最後は折れてくれるどころか、最後まで決着がつかず、挙句の果てには取締役会に強引に諮ったところ、ここでもよもやの否決。「ブルータス、お前もか」の心境だったのではないか。

 「資本と経営の分離」という言葉をこのような形で使うべきではないだろう。むしろオーナーでもないのに、長期に渡って君臨し続けた自身の姿をこそ恥ずるべきだったのではないか。







セブン-イレブン鈴木会長引退会見の違和感(2)

2016-04-13 12:26:30 | 視点
 在任期間の長さを問題にするなら鈴木会長の在任期間はどうだろう。鈴木氏がセブンイレブン社長に就任したのが1978年、同会長には1992年に就任しているから、社長時代から考えれば37年余り。会長時代から数えても23年余りトップとして君臨しているわけで、自らの在任期間を問題にしないのは明らかに片手落ちだ。

 鈴木氏はオーナー経営者ではない。にもかかわらずこの在任期間は問題だろう。それとも業績を上げてきた実力者だから許されるのか。もし、そうだとすれば井阪氏の場合にも同じ判断基準が適用されなければならない。

 こう見てくると、鈴木氏が井阪氏に退任を迫る根拠が非常にあやふやなことに気付く。仮に「君は7年もセブンイレブンの社長を務めてきたから、ここらで後進に道を譲り給え。私も長年、会長職に留まり過ぎたので、この際退任する」とでも言うならば、退任が遅すぎたきらいはあるが、それでもまだ筋が多少通る。
 だが、そういう流れでもなかったようだ。とすれば本当の理由は何なのか。


多弁は真の理由を覆い隠す

 鈴木氏の引退会見が異常なのは既述したように古参幹部に援護射撃を頼んだことと同時に、多弁すぎることだ。むしろ女々し過ぎるほどで、くどくどと経緯を事細かに話している。そして話せば話すほど、なぜ、井阪氏を辞めさせることにそこまでこだわるのか、もっと別の理由があったのではないかという疑念を生じさせる。

 今回の引退会見を見聞きした人に、そのような疑念を生じさせたこと自体がすでに失敗であり、鈴木氏を名経営者という名声から遠ざけることになるだろう。

 それにしても話の内容がくどい。まるで自身の方が引退を迫られたような感じを受ける。
 くどいのは話だけでなく、井阪氏に退任を迫ったやり方にもくどさというか、執拗さを感じる。セブンイレブンとは直接関係ない井阪氏の父親にまでアプローチし、息子に辞めるよう説得を頼んでいるのだから尋常ではない。

世襲画策を疑われた背景

 鈴木氏の会見で気になる箇所、奇異に映った箇所がいくつかあった。一つは「お恥ずかしくて申し上げられないけれど、獅子身中の虫がおりまして、色々なことを外部に漏らしていたのは事実です」と語った部分だ。

 「獅子身中の虫」って何? 井阪氏解任の件を創業者であり大株主の伊藤雅俊名誉会長に連絡した人物のことだろうか。「お恥ずかしくて申し上げられない」なら喋らなければいいと思うが、なにかよほど個人的感情があったに違いない。
それにしても、この一言は全くの余分。この一言で過去の名声を自ら地に落とした。

 今回の井阪氏辞任要求の背景に、鈴木氏次男への世襲画策があった--そう勘ぐる向きは結構多いようだ。実際、株主である米投資ファンドのサード・ポイントは3月末に「人事案は鈴木氏が次男康弘氏(51)を後継にするためだ」と批判する内容の書面をセブン&アイ・ホールディングス(HD)に送っている。

 これに対し鈴木氏は引退会見の席上、記者の質問に対し次のように述べている。
「何で息子の話が出てくるのか分かりません。社内でも飛び交っていると聞きまして、ビックリ仰天なんですよ。そんなことを言ったことはありませんし、息子もそんなことを考えたことはないと言っていますし、ましてやセブンイレブンに直接タッチしたことがありません。技術屋ですから、そんなことは考えていません。それなのに、まことしやかに社内で言われているのは、いかに私の不徳の致すことかと思っています」

 この言葉を額面通りに受け取る人は本人以外にいないのではないか。なぜなら、この噂は1年前から囁かれているからだ。火のないところに煙は立たず、と言われるように、これを根も葉もない噂と一笑に付すには少し無理があるかもしれない。

 そこで鈴木氏の次男、康弘氏のセブンイレブングループ入社前後の経歴を見てみよう。
 1999年8月、書籍のインターネット通販会社イー・ショッピング・ブックスを設立し社長に就任。
 2009年12月、セブン&アイHD傘下に入り、セブンネットショッピングに社名変更。
 14年3月、セブン&アイHDの中間持ち株会社セブン&アイ・ネットメディアがセブンネットを吸収合併。康弘氏、社長就任。

 企業動向に詳しい読者の中にはこの段階で「おやっ」と思われるに違いない。そう、吸収した側ではなく、吸収された側の社長が吸収合併されてできた新会社の社長に就任したのである。

 一般的には吸収した側が社長に就任することが多い。ただ、今回のようなパターンもないわけではない。ただ、超低空飛行を続けていた会社の社長が新会社の社長に就任する例はないか、あっても極稀だろう。

 業績が悪化している会社のトップを新会社のトップに据えて指揮を任せてうまくいくと考えるのはよほどのお人好ししかいないだろうから。そういう意味では当時のセブン&アイ・ネットメディア、あるいはHDはよほどのお人好しだったのだろう。でなければ、なにか遠慮しなければならない事情でもあったのだろうか。







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セブン-イレブン鈴木会長引退会見の違和感(1)

2016-04-13 11:56:07 | 視点
 4月7日、流通小売業界を激震が襲った(というほどでもないか)。セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)が突然、引退を表明して記者会見を行った。その会見内容を詳細に知るや、上場企業のトップとも思えないお粗末な内容。ひと言で言えば大いなる茶番。名経営者、カリスマ経営者との名声(?)を欲しいままにした鈴木氏が晩節を汚したというか、見苦しさを露呈した会見だった。
 その見苦しさたるや大塚家具創業者の会見以上で、まさに二番煎じ。「二度目は喜劇」ならぬ茶番にほかならない。よくもまあここまでと呆れ返った。

二度目は茶番劇になる

 両者の会見は実によく似ている。大塚家具創業者の場合、子飼いの部下を何人も引き連れて会見したが、鈴木氏も当初3人での記者会見の席に急遽、古参顧問2人を含めた5人を引き連れての会見となった。古い、子飼いの部下(イエスマン)を引き連れての大名会見で、両者に共通しているのは「俺はこんなにも幹部から慕われている」という思いであり、それを外部にひけらかすことで「世論」を味方に付け、状況を変えたいという意識である。

 引退会見なら一人で堂々とやればいい。それなのに部下を引き連れて行わなければならない所にすでに時代錯誤、見苦しさがある。
 鈴木氏は模倣すべき相手を間違えたようだ。模倣すべきは大塚勝久氏ではなく大塚久美子社長の会見の方だ。正々堂々と一人で淡々と会見を行うべきだった。

「どうやら私の時代は終わったようだ」「Old soldiers never die, but fade away.(老兵は死なず、皆の前から消えていくが、私の魂=理念は皆とともに生き続ける)」とでも言って静かに去れば、賞賛の嵐に包まれただろうに。

 まあ、内幕を暴露した、なんとも見苦しい引退会見だったが、引退時期は5月の株主総会までの間と漠然としているし、取締役会で鈴木氏主導の井阪隆一社長退任人事案が否決されはしたものの、「これは井阪君が信任されたということではありません」と述べるなど、株主総会までの間にまだ一波乱二波乱はありそうな(起こそうとしている)気配だ。

 それはさておき、要領を得ない今回の「騒動」だが、鈴木氏の会見内容から問題点を探ってみよう。

問題は業績か在任年数か

 「騒動」の発端はセブン-イレブン・ジャパン(以下セブンイレブン)の社長交代人事である。鈴木会長が井阪隆一社長兼COO(最高執行責任者)に退任を求めたのだが、その理由は「セブンイレブンの社長は、これまで最長で7年間の任期」という暗黙の了解(慣習)で来ているから、井阪社長も在任期間が7年になったから辞めろというもの。

 これは大手企業ではよくあることで、在任期間5年で交代という例も多いから、このこと自体はあながちおかしいとはいえない。井阪氏もそう考えたのだろう。鈴木会長から辞任の打診を受けた時、一度は了解したようだ。ところが、その後態度を一変させ、辞職拒否に動いたことから両者の確執が始まり、辞めろ、辞めないの騒動に発展した。

 井阪氏の会見がない(執筆時点)から以下は憶測になるが、鈴木会長が井阪氏を辞めさせようとしたのは単に在任期間の長さだけではなく、何か他の意図がありそうだと感じ取ったからではないだろうか。

 一般的にトップが交代するのは不祥事か業績悪化の責任を取って辞めるパターンと、業績がいい時期に交代のどちらかである。後者の場合はバトンタッチが会社の業績その他に影響を与えないと思われるからであり、スムーズなバトンタッチはこの時期に行われることが多い。

 では今回の社長交代はどちらに該当するかと言えば明らかに後者である。井阪氏が社長に就任して以降、好業績を続けているわけで、スムーズに後継にバトンタッチするには絶好のタイミングといえる。
 ただし、この場合、後継は若返るのが一般的で、逆の場合は業績悪化等の責任を取って辞める場合に見られる程度である。

 今回の人事案で挙げられた後継社長候補は古屋一樹副社長。井阪氏が58歳なのに対し、古屋氏は66歳。これでは若返りどころか逆である。ちょっと待って、と思うのが普通だ。
 これってもしかするとショートリリーフ? その先に待っているのは何? と井阪氏が考えたとしてもおかしくはないだろう。同じように感じた人は株主の中にもいたようだが。




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