アキバのコアなラーメン屋「マゼル」は昭和の面影が残る古臭いビルの1階にある。
タイル貼りのいかにもというビル。「マゼル」でラーメンを食べ終え、さて会社に帰るかと視線をあげると、生ビールのタンクやホッピーのケースが重ねられて、酒場の雰囲気が漂うエリアを発見した。
見に行くと、「アキバの酒場」と書かれた横断幕がある。
韻を踏んだ店名。「へぇ、おもしろいな」。そのとき、ボクはそれしか感じなかった。
その酒場が立ち飲み屋だということはその後、何かのきっかけで知った。
早速行ってみようと思った。今まではすっかりその店の存在すら忘れていたのに。
「アキバの酒場」はものすごかった。店が狭く、店舗の外、つまりビルの廊下にまで人が溢れて酒を飲んでいた。
店の印象は思っていたものと違っていた。てっきり、「萌え~」な酒場かと思っていたが、そうではなかった。
朱筆の殴り書きで、壁にはこう掲げられていた。
「酒を呑め!魚を喰らえ」と。いきなりカウンターにパンチをくらったみたいだった。ずしりとくる酒飲みへの叱咤。メイドやJKにのぼせ上ってはいけない。そんな戒めのような貼り紙である。
生ビールを頼んだ。
お姉さんに。このお姉さんが、すごかった。ちゃきちゃきなのである。駅はアキバだが、ここも神田の端くれ。そのお姉さんが神田の江戸っ子かどうかは知らないが、とにかく十数人に及ぶ、満員の店内を一人で切り盛りしている。
店員が店の空気を作る。このお姉さんを見てそう思う。それは空気と言い換えてもいいし、土壌や風土と言ってもいい。店員の振る舞いがリズムを作り、それが客にも伝播し、そして店の空気を作る。その空気が文化に変わっていく。だから、だらだらした店員は客もルーズになる。だから、そこは店員と同類の溜まり場になっていくのだ。
お姉さんのちゃきちゃきの動きが素晴らしい。このリズムや波長についていけない人は、恐らく次の来店はないだろう。そのちゃきちゃきぶりは清々しいという類のものではなく、むしろ少し鬼気迫るものがある。だから、少し怖いし、そもそも声をかけるタイミングが難しい。
さて、頼んだ「生ビール」が来た。一番搾り。380円。
つまみは「七種の煮込み」の大。これも380円。七種との触れ込みだが、どうやら均等には入っていない。だから、数えたところ7種類の部位は確認できなかった。基本はシロである。スープは味噌ベースのこってり系。汁が少なめが特徴のようだ。
ビールを秒殺。いよいよ日本酒に。
日本酒のラインナップがすごい。
「開運」に「上亀元」。「七田」。いやはやビッグネームが続く。酒も日替わりで代わる様子。
さて、何を飲もうかなと思って熟考していると、「おや」とある酒の名前に目がいった。
「作」があるじゃないか。
「作」と書いて「ザク」と読む。なんだか、アキバらしくない酒場で唯一アキバらしい部分を見つけてしまった。
ガンダムファンに愛される酒。「作」。三重県鈴鹿市、清水清三郎商店の酒。量産型ではない特別な酒「作」。
もう、これしかない。1合が500円。
燗酒をお願いすると、「セルフでお願いします」といわれた。
店の片隅にどうこが置いてある。温度計も備えてあり、本格的だ。そこで、自分で好みの温度に仕上げるらしい。早速やってみた。難しいことはない。
「魚を喰らえ」とあるので、「二点盛り」を頼んだ。
1点は失念したが、もうひとつは「こち」。淡白だがうまい。「作」によく合う。
アキバでこんな本格立ち飲みに出会えると思っていなかったから。妙にうれしい。
狭い店内にトイレはない。
トイレはこの昭和のビルの地下にある共同トイレを使用する。あ~いいな。この雰囲気。
絵になる。絵になる。この界隈、隣町の神田平河町には古いビルがたくさん残っている。アキバらしくないもうひとつのアキバ。萌えないアキバ。
いや、この古いビルと酒と肴、そしてちゃきちゃきのお姉さんに、我々酒飲みは萌えている。
アキバ近くでは好きな立ち飲みです。
アジフライ美味しいです。
昭和通りを越えると
ハードなロックでブルースな「おかめ」
いい雰囲気で好きです。
「おかめ」の壁に貼られているチケットやLPレコードは貴重なものばかり。あれはすごいです。