
「HUB」にて、慎ましく飲んでいると、N藤君は、ボクにこう言った。
「立ち飲みに行ってみたいんですけど」。
意外な言葉だったけど、実はそんな驚きでもなかった。思い起こせば、歴代の新人を「たきおか」に連れていった。若い奴がアメ横の立ち飲みに興味を示すのは、なんら珍しいことでもないと思う。
今回も「たきおか」の1号店に行ってみるか。
「たきおか」には、立ち飲みの醍醐味の全てがあると言っていい。雑然性、おっさん度、賑わい。キャッシュオンデリという独特の支払いも立ち飲みならではだ。
ボクらは「たきおか」に入り、適当なテーブルにポジションした。カウンターは既にいっぱいだったからだ。N藤君は、少し戸惑っている様子だった。
まずは「ホッピー 白」セットから。そして、「たきおか 」1号店オリジナルの辣油入り「煮込み」と「ポテトサラダ」をオーダーする。
N藤君は、何か言っているが、彼の小さい声はほとんど聞こえず、店の喧騒にかき消された。ただ、満足そうな顔をしているのは確かだった。
N藤君は、「ホッピー」を飲むのも初めてだったし、そもそも、その麦芽飲料すら知らないようだった。
「なんですか、これ」。
ボクは一通り、説明した。けれど、彼は「ホッピー」をおいしそうには飲まなかった。
ボクは、今回で会社の新人を「たきおか」に連れてきたのは3回目を数える。それで分かったのは、彼ら、彼女らは、おっさん文化に興味津々であるということ。そのおっさん文化は社会人として避けては通れないものであることを感じているようだ。
かつてなら、新人はわざわざ頼まなくても、自然に大人の世界を学べるようになっていた。会社の先輩が否応なしに、酒場に連れて行ったからだ。それはある意味、社会人としての通過儀礼だった。だが、今はもうそんな時代ではないらしい。あらゆるものが世代間で断絶しつつある。
酒場だけじゃない。マナーや常識など、彼らは先輩の振る舞いを見て、社会人になっていった。
ジェネレーションは断絶しつつある。いや、もはや断絶している。
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