
千住大橋駅の改札をくぐると聞こえてくる彼の唄。この日は僅かワンセンテンスで止まった。改札から数メートルの距離に、角打ちがあったから。今夜はもう、ここにしないと。一年後もこの店があるとは限らない。そして再び歩きだすと、また彼の唄は始まる。
♪こんな仕事は早く終わらせてしまいたい。まるでボクを殺すために働くようだ♪
駅を離れ、やっちゃばの近々を歩くと、唄はユニゾンになる。本当である。自分の心の中に流れる「太陽の瞳」に彼が歌ってくれるのだ。それが嬉しい。だから、毎年ここに来てしまうのだ。
さて、手を合わせて、今年はとんぼ返り。千住大橋の駅に。「荒井酒店」の暖簾をくぐった。店舗の左手が角打ちコーナーである。角打ちコーナーに行き、奥のレジに行くと、まず酒屋でチケットを買ってきて、と言われた。なるほどチケット制か。
1,000円できっかり1,000円のチケット。100円のサービスはなし。チケットを持って角打ちのカウンターに。「生ビール」はたったの300円。ちなみにビールは「スーパードライ」。つまみは「チーズ&クラッカー」(200円)をチョイス。隣にいらつしゃるご婦人から、ポテトチップスのお裾分けをいただいた。
店内には4人の客がいたが、皆さんご常連のようだ。その皆さん、若い女性もいれば、野球帽を被った近所のおっさんまで。多種多様な人がいる。自分もその輪の中に入れてもらった。確実に違うのは、駅の隣にある、立ち飲み屋の「八ちゃん」とは客層が違うこと。一般的に考えると角打ちの方ががらが悪いような気がするが。
「生ビール」から日本酒にスイッチ。グラスにけっこうなみなみとついでくれる。銘柄は失念。これで400円。
チケットはこれできれいさっぱりなくなった。飾らず浮かれず、実に地味な角打ち。田原町の「フタバ」とは違うけど、清潔で好感が持てる。
「生ビール」は確かに安い。でも、他は高かった。だから1,000円使ってもまだ満足できなかった。
帰り際、野球帽のおっちゃんに、こう尋ねられた。「ここには仕事で来たの?」
「まぁ、そんなもんですよ。一年に一回」。
「たった一回きり?」
「えぇ、来年もまたここで会いましょう」。
そう言い残して、店を後にした。